第6話 修行1日目の模擬戦

 修行1日目。

 師匠が家に来て2日目って所になるのかな。

 中庭には俺の他に、師匠、アリシア、スゴウベル。それとなぜかアンジュが見守っている。



「なんじゃこのメイドは、ワラワは用は無いんじゃかのう」

「お言葉ですかメル様がいかに魔術の素質を持つといってもスゴウベル様、クロウベル様に教えるにいたっていい教師か見極めるのもメイド長の務めです。というのは建前で、クロウベル様が暴走しないように見張っています」



 師匠はは口をへの字に曲げた。

 あっ不機嫌なオーラ全開に出てる。



「アンジュも師匠も安心してください。何の事かはしりませんが俺は一度だって暴走した事はありませんし!」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」



 あれ? 4人全員が黙りだした。

 味方なはずのアリシアも俺を見ては「クロウ君……」とつぶやくだけだ。



「魔法使いは自らの魔法をなるべく見せないのが基本なんじゃが、アンジュとやら頼むぞ! ワシの貞操は――」

「え! 師匠って処――ぐへ!」



 背中に痛みが襲ってきた。

 アンジュが俺の背中を足で踏み付けて抑えている。



「アンジュ!?」

「申し訳ございませんクロウベル様。突然に叫び動くので……仕方がありません」

「それよりもパンツが見えるんだけど」

「っ!?」



 アンジュが俺から離れてスカートを抑える。



「うわー……クロウ君えっちだ」

「おいクロウベル。いくらなんでもそれはキモいぞ」

「末恐ろしい小僧じゃの」



 いやまって。



「今の流れで俺が悪いの!?」



 全員が頷くと俺のスタン家での居場所がだんだんと無くなっていくようだ。



「し、師匠とにかく訓練です! 俺は強くなりたいんです!!」

「…………ほう、その力強い瞳だけは本当のようじゃな。よしまずワシと戦え」

「良いんですか!」



 なんて幸運だ。

 さっそく師匠といちゃいちゃ出来るとは転生してよかった。



「いやまて、眼が怖いのじゃ。アリシア2人の相手を頼むのじゃ」

「えーー、どうしようかなークロウ君えっちだし」



 アリシアが冗談を言い出す。



「全然俺は紳士だよ」

「おい! クロウベル。先にゆずれ! メルといったな戦いの途中でおさわりはありか!?」



 わが兄でありながらなんて卑怯な男だ。

 そりゃ触れる事もあるだろうけど、相手は少女だよ? そんな事したらトラウマになるじゃないか。

 スゴウベルの質問に師匠がひどくため息をついた。

 近くにいたアンジュもひどいため息をつく。



「スタン家の御子息が本当に申し訳ございません」



 アンジュがなぜか謝ると、師匠は手をふりふりとアンジュを慰める。



「給金はいいからな……アリシア、いけるかのう? 嫌だったらやっぱりワラワが」

「はい先生! アリシアは大丈夫です!」

「すまんのう、上のエロカギよOKらしいぞ」

「よし! 悪いなクロウベル。アリシアちゃんは俺が貰った」

「いや、貰うも何も。俺は狙って……いや訓練に私情持ち込んだらダメでしょ」



 スゴウベルが一瞬俺のほうを向いて何か言いたそうな顔をしていたが何も言わないでアリシアのほうへ向かっていった。



「小僧お主本気で言ってるのじゃ……いやええいい! 仕切りなおすのじゃ、メイドよ」

「はい。お任せを一般的なルールで行いなす」




 アンジュが地面に大きな円を描き、その中での試合。

 何でもありの試合で勝敗はお互いの頭の上にある紙風船を割るまで、もしくは円の外、あきらかに戦意喪失、命の危険、などがあれば止めるとのことだ。



「いいかエロカギ。お主がアリシアを押し倒そうか揉み下そうか円の中であれば黙認しよう。しかし! ルールはルールと覚えておくのじゃよ?」

「当然だ! あんな小娘に俺様が負けるはずがない」

「大丈夫です先生」



 俺は円の外で3人を見る。

 戦う二人はお互いに木剣を持って数歩離れた所だ。


 俺の横には青いパンツを見られたアンジュが寄ってくると少し咳払いをしてくる。



「クロウベル様はどちらが勝つと思いますか? 昔から力は強く最近では負け越しが続いていますが少し乱暴者のスゴウベル様と、魔法使いと言えと組倒されたら力の弱そうな女の子」

