第18話 壁尻

 謎の宣戦布告をされた2日後、クウガ達は屋敷を出て行った。

 あれだけ俺を『殺す』と言っていたのに別れる前に『最後に握手しましょう』って笑顔がめちゃくちゃ怖かった。


 最近思うけど、確かに転生して見た目よりは年を取っていても怖い物は怖い。


 仮定の話でこういう転生した人物って転生前の記憶があるだけで精神年齢が肉体に引っ張られるイメージが強い、もしかしたらそのせいかも。


 年齢の事を伏せて出発前のアリシアに相談したら『クロウ君の怖いは怖いって思ってないよ。だって。あっ馬車が来たからいくね』とよくわからない答えを、詳しく聞く前に馬車が来たので別れた。


 さらに2日後。

 もう何もイベントは起きないだろう。と踏まえて俺もスタン家を出る事にした。


 持ち物はカバンを背負い中には衣服いふく数枚。いくつかに分けた金貨。旅人仕様の衣服、男の一人旅と言えばこんなものだろう。



「と! いうわけで。俺クロウベルはスタン家を出ます!」

「そこの門を抜ければお前は追放者だ……ちっさっさといけ!」



 悪態あくたいはつくけど門前まで見送りに来てくれるスゴウベル。


 ちょっと涙声なので、俺も少し泣きそうになる。



「お二人とも泣くぐらいでしたら家から出さない、出ないで、いいのでは? 別にエル様を探すぐらいでしたら貴族の身分のままでも良いとは思うのですが」

「…………」

「…………」



 冷静な指示をくれるのはメイド長のアンジュ。

 その手は考えていないわけじゃないけど……けじめみたいな物だし、それよりも手にはずいぶん古そうな剣が握られていた、身重なのに剣を持つとは何で?



「いや。そう冷静に返されると」

「なぁ……」



 俺とスゴウベルが顔を見合わすと「まぁいいですけど」とアンジュはその手に持っていた剣を俺に差し出す。



「え。旅の資金にくれるの? 売っていい?」

「売る!? 私の思い入れの剣を!? …………そ、そうですね古いですが金貨10枚ぐらいにはなると思います。どうぞ、

「クロウベル、お前……」



 アンジュの顔から表情が消えたというか、いつも表情が少ないのにさらに少なくなった。



「じょ、冗談だよ。これアンジュが持たせてくれた剣だ、大事に使うよ」

「……手入れはしております。本当に要らなくなったら売って構いません。……消耗品なのは間違いないですし剣にこだわって死なれると困ります」

「ありがとう……」



 あれだけイジメられていた事が嘘だったように俺とスゴウベルは握手をして、アンジュとはハグをして別れた。


 ここからは1人旅だ。


 師匠のいるスファート山脈。

 前にも考えていたけど、現代社会で言えば日本から北アメリカの距離。



「まぁ……普通は何年もかかるよ、普通は……」



 誰に聞かれる事もなく呟くと足早に歩く。

 

