第7話 質問攻めのモブキャラ

「クロウベル様! 何時から魔法を!」

「クロウ君すごい……しかも私のファイヤーバーストと相殺した」

「おい、お前だけ卑怯だぞ!」

「………………」



 師匠だけ何もいわないけど、俺は質問攻めにあっている。

 魔力切れというか緊張も解けたのだろう、膝から崩れ落ちた俺は椅子に座っている状態だ。



「ええっと……気づけば!」

「んなわけあるかっ! クロウベルお前が書物を読んでいたのは知ってる。知ってるか卑怯だぞ!」



 ああ、そうか。

 そういう理由で良かったのか。



「もしかしたらそうかも。色々と頑張ったけど水魔法が発動した感じで」

「クロウ君天才……」

「当たり前です、サンドベル様の御子息ですから天才に決まっております、もちろんスゴウベル様も天才ですよ」

「そ、そうか。そうだよな」



 アンジュとしては俺だけ特別ヒイキではなく3人の息子全員が好きなのだ。今は遠方にいるワンベル兄さんにも同じ気持ちだろう。

 原作では設定だけの人なので俺が記憶してるのは父に似て無口な兄の印象しかない、母が違うはずの俺の頭をよくなでてくれた。



「天才かのう……確かにまだ子供にしてはよくやるが、所詮は子供だしのう」

「あっ!」

「な、なんじゃ! く、来るのか!?」



 師匠が身構えたけど、一つの考えがよぎった。

 多分だけど、原作の俺もこうして魔法を使ったのだろう。そして師匠に小言を言われてキレて出て行ったに違いない。

 俺は天才だ! 覚悟はいいか? とどこかの拳法家が使うようなセリフと共に。



「いえ、さすがは師匠。俺の弱点をよくぞ、もっと教えてください、よっさすが師匠可愛い!」

「からかうなのじゃ! しかし……そ、そこまでいうならその、給金ももらってるしのう」

「先生なんだか嬉しそうですね」

「べべべ別に、仕事。仕事じゃぞ? 小僧は魔力切れの症状だな、まず休め。エロカギは体の基礎がなっとらん家の周りを100周。アリシアは慢心が生んだ敗北じゃエロカギが戻ってくるまでワシの体のマッサージ」



 テキパキと指示をだすと師匠は椅子に座り込む。

 アリシアがその肩をマッサージし始めた。



「おい! お前っ!」



 納得いかないのかスゴウベルが仁王立ちになっている。



「あ”? せめて名前で呼べエロガキ。お前の先生だぞ?」

「そうだよ! スゴウ兄、メル様と。いやまってスゴウ兄にメル様と呼ばれると俺が嫌だ」

「メルババア! 俺にだけきついだろ!」

「ああん?」



 俺は何とか立ち上がり木剣を構える。



「おちつけ小僧。別にババアでも構わんのじゃ、小僧お主がワシをなぜか師匠と呼ぶのも黙認してるしのう。エロカギよくきけ、100周終わったらアリシアのナニを揉ませてやるぞ」

「え! 先生!」

「メル先生様! 行ってきます!!」



 ろこつに態度を変えたスゴウベルは見えなくなった。

 ごほん、とアンジュが咳払いをする。



「いいのですか? アリシア様の意見を聞かずに」

「先生、私嫌なんですけど……」

「負けた罰じゃ、なに。ナニと言っても親指の先を揉ませてやるって意味じゃ。あ奴は勘違いして詳細まで聞かないからのう、アリシアよそれぐらいは我慢なのじゃ」

「うう。わかりました先生」

「俺は休んだ後に何しましょうか、師匠と組み手ですか! あっマッサージ変わりましょうか」

「却下却下却下じゃ!」



 断れてしまった。



「クロウ君眼が怖いよ」

「気のせいだよ」

「ごほん。スタン家はその……女性好きが多いというか特異体質が多いと言いますか……」

「え! アンジュそうなの!?」



 アンジュは少し遠い目をして「ええ」とだけ答えてくれた。

 色々苦労してるみたいな。



「そんな血筋断ち切った方が世のためと思わんかのう……勝った褒美じゃ今日は何もするな。そもそも魔力とは全部空にしたほうが容量が増えるとも言われておる、しかしじゃ中途半端に残しては容量も増えにくい。小僧の魔力はゼロに近い、何もしない方が魔力の回復が早いそれを待つのじゃ」

