第10話 転機というなの大ピンチ

 アンジュに空中に吊らされたまま俺は師匠に挨拶すると、父サンドベルが作戦を話し始める。



「では、今回の作戦を――」

「嫌、おかしくない!? このまま!?」



 俺が抗議の声を出すと、師匠含め全員が俺を見て来た。

 俺の今の姿は絶賛空中に浮いているからだ。



「小僧はその方が安全そうだしのう」

「ごめんクロウ君、私も先生と同じ意見かも」

「ざまぁ!」

「いやいやいや、軽いスキンシップだよ師弟の間の冗談だって」

「ワラワは小僧と師弟の契りなぞ組んだ覚えはないのじゃがのう、まぁ確かにかわいそうだ。メイドよ離してやってくれ」



 師匠がそういうとアンジュは素直に俺を立たせてくれた。

 一応は俺も本気をだせば足が着くんだしなんとかなったんだけどさ。



「では、このワシ。サンドベルが改めて作戦を言う、ここ半月ほど下水地下道魔物討伐の依頼がスタン家に要請されていたのは隠していた事だ。それもこれもお前達に迷惑をかけまいと――」

「説明がながいのじゃ」



 確かに長い。

 スタン家に地下下水道の魔物退治を依頼されている事は、別に言わなくても知ってる。


 屋敷には他にもメイド達がいるんだ、ここ最近大人組がいないけど? と質問すればそのうち答えは出てくるし。

 その魔物が数が多く俺達に手伝えってのも馬車でアンジュに聞いたばかりだ。



「む、メル殿よ。こういう事ははっきりとしたほうがな……」

「かわいい師匠! 要点を」

「一言余計じゃ! しかし小僧のほうがまだ話がわかる。現在わかっているのはこのMAP、紙に書いたのを複製させておいたのじゃ」



 師匠は4枚の紙をそれぞれに手渡す。

 大人組3枚に俺達少年少女組に1枚。


 懐かしい地図だな。

 序盤のダンジョンというだけあって攻略ページで何回もみたMAPである。


 さらに奥には隠しボスがいて当然序盤でかなうはずがない、会ったら負ける。というか会うわけがないんだけど。


 師匠達が作ったMAPにはあみだくじの様に線が引かれており白紙の場所多い、俺の記憶の中の地図と照らし合わせてみる。



「いきわたったようだな。ここのボス的なが中々捕まらなくてな」

「チームを組んで討伐というわけじゃ。お主らに実戦経験も積ませないといかんしのう、見つけたら笛を吹くのじゃ」



 なるほど。

 で、あれば最適だ。


 当然俺は師匠と組んで、スゴウベルは父と組むのがいいだろう。

 アリシアはアンジュと組むのがいいのかもしれない剣聖と未来の聖女。中々いい組み合わせと思う。


 俺が脳内でパーティーを編成していると、スゴウベルが手をあげた。



「父上、俺と組むのが一番だよな」

「そうだな、スゴウベルお前もこの一月近くで成長した姿をこの父に見せるがよい」



 スゴウベルが父サンドベルと組みたがっている。

 父もスゴウベルを見ては横の席を空けた。



「先生とご一緒でいいでしょうか」

「そうじゃのう。アリシアはこっちで面倒をみよう」



 え? じゃぁ俺は?

 剣の師弟コンビって所だろうか。



「じゃぁアンジュと?」

「………………クロウベル様。私はのメイドです」

「え、ああ……そうか」



 剣聖アンジュとメイドのアンジュは同一人物でも違うのだ。

 その正体を知っているのは俺と父しかいない。



「ふん。クロウベルお前、メイドを連れてこんな下水道で何をするつもりだ、ナニか?」

「うっわ……クロウ君……」

「違うからね! え。じゃぁ師匠の所に。父上もそんな怖い顔をして俺を見ないでください」

「ワシはクロウベルを信じる、信じるがアンジュに何かあれば実子と言えど首と胴が繋がっているかは……」

「サンドベル様……」



 全く信用してないような顔だ。

 アンジュは父と見つめ合ってるし。



「まぁ小僧なら1人で大丈夫だろう、アリシアいくぞ」

「はーい」

「え。ここは師匠が『じゃぁ小僧もワラワの所で面倒を見よう、暇そうならケツでも眺めてるがよいのじゃ』って言う所では?」

「クロウ君……」

「アリシア行くのじゃ」

「クロウ君ごめんねー」



 アリシアがごめんねポーズをして俺から離れていく。



「…………まぁそのなんだ。メル殿もああ言っているクロウベルよ危険な場合はすぐに逃げろ。じゃっスゴウベル行くぞワシに続け!!」

「じゃぁな嫌われぼっちのクロウベルはっはっは」



 父サンドベルとスゴウベルも離れていった。

 残ったアンジュを見上げるとアンジュは少し悲しげな顔だ。



「クロウベル様もメル様の事となると……いえ、申し訳ありません。色恋の問題ですよね差し出がましい真似を、所で今は普通のアンジュですし、他の冒険者に指示を言いに行かないといけませんので」