 街の地下に下水道、さらに地下には古代都市があったように

『マナ・ワールド』の世界はしっかり作り込まれている割に適当な部分がある。


 ゲームでよくあるような後半になるといきなり出てくる長距離移動手段。ってのがやっぱりあるのだ。


 魔石を使った飛行船、これはのちに行く帝国が極秘開発している移動手段で試作品をクウガが貰える。


 人語が話せるドラゴン、古代竜でクウガと戦い、クウガが勝利したために眷属にになり送ってくれる。


 クウガしか使えない移動魔法リターン、これは英雄というジョブが覚えるので、何で覚えるのか説明が一切ない、卑怯な。


 さらに短い距離であれば転移魔法陣。ダンジョンによくある罠である。



 などなど。

 探せば沢山あるのだ。



「さて、そんな中俺が行くのは~転移の門にいくか」



 さらに別の長距離移動手段、古代人が使っていた転移の門というのか世界のあちこちにある。


 ゲーム序盤では封印されているんだけど、後半に解除するキーワードをがあるのだ。


 俺だって師匠に徒歩で会いに行く。となったら何年かかるんだ……。

 むしろ師匠はどうやってスフィート山脈まで行ったのが、魔女だから飛ぶのかな。


 長年住んだフユーンの街をゆっくりと歩く、何人かの人物は俺を見ては頭を下げるので貴族なのを知っているのだろう。



「俺の輝かしい一歩はここからだ!」



 馬車屋の看板に入り、カウンターにいるおっさんと眼があった。

 転移の門へはこの近くであれば共同墓地にある。



「へい! 共同墓地行きの馬車に乗せて!」

「らっしゃい! 今日は店じまいだよ!」



 ………………2秒で終わった。



「え、なんで?」

「なんでって言われても墓地行きの馬車なんて、そんな都合よくねえよ」

「たしかに」



 仕方がなく徒歩で移動ととなった。

 墓地はフユーンの町はずれ、街道は整備されていて魔物は比較的すくない。

 出てくる敵もひざぐらいのスライムや、ちょっと大きい昆虫で大人であれば大丈夫。



 途中で魔物と遭遇したけど、流石に5年も訓練した俺が軽く叩くと逃げていった。

 元々死ぬ運命だったからなのか、修行して気づいた事は強さに上限がないというか訓練すればするほど力が増した気がする。



「あーステータスの魔法でもあればな……」



 ためしに唱えていても俺の目の前にウインドウは現れない。



「……歩くか」


 

 とぼとぼ歩き、歩き続け、さらに歩いて日暮れ前にやっと墓地についた。


 共同墓地、一応柵があってなぜか魔物は入って来ない。

 なぜなのかは俺も知らない、たぶん結界とかあるのかな。


 で、この一部の古い墓。それを動かすと地下に行けて転移の門があるのだ。


 誰もいない共同墓地の古い墓を動かす、ゲームと同じに様に簡単に動く。



「ふう……3年前と同じだな」



 俺とてぶっつけ本番で転移の門なんて使いたくない。

 3年前のちょっとだけ使った。


 深い階段を降りると小部屋があり照明もないのに明るい。真ん中に大きな額縁がある、絵は入っていなくて空洞だ。



「さて……ターン!」



 額縁がくぶちに手を置き、短い魔法を唱える。

 体の力が抜かれていくのは魔力消費だろう、仮にゲーム序盤でクウガがここに来た所で発動しない。という仕組みになっている。


 額縁の色が赤くなった、魔力が通ったのか高密度の魔力が額縁にの中へ無地の絵のようになる。



「師匠いまさわさわしに行きますねーっと」



 俺が一歩入ろうとすると、見ない何かに腹を蹴られ壁まで吹っ飛ぶ。

 防御も何もふい過ぎて間に合わない。



「ぐあ! いっ…………」



 背中を強打し目の前が真っ白になる……「癒しの水よ……」短い詠唱で空中に魔力の水が現れ俺の体全体を包み込む。

 数秒で消えると痛みが少し引いた。


 5年の修行で覚えた魔法の一つだ。


 聖属性のヒール系には負けるけど水属性だってちゃんと回復魔法ぐらいはある。

 気を取り直して前を見ると額縁から人間の足と尻が出ていた。



「のわああああああああああああああああのじゃああああ」



 !?

 小さい部屋に師匠の声が響く。

 俺は聞き間違いかと思ったが、俺が師匠の声を聞き間違えるはずがない。


 そして目の前に尻があった。

 これも見間違えるはずがない師匠の尻だ。

 もちろんズボンははいているが可愛いらしく少し大きめの尻である。



「く。なんじゃ。転移の門の故障なのじゃ!? 魔力が反発したのかのう? 入る時は青だったはずじゃ。で、出れないのじゃ!?」

「すうぅーーーー」

「何じゃ!? だ、誰かいるのじゃ? そういえば何かを蹴ったようじゃが」



 息を殺す。

 だって師匠の尻が目の前にあるからだ。

 そっと尻を指で突いた。



「ひっ!!」



 ふむ。

 壁尻と言う奴だ。


 知らない人に知ってほしいが壁尻というのは壁にはされまた女性であり、反対側が見えないため尻のほうは触り放題という特殊なサービス。



 そっと触ってみる。



「のわあああ、な、なんじゃ!?」



 ペチン。と叩いてみる。



「ぬんっ!?」



 ぬん。なんだ……また可愛らしい師匠の一面が見えた。

 しかし、どうしよう。


 この状態であれば師匠のズボンを下げても大丈夫なんじゃないだろうか?


 一応このゲームは全年齢ともR指定ともされていない。

 むふふなシーンは別パッチ買わないとダメだったけど……。



「ぬわ! だ、だれじゃず、ズボンは不味いのじゃ! おい誰じゃ手をかけて」



 かけているだけで脱がす事ない。

 ちょっと触ってるだけだ。



「ライトニングフレアあああああ!」

「なっ」



 目の前が真っ白になり俺の体が電気でしびれあばばばばばばばばば。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る