第21話 我らは暴力ゾラ盗賊団

 師匠がアリシアを追いかける理由を知ったので俺もその手伝いをする。


 別に師匠が助けるから俺も助ける。と、は思ってなくてアリシアは大事な友人だし俺も助けたい。


 確かにゲームでは主人公であるクウガが回復も覚えるし、変だとおもったんだよ。

 初期の仲間で炎と聖属性があるだけで、20歳の時は初期の回復魔法しか使えないし、ステータスも弱い。

 15歳の頃あんなに強かったって見たのにだ。



「何をブツブツ言っているのじゃ?」

「え。ああ……師匠は馬乗れないんだなぁって事を」



 ゲームの話を師匠してもしょうがないので先ほどの事を師匠に話す。


 フユーンの街まで戻って来たはいいが、アリシアを追うと言う事は実質クウガを追う事になる。


 しかしクウガ達は既に馬車で移動している。

 じゃぁ俺達も馬車に乗ってとなるはずだが、現在は街道をとぼとぼと歩いている状態だ。


 なぜかって?

 例の騒ぎで馬車も馬も足りないからだ。近隣の街に報告しにいったり先走って逃げた奴とか定期便の一次中止、調査隊の使う馬などなどで一般人は現在馬車屋を使えない事になっていた。


 当然スタン家を追放された『一般人』の俺も馬車は使えない。

 実家に帰って馬でも借りようかと提案した所『実は乗れないのじゃ』と師匠はしょんぼりしていた。



「そんなドアホウは乗れるのじゃ? 馬はすぐに噛んでくるのじゃ、蹴ってくるしのう」

「乗れますよ」

「………………」



 転生した瞬間は乗れなかったが、流石に5年もあれば多少は乗れる。

 アンジュやカールに頼み込んで教わった。

 それを見たスゴウベルも必死に練習してたのを思い出す。



「何か便利な移動魔法とか師匠は覚えないんですか? 空中浮遊とか翼が生えるとか」

「そんな便利な魔法覚えていたら転移の門なんぞ使わんのじゃ」

「確かに」



 まぁでもここで急いでも仕方がない。

 師匠いわく、アリシアが無理をし続けても今すぐに死ぬ。と言う事はないらしい。


 俺が師匠を足止めしたせいでアリシアが死ぬ。って事が無くて良かった…………本当に良かった。

 間に合わないのであれば師匠を馬にくくり付けてでも……あれ馬と師匠と俺と縄。


 あっ!



「ああああああああああああっっ!!」

「のわっ!? な、なんじゃ!?」

「いや。スタン家で馬を手配して、こう俺が先に乗って俺の前に師匠が乗る感じで腰を縄で縛って進めばよかった。と……そうしあらあっちこっち触りほうだ……いえ、なんでもないです」



