第19話 師匠おおおおおおおおおおおお!!!

 異世界にも反省の時は正座ってあるんですね。


 ふと5年前にも同じ事を思ったような気がする、現在の場所はフユーンの共同墓地。


 正確な時間はわからないけど夜中、地球で見た月と違う大きな月が空に浮かんでいるから。


 そして目の前には鬼がいた。


 もとい、魔女メルギナス。

 『マギ・ワールド』で魔女は忌み嫌われているのでメルと言う偽名にならない偽名を使って職業は魔法使い。と、言う事にしてる自称年齢不詳のメル師匠である。


 その特徴的な銀色の長髪は変わっておらず、その瞳も同じ色でお美しい。

 『マナ・ワールド』では隠しキャラで年齢不詳の人間に擬態したエルフのような姿が設定資料にある女性。


 で超怒ってる、俺は地上に吹き飛ばされた後に『正座しろなのじゃ!』と言われその姿勢のままだ。足がしびれて来た。



「ではなんじゃ? ドアホウよ目の前にワラワの尻があったから触ったと?」

「ドアホウ? どこにそんな奴が、いるのは俺であって」



 薄暗い墓地をキョロキョロすると師匠が手をバチバチさせている、軽いジョークなのに魔法を飛ばそうとか。



「冗談ですって! いつも小僧とかいうのに呼び方が変わって」

「ドアホウじゃドアホウ」

「親しみこもっていいと思います。で尻の話でしたっけ、もちろんです! この壁尻になった師匠はどんなパンツはいているのかなって」

「ええい! 正座を崩すなのじゃ」

「え。崩していいんですか?」

「ドアホウ! 崩すな。と言っておるのじゃ」



 駄目なのか。



「ああ、もうどこから突っ込めばいいのじゃ……」

「代わりに突っ込みましょうか?」

「黙るのじゃ!」

「………………」



 命令されてはしょうがない。

 師匠は俺の周りをぐるぐるぐると回りだす。


 回る師匠をじっとみていると、師匠が両腕を組んでは震えだす、寒いのだろうか?



「もうええ、そうしかんされると怖いのじゃ。喋って良いぞ」

「では、お久しぶりです師匠!」

「………………ほんっとかわらんのう……」

「そうですか。大きくなりました」

「背は高くなったようなのじゃが、中身は変わらんと言う意味じゃ。そもそも転移の門なんぞ、なぜ小僧が。いや5年前からお主は変人だったのじゃ。いやより変人さが増したのじゃ」



