青年期(20)
第12話 5年後
「クロウベル様。ご来客です」
「え? 俺に」
もちろん太っているわけではなく、やる事をやった結果だ、難しい言い方をすれば、ご懐妊である。
来客を伝えてくれた感謝よりも先に注意が口に出た。
「いや、それよりも動いちゃだめでしょ!」
「しかしメイド長たるもの……」
「お腹の子に何かあったら、困る」
俺はアンジュの肩をさわってアンジュを落ち着かせると、大きな咳払いが聞こえた。
振り向くと義手を手にしたスゴウ兄の姿だ。
「クロウベル。その言い方はアンジュの腹の子はお前の子みたいな言い方だな……王都にいる親父が困ると言った方がいいだろう、それとも何か? もしかして本当にお前の子なのか?」
「そんなわけないでしょ、ねぇアンジュ」
何を言っているんだがアンジュは父の事が好きなんだし、俺はアンジュと子を作るような事はしてない。
「…………」
「アンジュ?」
「は、はい! そうですね。クロウベル様もスゴウベル様もいい顔つきになられて、顔つきは違いますが若い頃のサンドベル様と同じ風格を持っています、このアンジュ思わず見とれてしまいました。それとお間違えないように、この子の父親は不明ですので」
誰がどう見てもアンジュの子の父親は俺達の父、サンドベルなんだけどアンジュは絶対に否定も肯定もせず不明。とだけしか言わない。
「確かに俺はクロウベルと違ってイケメンだろう親父似だしな」
勝ち誇った顔のスゴウベルに俺は何も言わない。
俺の顔といえば、モブキャラもあってそこまで特徴もない、黒髪のままだし眼つきは少し悪いし、幸い身長は伸びた。さすが悪役貴族である。
「はいはいはい。俺のほうは態度も顔も悪かったですよ。スゴウベル当主代理」
「スゴウベル様。クロウベル様も良い顔です」
アンジュが言いきりスゴウベルを少ししかる。
スゴウベルは慌てて話題を変え始めた。
「怒るな、そのコレを見てくれないか、王都の技師に作らせた特注品だ」
スゴウベルは俺達に新作の義手を見せてくる。
義手マニアになったスゴウベルは今度の義手は手の中に毒液を仕込む事が出来るんだ。と説明してくれる。
どこで使う気だどこで。
いぜんは『義手の中にサイコロをいれてイカサマをした』と自慢げに話していたな、いつか刺されるぞ……本当に。
「誰か暗殺でもするの……?」
「そうだなー王でも殺して俺が王になろうか?」
「成長しても性格は変わらないと言うか……」
スゴウベルはお互い様だろ。と笑うと俺に向き合った。
「っと本題を忘れる所だったな、そのお前の客は既に客間に通した。驚けお前の初恋の相手が来て――」
「え…………」
俺はスゴウベルの声を聞いて走り出した。
初恋の相手。
師匠と別れて5年の月日がたった。
あれからも俺は特訓を続け、あれだけ乱暴者だったスゴウベルも今では義手の貴族として市民からは人気である。
ってのは今は思い出を語っている場合じゃなくて! 新しい使用人が俺を見ては悲鳴をあげているが気にしない。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
俺は叫び声とともに客間を開け目の前の尻をロックオン、すぐに頬ずりする。
小ぶりであるが女性の尻であり、スリットから見える生足は中々の健康的だ。りんごに似た匂いをしておりなんだが背も低いような気がする。
上を見上げると金髪の少女が拳をピクピクと握りしめていて今にも俺に殴りかかりそうだ。
顔をよけ、ずれたスリットも正しい位置に戻す。
客間から出て、客間の扉を優しくノックしゆっくりと開ける。
「こんにちは、俺はクロウベル=スタン。俺に客と言ったけど会った事あったかな?」
「…………クロウ君すごいね、5年前の再現だよ。横からみるとこうなっているんだね」
俺に声をかけて来たのは壁際にいた青髪の女性、丁度死角になっており、先ほどは気づかなかった。
着ている服がどこぞなく高そうだ。どこかで……。
「もしかしてアリ……シア?」
まじか、髪は依然よりも長く一瞬わからなかった。
「正解! で……いまクロウ君を殴ろうとしてるのがミーティアちゃん」
「え?」
俺が振り返ると正拳が目の前だ。
うん、回避しようと思えばかわせるよ? でもまぁ甘んじて受けるよ。紳士だからね。
「このド痴漢がああああああああああ!!!」
――
――――
「くっくっくっく」
俺を見ては小さく笑うのは当主代理のスゴウベル。
現在は食堂に集まっており俺は殴られた場所を氷で冷やしている所だ。
アリシアがヒールをかけてくれる。と言ったが打ち身ぐらいで魔力を使わなくていいよ。と断っている。
食堂には俺達の他に茶髪のイケメンが当然のようにいた。
自己紹介もまだなのにその茶髪のイケメンが俺に頭を軽く下げて来た。
「すみません。パーティーのミーティアが」
「謝る事ないわよクウ兄ちゃん、コイツがミーティアちゃんの尻を触ったしー。殺されても文句は無いってばっ」
