第13話 頑張って嫌だって言ったのに・・・

 アリシアとその仲間を屋敷に招いて次の日。


 貧乏パーティーであるクウガ達は忙しいだろうが、俺としては緊急な用事は無い。


 クウガ達がいなくなるのを待つだけ、ようは対決イベントを回避すればいいのだ。


 俺は何時もの日課のために中庭の奥へと行く。



「ん?」



 練習場所に行く場所に誰か立っているのが見えた。

 ゆっくりと歩くとゲーム内で何度も見た顔が中庭にある木の前に立っていた。



「確か……獣人クィル」



 昨日は顔を合わせる事はなかったが、マナ・ワールド本編でクウガの仲間にいた女性だ。

 なぜか手には人形とトンカチをもって、さぁこれからこの人形に釘を刺すぞ! という所だ。


 俺と目が合うと何も言って来ない。



「…………」

「…………」

「何してるの?」

「マーキング」



 獣人クィル。

 獣耳が生え、鼻が猫科のそれ他には全体的に体毛が多い、尻尾は猫のように細長いのが特徴。


 人間8:獣2の割合で獣人と人間は頑張れば生殖行動は出来るというケモナーに嬉しいゲーム内設定。


 と、俺は思うんだけど。

 当時からインターネット上では『こんなのはケモナーじゃない! 獣のコスプレをした人間だ! もっと獣らしいのが本当のケモナーでケモナー好きなんだ!』と批判がちょっとあった。


 そのケモナー好きが言うには人間1:獣9の割合がいいらしい。

 いやそれもう獣だからね、人語を喋るだけの動物だからね?


 仮に生殖行動が出来るとしよう、喋るクロヒョウに俺は興奮する事は出来ない。出来たらもうそれは変態を超えている。




「………………なに?」

「おっと」



 それはそうとクィルの特徴としては弓と気配を消すのが得意で序盤の情報部員として人気のある、クウガのパーティーメンバーだ。



「いや、どうみてもその人形に釘をさす所だよね!? え、いや呪いのワラ人形!? あとここはランス家の私有地だからね、やだよここ通るたびに人形が木に刺さっていたら」

「く……ぎ……? 人間の言葉は……ムズかしい……初めてシッタ……」

「わからないふりはいいから! ええっと確か口数は少なく獣人ジョークとして直ぐにわからないふりするんだっけ」

「…………ジョーク違う。本当に……知らない時アル……たぶん」



 すごく悲しそうな顔で俺を見てくる。



「あっごめん」

「別に……ナレてる」



 クィルは人形を再び木にあてると大きな釘で打ち付ける。

 いやいやいやまって! それは呪いだよ!



「この人間、人形……打つ。それ、わたシのもの、これクウガ」

「え? クウガ? あっその人形って……クウガの代わり?」

「……そう」



 なるほど? 日本では呪いの儀式だけど、こっちでは好きな人に見立てた人形を釘で打つと自分の物にってまじないなのかな?



「釘をさすとどうなるの?」

「タマシイ、いつも一緒」



 ふむふむ。



「俺にも1個くれるかな?」

「………………ん」



 俺は人形と師匠に師匠のイメージを重ねる、魔法が当たり前にある世界での原則はイメージだ。


 その点、俺がオタクで良かったと思う、イメージがしやすい。

 見た事ない人と見た事ある人ではイメージの作り方が違う。



「ししょうおおおおおおおおおおおお!! 釘、釘打ちますからねえええタマシイをおおおおおお!」

「ッ!?」



 横でクィルがおびえたような気がしたけど、俺は全身全霊を込めて師匠に見立てた人形に釘を――。



「こらっクロウ君」

「さっずれた!? いっ!!!」



 突然声をかけられて俺は指を打ち付ける。

 あまりの痛さにしゃがみ背中からゴロゴロと回りだした。

 爪がはがれ血が出てる。



「もう、クロウ君。ヒール! ほら痛くないでしょ?」

「あれ? 痛みは残るけど傷がなくなった……ってかアリシア?」

「うん。クロウ君が懐かしい場所いくのが見えたから練習かなって」

「僕もいます」



 おうおうおう、金魚のフンのようにクウガも一緒とは、なんなんですかキー! 森の中でアリシアとナニをしようとしたんですかねえ。

 もうオジサンの敷地でそんな事は許しませんよ。


 …………全部飲み込んで笑顔に徹する。



「いやうん。練習しようとしたんだけど、先約が」

「クィルちゃん。それは呪いだからやめようねって」

「……ん。クウガ死ねば……魂……クィルのもの」

「え! 死ぬの!? やっぱ呪い!?」



 俺が驚くとアリシアは苦笑する。



「クィルちゃんの地方のおまじないみたい。本当は相手を殺すおまじないとか……おまじないですんで入ればまだいいんだけど、力がある人がすると本当に危ないらしいよ」

「あぶない」



 そうそう呪いなんて効かないと思うけど、全身全霊をかけて師匠の人形に釘をさす所だった。

 いやまてよ、魂が俺の物になるならやっぱ刺したほうがいいのか?



