第5話 可愛いを連呼

「本当にごめんなさい!」

「いや、もう大丈夫だから」

「ふん、あのまま焼け死んだほうが良かったかもしれんのう」



 謝ってくるのはアリシアという女の子で師匠の事を『先生!』と呼ぶ少しだけ長めショートの少女。

 年齢は聞いていないが10代中盤にはみえる火と聖の魔法属性が強いらしく、それぞれ対応した魔法が使えるらしい。


 何で知っているかというと、アリシア本人がそう言っていたからでもあるけど、ゲームをプレイしていたからだ。


 その回復魔法の力で俺達全員を火傷から直してくれたのは彼女のお掛けだ。もっとも、俺達全員を火傷にしたのも彼女の力だ。


 ファイヤーバーストを一番食らった俺は本当にやばかったらしく、回復後もこうしてベッドに寝かされている。


 アリシアと師匠は同じ部屋にこうして見舞いをしてくれていた、その師匠が感情のこもってないような声で喋りだす。




「じゃっ。小僧の火傷も治ったしアリシア帰るのじゃ」

「えっ?」

「えっ?」



 俺は驚いて声を出してしまった。

 横にいたアリシアも同じ声で驚いてくれる。



「何を驚いた顔をしてる、それもアリシアもじゃ」

「だって先生は借金が多いから、それを返済するのにこの仕事を受けたって」

「そうなんですか師匠!」



 年齢不詳で長く生きているのに借金とか。

 言ってくれれば借金ぐらいスタン家の私財をなげうってでも……は流石にだめか。

 5分の1ぐらいなら売ってもバレないかな?



「うぐ。何が師匠なのじゃ、冗談に決まってるじゃろ。ワラワはまだお前みたいな初対面で突然胸や腹を揉んでくるような奴を弟子に取る事はないのじゃ!」



 完全に怒っている。

 それは置いておいてまぁ何という事でしょう、師匠の一人称がワラワとかゲームと同じじゃないですか。



「でも聞いてください、俺は師匠が可愛いから突撃するんです、俺だって可愛くない人に可愛いとは言わないですし師匠の年齢はしりませんが、可愛いですよ」

「初対面で、こんな年上を捕まえて可愛いとか、ワラワをおちょくりおって」



 白い肌が赤くなっている。

 うーん、可愛い。



「先生顔が赤いです!」



 アリシアが一撃を加えた。



「ぬかせ! ワラワはとにかく帰るのじゃ。アリシアのためと思ってちょっと仕事を受けたら子供なのに変態しかおらんのじゃ」

「でも師匠。うちは貴族です、ちょっと我慢して俺を弟子にすればお金がたんまりですよ」



 お金が欲しくない。といってもあるに越した事はない。



「うぐ……」

「俺の小遣いもあげますよ」

「だれが小僧みたいな奴の小遣いまで取るか! ワラワを何じゃと思ってる!」



 あ、逆効果になってしまった。



「それは冗談ですけど。そうだ!」

「まだなんぞあるのじゃ?」



 壁に寄り掛かっていた師匠の顔が困っている。

 もう一声だ!



「アリシアさん。君だって美味しい物と美味しくない物どっちが食べたい?」

「え。それは美味しい物ですけど……」

「ほら。スタン家でちょーっと我慢して家庭教師をすれば、アリシアさんも美味しい物を食べれるよ」



 ごくりとアリシアの喉が鳴った。

 もう一押し!



「昨日は何を食べたの?」

「昨日ですか……? 確か身が少ないスープと固めのパンで。あっ! さっきは美味しい果物貰いました」

「ほう、スタン家ではお代り自由だよ。パンも焼きたてデザートもある」

「デザート…………大丈夫です。私我慢できます……」



 アリシアが師匠を見てはすぐに下を向く。



「あーーー! もうわかったのじゃ! 負けじゃ負け! ワラワが我慢すればいいんじゃろ。いいだろう給金は高いなのじゃ!」



 勝った!



「給金に関しては父かアンジュに相談してください」

「よしわかった! 吹っ掛けてるのじゃ、ド変態がどうしてもっていうからなのじゃ。となのじゃ」



 師匠はそう言うと部屋を出ていく残ったのは俺とアリシアだけ。



「アリシアさんもゆっくりして、今日から俺と同じ師匠を持つ……いや俺からすれば姉弟子って事になるのかな。ええっとアリシア姐さん」

「そういう事なら……アリシアでいいよ。貴族の息子さんの家庭教師をするって聞いて、どう呼んでいいか困っていたの。ここに来る前は先生は『歳も近そうだから呼び捨てにしろなのじゃ』って言ってたし、それでいいかな?」