 師匠は構えていた杖を瞬時に消した。

 普段は見えないのに攻撃になると手の中にある。



「まったく……ドアホウの頭の中はそんな事しか考えて無いのかのう」

「健全な青年なので、それよりもしかして魔法の収納ボックスアイテムボックス持ってます?」

「ほう、気づいたのじゃ」

「そりゃまぁ……手品みたいでしたし」



 ゲームでは定番のアイテムボックス。

 一定の物であれば大きさ関係なしに持ち運べるという商人殺しのアイテムで『マナ・ワールド』の中でもある事はある。


 一般入手が出来ないだけで古代遺跡や高難易度ダンジョンのレアお宝。ちなみに多分クウガは旅立つ時に教会のシスターから『どうぐ袋』として貰っているはずだ。


 中身の容量によって金額も違うが武器10本ほど入る袋であれば金貨100枚。と言う所だろう。



「便利そうですよね。俺も欲しいけど中々」

「基本出回らないからのう、ワラワのも小さい奴で、じゃが中々便利なのじゃ」

「しかし暇ですね」

「街道しかないからのう」



 歩くしかないのである。

 これが馬車であれば乗っていれば寝ててもつくが、徒歩は歩かないと絶対につかない。


 俺の読んだ転生漫画では転生者が車を開発したりしたが、似たような案は出来るが流石に車までは無理だ。


 仕方がないので師匠を視姦しながら適度な距離を取る。


 数歩前の師匠はフードを取り三角帽子をかぶってはゆったりと歩いている、大きい胸と尻が揺れて最高である。


 その師匠が突然振り向いた。



「チラチラとじゃな」

「無理ですって師匠の体がナイスバディすぎるんです!」

「ドアホウがワラワを見てるのは知ってるのじゃ、その後ろ。まさか気づかないというのじゃないのな?」



 ああ、あれか。


 俺達の後ろを数人の男が一定の距離を保って歩いている、俺達が止まるとそれらも止まっていたのを先ほどから確認していた。

 数はざっと6人ほど。




「偶然一緒の旅仲間では」

「抜き身の剣を持って距離を詰めて来てるのう」

「男の子には素振りしたい時があるんです」

「旅をするにはうつ向いてる1人を除いて全部年取ってるの」

「自分探しの旅人の集団ですかね」

「本気で怒るのじゃ」

「冗談です。場所的にと思いますけどね」



 フユーンの街周辺にいるゾラ盗賊団、ゲームではクウガが来たときにはフユーンの街は悪役貴族がのさばっていた。

 当然俺の事なんだけど、その配下の一つがゾラ盗賊団である。


 クウガは街で盗賊団に襲われている少女を助け、その流れでゾラ盗賊団を壊滅する。

 助けられた少女はなんと、ゾラ盗賊団の団長ゾラの一人娘ノラ。街が平和になると今後は義賊として新生ノラ盗賊団としてフユーンの街で活躍する。というのがミニクエストである。



「ドアホウ、少しは上がったと思う実力を知りたいのじゃ。まさか負けるって事はないじゃろうな。そもそもアリシアとの練習試合でしかドアホウの力を見てないのじゃ」

「どうでしょうかねぇ、相手が俺より強かったら普通に負けますよ」

「緊張感もないのじゃ」



 さて……地下下水道では戦わないし見せるつもりもなかったけど、師匠が俺の実力を知りたい。というのであれば少し本気を出そう。



 ――

 ――――



 俺は足を止めると大きく手を振って男達に合図する。

 一瞬戸惑う男達は俺が笑顔で手を振っているから顔を見合わせていた。


 6対1

 うん。普通なら負けるよ? 俺は剣だって抜刀してないし。



「おおい! まったまった」


 俺がヒゲのおっさんに話しかけるとヒゲのおっさんはぎこちない笑顔で俺に手をあげる。


 手にはしっかり剣を握っているからあぶないのなんの。



「よう。兄ちゃん! さっきから行先が同じだな」

「ええ。先ほどから後ろにいたので、どうせなら一緒に。と思いまして……ひい。ふう。ええっと6人で全員ですか?」


 別のひょろっとした男が「6人ならどうなんだ? まさか戦うのか?」と質問してきた。



「いえいえ、盗賊団とかじゃないんですしいきなりは戦いませんよ。俺だって剣を出してないでしょ? ほら皆さんも剣をしまってくださいよ。連れがですね、せっかくなら夕飯も一緒にと。先に立っている人が料理上手なんですよ。材料の調整で全員分の人数を確認してこいって」