「……クロウ君の持ってる人形は怖いから没収するね」

「ええ! アリシア……それはひどくない?」

「クロウベルさん!」



 突然割り込んでくるイケメンクウガ。

 呼ばれたからには返事をしないといけない。



「何かな?」

「試合をお願いします」

。それでアリシア達って」



 俺が正式に断わった話にアリシアが驚く顔をしている。



「クロウ君!? ひどくない?」

「お前、ヒド」

「ひどいっていわれても……」



 実力差で俺が死んだらどうするの!

 別に試合しなくても、君たちが屋敷から出て行けばイベントは終わりなの! わかる?


 追い出したいけど、別に追い出したいのはクウガだけであってアリシアは同じ師を持つ身、姐弟子としては邪見にしたくないし友人だ。


 

「アリシアはいつも、いつも貴方の事を自慢するんです……貴方は少年の時から凄かったって、とても15歳とは思えない大人びた男性だったと」



 クウガは聞いてもいないのに喋りだした。



 答えから言うと、俺が大人びてるのは転生者だし。

 さらに言うと15歳の外見をした中身は20代後半の元オタクでゲームクリア者だから。


 20歳の体に30代前半の精神と、クロウベルとして生きた分も入っている。




「じゃぁ、クロウ君。クロウ君がクウガ君に勝ったらエル先生の居場所を教えてあげるから」

「いやだってスファート山脈にいるんでしょ?」



 スファート山脈。

 現代で考えれば日本の東京から、海外にある北アメリカぐらいの距離だ。ちなみに飛行機というのは無い。


 馬車移動だし。



「え……なんで? 知ってるの? 出発前に手紙きたばっかりよ」



 ふぁ? ………………やっちまったあああああああ! そりゃそうだよ。スファート山脈だなんて序盤の序盤で名前すら出ない場所だよ。



「………………いや、胸の大きい銀髪の語尾に『のじゃ』が多い見た目は若いのに年寄りくさい長身の女性を見たって、数年前だっけかな屋敷に来た客人が教えてくれて。師匠ぐらいしか思いつかないし」

「んーさすがはクロウ君。先生マスターだね」

「そう、俺はメル師匠マスターなのだ」

「じゃぁ試合の準備するね」



 アリシアさん!?



「俺の話聞いていた!?」

「うん。クロウ君の話は聞いていたよ。でもクウガ君はクロウ君と戦いたいって、大丈夫。即死じゃなかったら治せるよ」

「逆に即死だったら?」

「………………即死じゃ無かったら治せるよ」



 ゲームで『はい』『いいえ』と選択肢が出て『いいえ』を選ぶと『はい』を選ぶまで永久機関に入るような言葉しか言わない。


 もう一度、もしかしたら変わるかもしれないので聞いてみる。



「逆に……即死だったら?」

「うーん、内緒の話なんだけどね、逆に即死じゃなかったら治せるよ」



 あ、だめだこれ。



「どうしても?」

「できれば……私もね。もしかしたらクロウ君はもう訓練を辞めたかもよ。ってクウガ君に言ったんだけど……」

「僕はなぜか貴方と戦わないといけない気がするんです」



 運命と書いてディステニーか。

 ゲーム本編でいえば、丁度20歳の時に俺はコイツに殺されるんだよなぁ。


 おかしい、アリシアを手込めにしようと、襲ったわけでもないのにこのイベントである。



「アーリーシーアー姉ちゃん……こんなド痴漢男が本当に強いわけ? さっさと地下下水道いこうよ」



 4人目の声が聞こえた。

 今来た道を歩いてくる女性ミィーテアだ。


 スリットの隙間からパンツが見えそうだ。


 パンツがミィーテア……俺がそう思うとミィーテアに睨まれた。



「すっごい変な事考えない? ソイツ」

「ミーティア! この人にはちゃんとクロウベルって名前があるんだ、貴族様だぞ、失礼にあたいするだろ」



 クウガが正論を言うが、せめて本人のいない所で言って欲しい。

 それこそ失礼である。



「貴族っても追放か勘当予定の3男ですので、それよりも地下下水道って?」

「聞いてないのですか!?」



 聞いてないも何も今聞いた。



「ええ」

「当主代理であるスゴウベル様に頼み込み地下下水道の奥にいた。と言われる、古代ミミズを退治したく」

「は?」



 5年前に地下下水道で出会った隠しボス……の手下と、いってもさらにその地下にいけば中ボスとして沢山いるんだけど。



「私も無理だよ。って言ったんだけどね……」

「聞けば貴方は、古代ミミズから無傷で帰還と聞きました。それほどの実力が15歳の時に……正直妬ましい」



 うん。

 分かっていたけどコイツ嫉妬深いな。

 天然か?



「ですか! 逆に貴方を超える実力があれば僕にだって倒せるって事ですよね。それに僕達は1人じゃない。パーティーだ!」



 アリシアをちらっとみると、両手を合わせて無言でごめん。というポーズだ。



「本当に怪我したら治してよ。1対1の試合でよければ」



 ここは折れるしかなさそう。

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