 それは好都合。



「俺の兄がちょっと貴族よりな考えだからそこだけ注意してくれれば俺は大丈夫。よろしくアリシア」

「こちらこそ……貴族様だからクロウベル様」

「……クロウでいいよ。うちの家系名前の最後にベル多くて面倒だし、いやぁアリシアがいて助かったよ」

「そんなこちらこそ、クロウ君」



 もじもじする姿は可愛い部類に入るのだろう。

 いや可愛いよ。

 原作の血というか……本能的に訴えるんだけど、アリシアはクウガという主人公と結ばれるから可愛いのだ。


 それに少女に手を出すのは勇気がいる。

 俺の精神年齢は四捨五入して20代だ、この世界は別に珍しい事ではないらしいが社会人が高校一年生に手を出すのと一緒だよ。


 部屋の扉が音を立てて開く!



「喜べアリシア! このクソガキの親から予定の2倍もぎ取って来たのじゃ!」

「先生。クロウ君にはちゃんと名前があります」

「師匠からクソガキ認定って事はクソガキらしくちょっとえっちなイタズラとか何してもいいんですね!!」

「ひっ!」



 おっと、引かせてしまった。



「いやあの冗談です師匠」

「小僧が言うと背筋が寒くなるのじゃ、まぁいいのじゃ。アリシア。そいつを放置して飯にするのじゃ」

「え、でも……」

「火傷は完治してるし行ってきていいよ。俺はもう少し横になっているから」

「ありがとうございます」



 何か礼をいわれるとこっちが照れる。

 師匠が何か言いたそうな顔で視線があうと、突然に目を背けた。

 うーんやっぱり綺麗で素晴らしい。


 しかも。


 動く、喋る、匂いもあれば弾力もある。



「おいクロウベル!」



 師匠達と入れ違いでうるさいのが来た。



「ええっと、スゴウ兄なに?」

「メイド達に聞いたが客人の女に抱きついたとか、頭が狂ったかと思ったが……あの女はなんだ!」

「えっ師匠の事? 可愛いよね、ぼんきゅっぼんでさ銀色の――」

「違うわ! もう一人いただろ部屋を燃やした女が」



 ああ、アリシアの事か。



「別にエル師匠の弟子とか……原作前は良く知らないのよね」

「何の話だ? オレはアイツを嫁にする!」

「…………無理でしょ」

「なんだと!!」



 だって原作ではアリシアはクウガと旅するし、そのスゴウベルも俺の父と同様5年後には死んでる。

 


「いや……強くなればいけるのか?」

「強く? よし! 俺もアイツの弟子になってもいいぞ! メルといったな。お前なんてすぐに追い抜いてやる!」



 こぶしを握り締めるスゴウベルだけど、中身大人は俺は忠告して見る。



「え。いやなんで? 父には許可得た? 今さら改心したって俺より強くなるとは限らないよ? 先に性格直したら?」

「おまっ……聞け!」



 俺の肩を強引につかんでくる。

 本気を出せば跳ねのけるけど、最近負けて部屋にこもっていたスゴウベルの必死さで話を聞いてみる。



「お前があの年増――」

「あ”?」

「…………いや、中々に綺麗な女性を狙っているのはわかった。そこでだ! アリシアっていうのかあの女は、そっちはフリーだな」

「フリーというか恋人はいると思うよ」



 だからクウガという幼馴染がいる。



「だからどうした? このスゴウベルの彼女になれるんだぞ? 恋人がいるとしても別れるだろ、金だってある、他に何もいらないだろ」



 うーんゲス。

 さすが悪役令息と言われた俺の兄である。

 世の中力とお金で解決とはすばらしい。



「まっ頑張るだけなら挑戦券はあるから、俺としては師匠と時間を取られたくはないなぁ」

「だが考えろ俺様がアリシアと一緒であればお前はその師匠と言う奴と一緒だぞ」



 なんと!

 いやしかし、アリシアを売るのは……いやでも、悪魔的な意見に頷きかける。



「だ、ダメだ! 流石にそれは」

「ふーん……まぁどの道お前に勝つのに訓練はするけどな」

「え、そうなの?」

「協力を得られれば楽と思ったが仕方がない、俺の本気の実力を出す時が来たようだ」



 うーん、自分の兄ながら何て三下なんだ、本気の実力があれば30敗もしないだろうに。



「さて。小娘に挨拶をしてくる。お前は何時までも寝てるが良い先手必勝って言葉しってるか? 愛人の子には知らないだろうな」



 扉を閉めないで出て行くので俺はため息をつく。

 ………………死なせたくはないな。


 ふと真面目モードになる、なぜか知らないが5年のうちに2人は死んでいるのだ。


 ゲーム本編ではアンジュも既に屋敷にはいなかったからだ、少し調べる必要があるかもしれない。

 

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