「了解です師匠」



 何もしなくていいならそれはそれで嬉しい。

 組み手などもしたいけど実はさっきから力が入らないのだ。

 

 それでも! 師匠と組み手があるなら気合で動かすけど。


 簡易テーブルに頭をのせるとストローが目の前に来る。

 アリシアが果物にストローをさした飲み物を持って来てくれたのだ。



「ありがとうアリシア」

「どういたしまして、このジュース魔力回復にいいらしいよ」

「へえ」



 ズズーッと音を立てて吸い込んでぼーっとする。

 師匠は肩を揉まれて満足し、アンジュは「大丈夫なようなので」とスゴウベルの様子を見に行った。


 何が大丈夫なんだろうか、意味がわからん。


 日が暮れるまで結局スゴウベルは帰ってこず、俺も歩けるぐらいには体力も魔力も回復した。



「さて、帰るかのう」

「わかりました師匠!」

「ん。アリシアも最後は回復魔法使ってズルしていたのじゃ」

「う、ばれてる」

「ワシを誰と思っているメルギ……メルだぞ」



 うっかり本名を言おうとした師匠は慌てて言い直す。

 よっこらしょっと年寄りくさい掛け声がまたギャップ萌えと言う奴だ、かわいい。


 俺達が屋敷の前に行くとアンジュが屋敷の前で深々と礼をしてきた。


 その横には干からびたスゴウベルが手を前に出して倒れている。



「ひっ死んでるんですかっ!」

「あ。アリシアちゃんのおっぱ……」

「スゴウベル様。まだ63周でございます」

「あと、あとすこ……」



 最後まで言い終わる前にスゴウベルの力が尽きた。



「スタン家の男性って本当なぜこうも……いえメイド風情が失礼な事を。夕飯のご用意が出来ております皆様お先にどうぞ」

「ええっと、スゴウベルは」

「いかがなさいましょうメル様」



 ああ、そうか。

 アンジュは自分の意見よりも訓練をさせた師匠の言葉を待っているのか。俺だったら手当するけど。



「初日から100周は少し無理もあったかのう。手当し、それでも強くなりたいのなら練習に参加させてるのじゃ。もう練習がしたくないのであれば来なくて結構と伝えるのじゃ」

「わかりました。スゴウベル様いきますよ」



 アンジュはスゴウベルの腕を自分の肩に回すと部屋へとつれていった、手当をするのだろう。

 うーん、アンジュの手当てか、少し羨ましい。



「クロウ君なにかえっちな事考える?」

「一切考えて無い」

「ふふ、私の知ってる幼馴染みたい」

「へぇいるんだ」



 いるだろうな。

 流石に知ってるよ。とは言えないしさらっと聞いてみる。



「うん。かわいい子でクロウ君にも紹介するね」

「俺は別に男は趣味じゃないよ」

「…………え。なんで男の子ってわかったの、かわいい子しか言ってないのに」



 しまったああああああああああああ!

 不覚。

 アリシアが不思議そうな顔で俺を見ている。

 頭をフルで回転させろ。



「そりゃだって……アリシアが嬉しそうに喋るって事は男の子かなって好きなんでしょ、その子の事」

「やだ! そ、そんな事ないよ!!」



 俺の背中が思いっきり叩かれる、杖で。



「うがああああ!」

「あっご、ごめんなさい! 先生ど、どうすれば」

「ヒールでもかけておけ……先に食堂に行っているのじゃ」



 俺は意識がある状態で初めて回復魔法をかけられた、かけられた場所が温かく温シップを張っている感じに近い。

 前回は記憶なかったし。



「きもちいい……」

「そうでしょ! でも先生はあまりかけるなって」

「え!? なんで?」

「回復魔法に依存すると普通の回復が効かなくなるんだって」

「へぇ…………」



 今現在かけられている俺はどういう顔をすればいいのか。

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