尻を触ったぐらいで殺されたくはない。
俺を罠にはめたスゴウベルは小さく笑い終わると食堂から出て行こうとする。
「悪いなクロウベル。ちょっとしたイタズラだ。さて……俺はこの後仕事があるので、ついでに用事を済ませてくる、アリシアとその仲間よ。旧知の友として、客人として歓迎しよう」
スゴウベルが立ち去ると、茶髪のイケメン青年がぐいぐい寄ってくる。
「改めてクウガといいます、駆け出しの冒険者という所でしょうか」
クウ兄ちゃんと呼ばれたのは、やっぱりクウガで自己紹介してくれた。
『マナ・ワールド』本編の操作キャラクター、分身であり主人公様。
生まれた時からハーレムの呪いがある。
謎の占い師より自らにかかった呪いを知ったクウガはそれを治す旅に出る、元から正義感も強くプレイヤーの行動のよって性格はちょいちょい変わるが、基本は嫉妬深いというか。
アリシアという幼馴染がいるのに、ほいほいとハーレムの呪いで、ハプニングイベが起こったりも。
正直会いたかったけど会いたくなかった。
だって殺されるかもしれないから。
でも俺はこの5年間コイツを待っていた。
俺が死なないためには、敵対しなければいい。
ゲームイベントがどこまで俺の人生に絡んでくるのが絶対に避けられないのかその変も全部謎でこの5年間はおかけで動けないでいたし。
「ふふ、クロウ君はかわらないね」
少しだけ大人っぽくなったアリシア、当時と同じ場所を……胸を見て俺も頷く。
胸のサイズはBぐらいか無いわけじゃないが全く成長してない。
「アリシアこそ……変わらないな」
「クロウ君殴っていいかな?」
「なんで!?」
「なんとなく?」
殴られる理由はない。
俺が拒否すると「ずいぶんと仲がいいんだね」とクウガが話に入ってくる。
「うん、前にも話したよね、短い期間だったけど先生が同じで」
うおーい、アリシア。そこは『そんなことないよ?』と返す場所でしょうが! クウガ君『へぇやっぱり仲がいいんだ』って呟いてるよ?
話題を変えなければ。
「改めてミーティアだっけ? 本当にごめん、知り合いの尻かと思って」
「シャーーー! 寄るなド痴漢男! ド痴漢男は知り合いの尻だったらさわるの!?」
「師匠のだったら、さわるよ」
食堂が俺の一言で静かになった。
え。あれ?
「だ、大丈夫よミーティアちゃん。クロウ君は基本紳士だから……私の先生の事になるとちょっと、えっちになるの」
「普段から紳士だよ? エッチな事は何もない!」
にしてもミーティアか。
まぁぶっちゃけると知ってる、クウガは孤児院出身でミーティアもその同じ孤児院出身。
クウガが旅に出ると聞いて付いてくる義妹属性のキャラだ。
これで3人。
「あれ。もう一人いないの?」
俺の記憶で言えば弓師で獣人のクィルもパーティーにいるはずだ。財布を落としたのを気付かずに無銭飲食したのをクウガが助け、その恩のために一緒にいたはず。
「…………」
「…………」
「…………」
あれ? また周りが無言になった。
「クウガ君どうして4人目いるって言うのかな?」
「きも……もしかしてアリ姉ちゃんの周りの事全部調べてるわけ?」
「クロウベルさん、アリシアの事もストーカーって本当だったんですか……」
「まてまてまて。アリシアの疑問はともかく、2人はおかしい。ええっと」
そうか。
俺が知っていたらダメな情報だったか。
忘れないように5年の間に色々メモしてどこまでが聞いたが忘れる時あるんだよね。
「ええっとクウガって前衛だよね。それにアリシアが回復で、君が動きやすそうなスリットの入った服で格闘タイプ。戦力的にはもう一人欲しい所でしょ。例えば遠距離出来る人や情報収集が上手い人とか最低でも4人は欲しい」
「さっすがクロウ君! クウガ君も見習ったほうがいいよ?」
駄目だアリシア、クウガを無意識に挑発するんじゃない。クウガが俺を見る目が少し睨んでいるようにも見える。
「努力するよ」
「あっでもエッチな事は見習わないでね」
「同感。アタシなんてもう何度も裸見られたしこれ以上は辞めてよね」
「ミ、ミーティア!? 他の人の前だぞ!?」
「へえ……ずいぶんと美味しい思いを」
俺なんて裸イベントなんて、スゴウベルの裸をみるぐらいだぞ! 貴族だからメイドと良い事してるんだろ? て思われかちだけど、アンジュが見張っているので、メイドに手を出す事は不可能だ。
現代人の記憶が戻る前はスゴウベルに泣かされ、アンジュが抱きしめた事もあった。そんなイベントすら、俺が中途半端に強くなったばっかりに無くなったのだ。
「えっと、あのクロウベルさん。違うんです! そもそも呪いで」
「あーまた、クウ兄ちゃんありもしない呪いのせいにする。ミーティアちゃんは別に裸ぐらい」
おいおいおいミーティアよ、さっきと言ってる事が違うぞ。そしてクウガもまんざらでもない顔をしてるな。
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