第11話 置いていかれる事を覚悟したもん……(かわいく

「おい! クロウベル! 聞いたが! アリシア達が明日で」

「…………聞いてるよ、帰るんでしょ?」



 肘から先が義手ぎしゅとなったスゴウベルが俺の顔をみると隣に来ては唾を飛ばす。


 これが俺の部屋であればにこやかに対応しよう、でも時と場所を考えて欲しい、ここはトイレだ。

 男性用のトイレで尿をしてるのに、横に来てはなおも喋りかけてくる。

 

 あの戦いから5日ほどたった。

 アリシアやアンジュが手配した道具屋や薬屋、冒険者ギルドからの回復魔法を使える人間などを集めた結果二人とも奇跡的に3日後には普通に生活できるまでに回復した。


 といっても、スゴウベルは義手となったし、父サンドベルはスキンヘッドになった。


髪の毛が全部溶かされたから……もう二度と生えない可能性が高いらしい……まぁうん、かっこいいと思うよ…………かわいそうに。


 そして2日前。


 事態が落ち着き次第別の場所にいくみたい。とアリシアから教えて貰った。


 なんでも師匠が注目されるのが嫌とかなんとか、と説明してもらった。


 ぶっちゃけ人間達から嫌われている『魔女』だしな、それもまぁ仕方が無いのかなぁ。



「ふーん……なんだ、もっと取り乱すかと思った思ったのにつまんねえ奴だな。師匠、師匠と騒いでいたのによ」

「スゴウ兄はいいの? アリシアと別れるけど」

「なびかねえ女はいいの、それよりも今日もパーティーに呼ばれたからよ」



 スゴウベルはボスを撃退し隠しボスを腕一本になりながらも奮闘した。と噂になり今ではその武勇伝を聞きたい。と貴族達の中で引っ張りだこだ。

 

 ちょっとした英雄みたいな扱いで他の貴族達からの評判もいい。



「じゃぁな」



 と、俺の肩を叩きトイレから先に出て行くスゴウベル。



「ちょスゴウ兄! 手洗ってないよね!?」

「…………クロウベル。細かい事は気にしない方がいいぞ」

「いや、するよ!? 細かくないよ!?」


 

 トイレから出て身だしなみに整える、誰もいない誰もいない食堂で朝食をとるのは凄い久しぶりかもしれない。

 転生する前はいつも食堂で1人か、自室で1人だったなぁ……俺以外は後始末で屋敷にはいたりいなかったりと忙しそうだ。


 貴族の三男坊に出来る事といえばほとんどない。



「暇……いや、暇じゃないか」



 自室にもどり練習用の剣を持ってぶつけないように振るう、それが終わると座禅をし魔力のイメージ練習を行う。


 俺が今できる魔法は三つ。

 ウォーターボール水球ウォーターシールド水盾。ウォーターシャベリン水槍


 15歳という年齢を考えば凄いのかもしれない……でも冷静に考えるとあの時、俺にもっと力があれば別の道もあったのは確実だ。



「そこなんだよなぁ…………別に強くなりたいってわけじゃないけど、強くないと師匠の弟子を名乗るのはやっぱ迷惑だよなぁ。師匠にも『弟子と名乗るなら強くなれ』みたいな事言われたし、今回の討伐だってさ……」



 現にアリシアは師匠の弟子ではないけど師匠が連れて来た子、奇跡のヒーラー! と呼ばれ人気者だ。

 俺といえば、あの戦いでさほど活躍もしなく影もめっちゃ薄い。



「うん、俺の活躍は無いに等しい。そもそもだ! ゲーム開始5年前なのが悪い! 情報が少なすぎる」



 師匠とイチャラブするにはもっと有意義な情報が欲しい。


 例えば師匠の好きな物。


 例えば師匠の嫌いな物。


 例えば師匠のパンツの色。


 非公式の乳くらべなど。

 最後のは非公式だから無理か。


 まぁ……隠しキャラ的扱いだし、追加ダウンロートパッチもまだだし、幸い主人公クウガの攻略対象じゃないのが救いか。


 これが師匠も攻略対象であったら俺はクウガを殺すかもしれない……冗談だけど。



「勝ってるわけねえよおおお! 俺は水属性で、相手は闇以外の6属性を自由に覚えれるんだよ!? 何がハーレムの呪いだよ! 1人ぐらい俺にくれ――」



 スン。

 と、急に賢者タイムになる。



「…………まぁヒロインは主人公とくっつくのが一番いいよな。突然現れたモブを好きになる。とか相手に悪いだろうし……そもそも俺は5年後には死んで……死ぬ可能性がある。アリシアを攻略しなければいいわけだし」