「そう……ぼっちか……いやいいんだ。どうせ俺はぼっちだから」



 下を向いて剣で床石を突く。



「お一人で大丈夫ですか? もしよろしければ伝令後に直ぐに戻って――」



 アンジュが本気で心配してきた。

 ちょっとした冗談だよ冗談。



「いや師匠がOKって言ったんだし多分大丈夫かな、この辺の敵は弱いしMAPは頭に入っているよ。地図に書かれてないけど最悪は抜け道も知ってるし」

「……………………な……」

「何?」

「いいえ。それでは失礼します」



 アンジュは何か言いたそうな顔をしていたけど、そこまで心配される事でもない。


 剣を振りながら下水道を回る、出てくる敵はジャイアントゴキブリ、巨大ネズミなど。



「新魔法には丁度いいかもしれない。ウォーターシャベリン!!」



 空中にウォーターボールを3つほど浮かべる、その瞬間俺の考えをよみとったように細長くなった。

 そのすべてが敵を貫くと、透明なウォーターシャベリンが魔物の体液の色に変わっていった。



「と、残ったやつをこうやって。っと」



 斬っていくと、魔物の死体は下水に流れいった。



「魔石も欲しいけど、隠し扉の宝箱はどうしよう。序盤の奴だから換金用なんだよね、別にお金に困ってるわけじゃないし……放置しておこうか」



 ボスを探してグルグルと回る、記憶の中では序盤のボスはランダムに動き冒険者を暗闇に連れ込む。とかそんな感じだったようなきがする。


 もちろんこの地下に眠るボスと違い弱い。

 ピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ。



「うるさっ」



 思わず耳を抑えるほどの音が聞こえた。

 笛の音だ、大きくなっており誰がかボスを発見した。と言う事だ。


 俺は笛の音のほうへはし……どこ!?

 下水に反響して場所がわかりにくい、思わず舌打ちし地図を広げる。


 現在地はここ。

 ボスの現れた場合のルートパターンは4パターン。

 この場所いないと言う事は残り3パターン。

 笛の音はたぶん、右。

 左のパターンを消す。



 俺が考えている間にも笛の音は鳴っている、嫌な予感がするのだ。

 自分の考えを信じ、隠し通路へと体を滑り込ませる、一気に短縮させ壁を抜けた。



「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ」



 壁に寄り掛かっているスゴウ兄は俺を見て驚いた顔をしていた。



「スゴウ兄!」

「ピイイイ! ピイイイイイ!! ピイイイイイ!?」

「笛から口を離せ! 父はっ!」

「おま、壁から!?」

「それは今はいいから」

「く、食われた……俺を俺様を助けようとして……」



 スゴウベルが指を前に出すと、巨大なミミズがうねうねと口を開けていた。



「いや……え……隠しボス…………の眷属で古代ミミズ」

「俺が俺が……ボスらしき奴を……地下から……」



 よく見るとスゴウベルの片腕も無い。

 震えが来た。


 なるほど…………これは俺の予想なんだけど、原作ではたぶんこの二人はここで死ぬのだろう。


 一人屋敷に残った、もしくは何らかの事で生き残った俺がスタン家の当主となる。


 もちろん、最初はアンジュも手伝ってくれたかもしれない。でもアンジュを俺は拒絶しアンジュも責任感じて屋敷を出る。



 俺が今できる事は……。



「ししょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! パンツははいた方がいいですよおおおおおおおお」

「馬鹿もんが! はいてるわ!! わらわの弟子と名乗るなら、これぐらい自分でなんとかするのじゃあ!」

「はぁはぁはぁ、き……奇跡よ! ハイ・ヒール!! ここに来るのに……魔力が……きれそ……」



 俺が力いっぱい叫ぶと師匠が同じく別の隠し扉から俺達の前に出て来た。


 一歩遅れたアリシアは状況を理解する前にスゴウベルに回復魔法を唱える。


 原作では俺は師匠の魔法を覚えて師匠を追い出すとかしたのだろうが、今回はいる。




ライトニングフレア雷の閃光!!」



 おおっと、雷属性の中でも上位にあたる魔法だ。

 古代ミミズの皮膚がさけ中から父サンドベルの手が見えた。



「小僧! 呼ぶにしたって言い方があるじゃろ!」

「いや、俺が動くより呼んだほうが早いかなって」

「とにかくアレを引っ張り出すのじゃ」

「了解」

「死なれては給金を貰えないからのう」



 師匠の声に不思議と笑みがでた。俺は水槍を空中に出すと、師匠がダメージを与えた場所を狙う。


 その部分の肉がえぐれると父の体が下水道に落ちた。


 急いで引っ張ると何とか息はあるようですこし安心する。



「師匠。こっちはOKです」

「よし、ソレは生きてるようじゃな、では逃げるのじゃ」



 師匠が俺の横に見事に着地した。

 サンドベルが生きていると確認すると、少しホッとした顔だ。



「え? アレ倒さないんですか!?」

「小僧……わらわの尻を触りながら真顔で質問するなのじゃ。一瞬わらわが間違ったかと思ったわ」

「可愛らしいお尻があったので」



 俺は手を引っ込めると、青い顔のアリシアが横に来る。



「はぁはぁはぁ……サンドベルさん……ひど……ふ、ふありと……ヒー、ヒール!」



 よかった俺が尻を触っていた所は見てないようだ。



「怪我人2人、魔力切れ1人、他力本願のムッチリスケベを入れて倒せると思うのじゃ?」

「師匠ならいけるんじゃないですか?」

「前から聞こうと思ったのじゃがワラワを…………誰と思ってる?」



 のじゃのじゃのじゃ言っていた師匠がはっきりと語尾を気って俺を見て来た。



「メル……ギ……うあああああああああ! 師匠。後ろ後ろ!」

「なんじゃ!? のおおおおおおうおお!?」



 崩れた壁から、大小さまざまな古代ミミズがあふれ出してきた。

 とてもじゃないが絵的にキモイ。あと本当に怪我人を入れて戦うような相手じゃない。



「皆さんこっちです! ここを封鎖しますので」

「アンジュ!!」



 笛の音が聞こえたのだろう、アンジュと他の冒険者が俺達の前に現れた。なんとか逃げると地下道の一部分を爆発で埋める事に成功した。

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