 5年前から俺の事を気にかけてくれたとは、流石はレアキャラな魔女メルギナスである、攻略しがいがあって嬉しい。



「師匠の弟子たるもの何時までも足手まといは嫌ですし」

「そのドアホウは…………5年前にアリシアからの告白を断ったらしいのう」



 …………何で知ってるかなぁ。

 5年前に師匠と別れの話をした後にアリシアに「一緒に行こうよっ……好きかもだから」て誘われたのだ。



「アリシアはフラれたーって何日も泣いていたのじゃ」

「ソ。ソウデスカ」

「で、まぁええわい……転移の門を知ってるのはもう聞きたくもない。転移門は壊れてしまったし近くの転移の門は確かのう……」

「ええっと5つぐらい先のゴールダンの共同墓地っすね」

「…………」

「…………」



 師匠が黙るので俺も黙る。



「もうコイツは……」

「結婚しましょう!」

「ドアホウ!! どこをどう見てそうなるのじゃ!?」

「俺の知ってる物語はこう選択肢が二つでて1個は『結婚しましょう』もう一つは『血痕けっこん……殺人事件』という二つでして」

「そんな選択肢あるわけないのじゃ! もうええ、好きな所行くのじゃ……今回の事は不問としたすのじゃ。イネ、しっし、ぐっばいなのじゃ」



 ふむ。

 俺は正座を解いて立ち上がる。

 師匠は墓に座り下を向いてどうするかのう。とつぶやいていた。


 黙って師匠の横に座ると、師匠は1個墓をずれて座った。

 俺もその1個隣に座る。


 師匠はさらに1個ずれたので、俺も横に座りなおす。



「ライトニングフレア!!」

「あばばばばばばばばばばば!!」



 暗闇に閃光がみえると俺の体に雷が直撃した。



「ちっ死なないのじゃ」

「し、師匠。し、死ぬから。俺でも魔防より上の攻撃来ると死ぬから」

「どんだけ高いんじゃ!」

「さぁ」



 数値が見えないから何とも言えない。

 水属性で回復魔法の『生命の水』を覚えてから自分に攻撃魔法をあてて治癒の繰り返しをしていたので数値はわからないが、5年前よりは上がっている。



「何がしたいんじゃ小僧」

「師匠を攻略」



 これはもう5年前から言っている。

 師匠がジト眼になった。



「となると、アレなのじゃ? お主はワラワを攻略したらポイして次の女にいくのじゃ?」

「そんな勿体ない」

「勿体ないのじゃ?」



 そりゃそうだ。



「レアキャラであり、年齢不詳で歳をとりそうにない。ボインボインでたゆんした物体を下げて。ロリでもないのにのじゃ属性。しかも強いし、だらしない」

「誰がだらしないのじゃ!」

「え、でも衣服の片付けできませんよね。スタン家でもアンジュが脱ぎ散らかして。と、ぼやいていましたし」



 師匠は横を向くと口笛を吹く真似をした。

 真似であり音が出ていない。



「いやー可愛いですね」

「っ! ワラワを毎回おちょくりよってじゃの」

「それが仕事ですから」

「ライトニング……疲れた。魔力がもったいないのじゃ」



 そっと背中に回り「まぁまぁ」と言いながら肩をもむ、お? 触っても怒られない。

 師匠のうなじが見え、ちょっと触りたくなるのを我慢。



「マッサージは気持ちいいいのじゃ」

「そりゃ気持ちこもってますから」

「病気になりそうじゃな」



 なってたまるか。と突っ込むのはしない。



「で。師匠はどこに?」

「アリシアの事がちと心配でのう」

「弟子だからです?」

「前にも言うたかアリシアは知り合いの娘じゃ弟子以上の信頼を置いておる、ドアホウより上じゃ」



 まぁゆくゆくは聖女という珍しいジョブになれるし、それはいいんだけどそんな心配する事もないだろうに。



「でも師匠ってフェーン山脈に引きこもってるんじゃ?」

「それも知ってるのか、このドアホウは……」

「アリシアから聞きました」



 もちろん嘘だけど。

 ニワトリと卵がどっちが先と同じで別に大丈夫と思ってる。現にアリシアからも聞いたし。



「なんじゃ。もう会っていたのじゃ……絶対に会ってもドアホウには場所を教えるな。と釘を刺したのじゃがのう」

「ひどい」

「正直に言うのじゃ。ワラワからしたらドアホウは気持ち悪すぎるのじゃ」

「え、目付きは少し悪いって言われますけど普段から清潔ですよ」

「違うわボケ!」



 とうとう『のじゃ』が消えて怒り出した。



「ドアホウ、お主は……いややっぱいいのじゃ。そうですと言われたら世の中の終わりなのじゃ。どこまで……いや愚問じゃったな」



 うーん。

 困った。



「なんじゃ?」

「いや、本当に師匠が嫌であれば俺も考えないとダメなのかなって……でも5年以上も師匠を攻略するって目的で動いていたわけで、急にその目標がなくなると俺は何をして生きればいいのか……」

「…………そ、そのなんじゃ。いきなり死ぬとかいうんじゃ?」

「流石に二度も死にたくないですし……でもまぁその選択肢もない事も」



 俺と師匠はお互いに無言になる。

 俺としては隠しキャラの師匠を攻略したい、それは他のヒロインはクウガが全部とっていくし、横から俺が出て行くのも何か違うだろ。と思っているからだ。


 アリシアが『俺の事が好きかも』と言ってきてそれを断ったのもそう言う理由がある。


 とはいえ、師匠が本気で俺の事を死ぬほど嫌いであれば正攻法ではもう駄目だろう。


 催眠魔法や強制的に言う事を聞くような薬を探すしかない。

 『マナ・ワールド』にある事はあるけどイベント限定アイテムだし俺が取れるのか。


 いや、そんなので師匠を攻略しても何かか違う。

 


 他にそういうキャラはいるだろう。ここはゲームじゃない『マナ・ワールド』という現実なんだぜ! と頭ではわかっていても今から俺の好みと出会うのは中々に難しい。



「わかったのじゃ!」

「お?」

「ドアホウ。ワラワがドアホウの恋人を――」

「なってくれるですね!! ししょおおおおおおおおお!!!」

「ばっ。抱きつくな! 嗅ぐな!! や、やめ ライトニングバースト!!」



 視界が真っ白になった。

 昼と錯覚したのは一瞬で再び夜になった。



「あ、あぶな……」



 間一髪で離れてなかったらいくら俺でも無事であるがわからない。



「最後まで聞くのじゃ。ワラワがドアホウの恋人を見つけてやるのじゃ」

「え?」

「ドアホウだって若い女のほうがええじゃろうに」



 何か勘違いしてるけど、若い女性だけなら俺だって元貴族なんだし自分で探せるよ? …………言わないけど。

 言ったら師匠がまた離れていきそうだし。



「まぁ師匠のほうがいいんですけどね。では……一緒にいても?」

「どうせ、ついてくるんじゃろ? 諦めじゃ……ただし! ――――

「えええええ!」



 俺は師匠にいくつかの約束事を突き付けられた。

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