 なんにせよ。

 クウガと戦う事になっても最低限逃げれるようにはしたい。

 別に俺は戦闘狂じゃないし。



「いや。恩を売っておくのもいいかもしれない。ええっとスローライフの呪い。じゃない! ハーレムになる呪いだったはず、ゲームでは全ての呪いを解く方法を持つ魔王を倒す。って事なんだけど、代わりに倒す?」



 無理な話だし、魔王を倒すとなると平均レベル60は欲しい所だ、レベルが自分で確認できないのでわからない。



「ちなみに、確かこの街の推奨到達レベルは15で、5年後の俺のレベルはなんと10。そりゃ負ける。A級冒険者と言われるトップクラスでさえレべル40から70と差が激しいし」



 ああもうー! 俺は頭をくしゃくしゃと書きながらベッドに倒れ込んだ。



「師匠と離れ離れとか、せっかくあったのに俺のイチャラブ生活があああ……いやまてよ。師匠の荷物の中に紛れ込めばよくないか? 俺は部屋に閉じこもる。と伝え鍵をしめる、その間に師匠のもつ旅行鞄に入る。なに……ちょっとカバンが大きくなるけど問題はないでしょ。師匠の匂いに包まれた俺も幸福だし離れた場所でジャッジャーンと飛び出し、実はついて来ました。弟子続行です! よし! それだ」

「そんな呪われたカバンは中を見ずに途中で川に捨てる未来じゃな」

「うああああああああ! し、師匠いつから!」



 振り向いたら銀髪巨乳の師匠が仁王立ちしていた。



「小僧がわらわの旅行鞄に入る。って所じゃな……まったくキモすぎてひくのじゃ」

「冗談に決まってますよ。それよりも男の部屋にノックも無しにとか……誘ってるんですか?」

「殺すのかのう、ノックなぞ何度もしたのじゃ……」



 師匠の左右の手から雷がバチバチと鳴り出す。



「ウォー……省略! み、水盾よ!」

「ほい、ライトニングじゃ」



 俺の水盾に小さい雷の球が当たるとバリバリバリバリと電気が走り体がしびれる。



「あががががががっがががが」



 俺が水盾を解くと師匠がベッドの横に座りだした。

 本気で誘ってるのか迷う。

 俺の体はまだしびれたままだ。



「雷系の初期魔法じゃ、すぐにしびれは止まるじゃろうに。まったく明日は時間が無いかもだからのう。ほれこれをやるのじゃ」



 師匠は俺に光った何かを投げてよこした。かろうじて俺はそれを握りしめる。



「え。婚約指輪ですか!」



 師匠が無言で俺の手から先ほど『あげる』といったのを回収しようとする。



「やめて! 冗談、冗談です!」

「…………ったく! 小僧お主は何がしたいんじゃ……」

「いやぁこういう師匠と絡みながらの生活を一生したいです」

「本気なのじゃ?」

「本気ですけど?」



 師匠が思いっきりため息をつきだした。

 そこまで嫌がる事も無いだろうに、頑張っていた俺が少し傷つく。



「その石はとある魔物の魔石じゃ、小僧お主が師匠、師匠と言うから一応弟子……見習い……以下として証明書みたいなもんじゃ、一般水魔法2,3個覚えさせるまでの予定じゃったか、小僧は既に覚えておるからなのう」



 自分の才能が怖い。



「まじですか!」

「ちなみに売ってもいいがのう、めちゃくちゃ安いのじゃ」



 俺は貰った石を眺める。

 宝石には詳しくないが地球でみたエメラルドのかけらにも見えた。



「師匠借金多いらしいですからねぇ……そもそも何でそんなに借金を」

「以前ちょっと建物を壊してしまったのじゃ、なに肩代わりをしてもらって別に要らない。と言うているが一応なのじゃ」



 建物か、確かゲームで魔女メルギナスに会うのに近くの街の半分は壊れた建物だったような気がする、もう半分は新築だ。


 それだろうか?



「半分だしましょうか?」

「小僧に心配されるとは、ワラワもまだ未熟じゃのう」

「完璧な人なんていませんし」

「…………お主本当に15歳なのじゃ?」



 っと、中身は20代後半です。



「ま。次に会う時は強くなっていろなのじゃ」

「え。あ……ええっと……ありがとうございます」

「お別れパーティーや食事会、色々忙しいだろうからのう、個別の挨拶はこれで終わりじゃ。本当ならお主の才能をもっと伸ばせたかったきもするが、小さい事で死ぬんじゃないぞ?」



 師匠はそういうと扉から出て行く…………しめて行かないんかい。

 ずぼらである。


 俺が開いた扉を閉めようと動くと、アリシアがひょこっと顔を出してきた。



「み、見てた?」

「うん」



 アリシアはそれ以上に何も言わずに部屋に入ってくる。



「クロウ君。一つ提案があるんだけど」



 俺はその提案を黙って聞いて、最後に首を横に振った。

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