「ほう……やはりアレは女だな」

「はい。女性です。胸もお尻もいい感じですよね? あまり見ると怒られちゃいます」



 俺が本当の事言うと殺気を放っていた長身の男がにやりと笑う。



「ああ……俺達は6人だな」



 うわ……その言葉ととにも5人は俺をかこってきた。

 1人背の小さい奴は顔が良く見えない……まだ子供だな少し震えていて後ろでぼーっと立っている。


 わかってるつもりでも、こういう盗賊団に子供がいるとゲンナリする、生きていくには仕方がないんだろうけどさ。



「ええっと……襲うのであれば単刀直入に言います。の人達ですよね引いてもらえると助かります。盗賊稼業よりは冒険者になって地下下水掃除したほうが儲かりますよ」

「なっこいつ!?」

「やっちまえ!」

「剣を抜く前に!!」

「いやっほおおおおおお」

「女、女、女!!」



 子供の1人を除いて俺に切りかかってくる。

 ちょっとの傷でも死ぬほど痛いし場所によっては少しの傷でも本当に死ぬ。


 回復の魔法が使えるからと言って唱える前に死ぬことも。



「…………………………水龍」



 俺は完成された魔法をイメージしながら短く短くした詠唱をした。


 俺の体を包み込むようにあふれた魔力の水はゾラ盗賊団を一斉に流し飛ばした。周りの水が一つに固まると首の長い魔法で出来た半透明の水龍が頭を上げる。


 大きさは俺の約5倍。

 大きな口を広げ流し飛ばしたゾラ盗賊団を飲み込んでいく。


 水龍の中はわずかな空気しかなく飲み込まれた盗賊団は必死にもがくがもがくほど出れない。



「驚いた……」



 師匠の声が聞こえ振り向くと既に横にいた。



「あれ。師匠……語尾の可愛い『のじゃ』は」

「驚いたのじゃ」

「いうとおりに蹴散らしました!」

「本物のようじゃな。この若さで……東方術水龍陣をしかも詠唱が短すぎる、どこかに魔法紋を刻んだのじゃ? いやドアホウの体からはそのような魔力の流れは見えないのじゃ。体内の魔力よりは周りの魔力が消えたのじゃ。反例の法則なのじゃ? いや……」

「師匠ー?」

「っと……本気で驚いたのじゃ。とりあえず中の奴らを放り出せ、盗賊団など何人も人を殺しているだろうに死なせてもいいのじゃが……」



 師匠の言葉に水龍の中にいるゾラ盗賊団のおっさんたちが必死に首を振る。中にはもうダラーンっと浮き始めている奴もいた。

 声は聞こえないが『助けて』『助けて』と幻聴が聞こえてくる、俺も夢におっさんの顔が出る前に魔法を解除。



「っと。解除っと」



 パチンと風船がはじける音とともに水龍が消え、ゾラ盗賊団のおっさんが地面にまた流される。

 魔法の水は空気中に触れ地面にしみ込んだかと思うと直ぐに乾燥して消えていった。



「じゃ、そういう事で。その……俺が言うのもなんだけど悪い事はほどほどに、いよいよ困ったら……スタン家ってわかる? フユーンにいる貴族の。そこのスゴウベル当主代理かカールって執事かアンジュってメイドにこの手紙渡して、ギリギリ食べるだけの仕事はくれると思うから」



 俺は手紙と自分の印と名前を書いておぼれウンしか言わなくなった盗賊団のおっさんの前に置いた。



「じゃぁ師匠いきましょうか」

「そ、そうじゃな……」



 トボトボトボと3で歩き出す。

 先ほどから師匠が俺の体の事を色々と聞いてきてはブツブツと呟いている。



 朝から歩いたのにもう昼だ。

 近くに休憩できそうな場所で昼と野営地の準備をとる。これ以上進んでも暗くなるから。と言う事らしい。


 師匠の出したテントを俺が張って、小さい子供がたき火のマキを集めて、師匠が雷の魔法で着火させた。


 これまた師匠が持っていた携帯食料を鍋にいれコトコトと煮詰める。


 お椀を3個にわけて、それぞれの手に渡った。



「じゃ」

「いただきます」

「い、いただきます……」

「お、案外美味しいっすね師匠、君も熱いから気をつけってだれえええええええ!?」

「やっと突っ込んだのじゃ、先ほどからずっとついてきたのじゃ」



 俺が驚きの声を出すと着いてきた子供は俺達に頭を下げる。



「は、初めましてノラといいます」

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