「いや、どうみてもアリシアでしょ……何でもありだったら」

「賢明なお考えです」



 試合開始なのじゃ! と声が聞こえるとスゴウベルは剣を捨ててアリシアに走っていく。

 もう野獣だな。


 アリシアは剣を構えたまま口を動かすと剣先から炎が回転しスゴウベルへと向かっていった。



「馬鹿の一つ覚えみたいに走るから……」

「そうですよね」



 スゴウベルは場外に吹っ飛んで倒れた。あちこち小さいやけどになっているのは威力が小さいからかな。



「あっち! あちいいいい! しぬ、しぬううう! ころされ――」

「軽度の火傷でしにはせんのじゃ。だから言ったのにのう……アリシア、ヒール回復魔法をかけてやってくれ」

「はーい先生! 癒しのマナよ、その奇跡を我にヒール!」



 空中にに透明な水みたいのが見えるとスゴウベルの体を包み込む。

 流石に瞬間とはいかないが火傷が治っていくのが見えた。



「すごい……」

「えへへ」



 近寄って来た師匠がなぜか仁王立ちでふんぞり返る。



「どうじゃ凄いじゃろ! アリシアは数少ないヒーラーの素質を持つ女じゃぞ! ゆくゆくは大神官や聖女もありえるのじゃ!」

「先生! 私はそんなにすごくないですよ……将来の夢はお嫁さんですし」



 アリシアが照れ始める。

 やっぱりゲームヒロインのアリシアに違いないんだけど、すこしかわいそうに、その旦那はハーレムの呪いにかかってアリシアは気苦労が増えるはずだ。



「さて、次は小僧お主じゃ」

「師匠、おれはクロウベルって名前がですね、うわ無視して歩いているし」

「先生はクロウ君に可愛いって言われて照れてるんですよ」

「まじで!?」

「アリシア! 変な嘘をいれるな!」



 アリシアが「ウソって言われちゃったね」と舌をだすと円の中に戻っていく。

 俺もアンジュから木剣を借り円の中に入っていった。



「では二人ともいいな」

「はい先生! 姐弟子として頑張ります!」

「師匠見ていてください! 弟子としてがんばります」

「アリシアは弟子じゃなくて友人の子。弟子枠より上じゃ、一方小僧は弟子以下じゃならかな」



 戦う前から気分が下がる。

 何もそこまで言わなくても……まぁまずは実力を見ないと。

 最近アンジュにしか負けてないのでどれほど強くなったのか知りたいし。



「試合開始! なのじゃ」



 俺は剣を構えたまま動かないでいると、アリシアも動かない。

 遠くでアンジュの「見極めとはさすがです」とかほめる声が聞こえたような。


 対魔法使い。

 スゴウベルの戦い方は実は合理的だ、魔法を打つ前に相手を抑えればいい。


 たぶんアリシアじゃなかったらスゴウベルの勝ちであんな事こんな事されていたかもしれない。



「むーやっぱり直ぐに来ないんですね。でも魔法使いに時間稼ぎするとこうですよ? ファイヤーバースト!」



 俺にらせん状の炎の固まりが襲ってくる、以前の俺であればあたっただろうが、アンジュの特訓のおかけだ。

 その魔法をギリギリの所でかわすとアリシアに向かっていく。



「ですよねーでも」

「ファイヤーバースト! ファイヤーバースト! ファイヤーボール! ファイヤーボール! ファイヤーボース!」

「なっ!」



 アリシアの手にはいつの間にか木剣じゃなくて杖が握られていた。

 そして魔法を連呼、らせん状の炎の固まりから、野球ボールサイズの炎の球がどんどんと襲ってくる。



「昔から魔力だけは多いんです!」



 アリシアの自慢を聞きながらなんとかさばく、バーストは当たれば場外、ファイヤーボールは当たってもいいけど当たりたくはない、木剣で何とかはじき飛ばす。


 あと少しでアリシアの頭に剣が届く、その時に俺の体に何か襲った。



「っ!? 殺気かっ!」



 殺気。言い換えれば気配、悪寒、化学では証明できないけど確かにある。


 アンジュとの特訓で初期に課せられる訓練の一つだ、横目でアンジュを確認すると木剣を手に取るだけで動こうとしてはいない、では誰だ。


 首を回すと師匠と眼があった。

 にやにやした顔で俺を見ると、なんて可愛いんでしょう。こんな俺に向かって殺気を放ちいかくするとか猫か何かかな?



「捕らえました! ファイヤーバースト!」



 アリシアの声で前を向く。



「やっば」



 もう手を出せば頭の紙風船を割れる位置にいた。

 それでいてアリシアは魔法で俺を吹き飛ばすらしい、どんだけ魔法に自身があるんだっ。



「なっウォーター! 面倒だ! 水盾よ!」



 俺は水を空中にだして詠唱の省略をして盾のイメージをした。

 元日本人というか横文字よりも日本語のほうが俺の頭の中でイメージがしやすいのだ。


 人よりも大きい五角形の盾が俺をファイヤーバーストから守ってくれる。


 呆気にとられるアリシアのファイヤーバーストが収まったと同時に俺の水盾も滝のように壊れる、最後にアリシアの頭にある紙風船をチョップで壊した。



「勝ちました師匠! あれ……? 師匠なぜ黙ってるんです。ねぇアンジュ……アンジュもえ、なんで?」


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