第4話 家庭教師とクロウベル

 正座というのはどこの世界に言ってもあるもんなんですね。と、少し感情的になる。


 俺とスゴウベルは屋敷の一室で正座をしているのだ。

 

 なんで? 当然街での騒ぎの結末だ。


 あれだけ騒ぎを起こせば、どこのだれなのかってのはバレるもんで、貴族のサンドベル様の御子息だ。と誰かか叫ぶと周りが慌て始めた。


 貴族の息子が吹き飛んで怪我をした。かもしれない。といえばそれはそうなるのかもしれない。


 そこからは特に怪我も無い俺は必死に手当てをされて、横ではいかに自分が凄い人間なのか自慢しているスゴウベル。


 騒ぎが収まるのは青筋をつけたアンジュが到着したまでである。

 アンジュからは「とりあえず事の顛末を」と、言う事でこうして書斎に連れてこられたわけである。


 にしてもだ下手をうったでござる……何でござるかは不明だけど気づいたら師匠もいなかった。


 ちょーっとくんかくんかしただけで吹き飛ばすとは、攻略しがいがある女性、女性キラーの主人公クウガになびかないだけはある。



「聞いているのか? クロウベルよ」



 怒っているのは父であるサンドベル。



「え。聞いています」



 俺は顔をあげているが、隣のスゴウベルは顔を下に向けている。



「では……街で暴れたくて暴れたわけじゃない。と言いたいのだな」

「それはもちろんです。父上! ほら、スゴウ兄も何か。元々スゴウ兄が提案した事だし」

「お、お前がっ!」



 いやだわー怒りの矛先が俺に来る。



「父上! スゴウ兄は父のためにお土産を……僕も一緒に探したんですけど、ちょっと疲れたのか転んでしまって」

「転ぶ? いつの話だ?」



 隣にいるスゴウベルが疑問符を上げているが畳みかけるしかない。



「ですから、スゴウ兄を怒らないでください。僕が悪いんです」



 秘儀、部下をしからないで作戦。

 失敗した部下の代わりに俺怒ってください。という奴で大抵は怒りは収まってくれる。


 注意するのは、まれに本気でかばった方を怒る上司がいるので見極めが大事だ。



「父上を驚かせようと……お土産も……」



 スゴウベルの言い訳に、父サンドベルの怒り顔も少し

やわらいだ。



「ふう…………貴族は暇か?」

「い、いえ!」

「だろうな貴族と言えどバカ騒ぎを起こしてはいかん、いかに家族をを守り金を稼ぎ、時には王に意見も言う。お前達が駄目にした商品はスタン家が買い取った」



 お金は大事だよ。という父のお説教である。

 今度は俺のほうを向いてきた。



「お前はどうだクロウベル」

「暇です」



 ここは正直に答えてみた。



「はぁ……馬鹿正直に……ワシがお前の年齢の時など剣の修行に明け暮れて遊ぶ暇など――」

「その頃は可愛らしかったですね」



 突然の声に振り向くとメイド長であるアンジュの登場だ。

 父サンドベルは少し嫌な顔をしたのを俺は見逃さない。



「アンジュ。父上の若い時も知ってるの!?」



 子役を演じつつ知っていた情報を聞いてみる。



「ええ、もちろん……サンドベル様とは同じパーティーを組んでましたので。もちろんゼロベル様、スゴウベルのお母様ソニア様やクロウベル様のお母様であるカナデ様もご一緒でしたよ」

「…………あーそのアンジュ昔話はその辺にしてだな」



 なんだろう、アンジュが笑顔なのはいいとして何か怒っているような空気を感じてしまう。

 父であるサンドベルもそうなのだろう、声が上ずっている。


 王に意見を言う事は出来てもメイドには意見を言えないようだ。と、言う事はスタン家で一番偉いのはアンジュなのかもしれない。

 


「と、所でアンジュ今は大事な話をだな」



 お、それでも父はなんとか頑張った。



「そうですか、では大事な話の前に来客です。ずいぶんと若そうな女性が訪ねて来てますけど、お知り合いでしょうか?   今はお客様用の部屋で待機してもらっています」



 なるほど。

 父の女遊びという奴か、アンジュとしても愛人の座に収まっているが新しい女性には敏感なんだろう。


 アンジュの『今度は』という所に父が今までにやって来た事がわかってしまう。



「アンジュ! 何を勘違いしているか知らないが誤解だ。ワシは遊びは卒業してる! そう本気なんだアンジュよ!」

「サンドベル様……」



 なんだか昼ドラみたいな空気になったので、俺は少しだけ「ゴホン」と咳払いをした。



「っ!?」

「!!」



 身だしなみを整えた父は平常心を取り戻したようだ。

 アンジュもいつものアンジュの顔に戻っていく。



「さて……その女性は名を何て言っていた」

「メルと」



 メル!?

 俺がその名前で固まると父であるサンドベルは手をポンと叩いた。



「ああ! なるほど、頼んでおいた魔法使いの先生だ」

「先生……?」



 俺が確認するとサンドベルは力強く頷く。そして俺とスゴウベル、アンジュを見渡すと口を開いた。



「その……スゴウベルとクロウベル。二人の仲が良くないと聞いてな、クロウベルに少し自信を持ってもらおうと、どうも以前のクロウベルでは剣の道は何もなさそうだったし」



 以前の俺だったらそうだろう。

 でもこの数ヶ月はアンジュに鍛えて貰ってる、水が合うというのか鍛えれば鍛えるほどに吸収していてアンジュからも『天才』ですね。と褒められている。


 その『天才』はアンジュに勝てないんだけど……。



「剣士の道は厳しいから魔力に特化した家庭教師を手配しておいた。もし魔法使いの才能があれば……と、お前の母カナデも魔力は多い。しかしだ! 魔法使いは中々教師になる人物がいなくてな、王都で頼んだのを思い出した」

「僕にですよね?」

「ああ……だがもう要らないだろう。スゴウベルにまぐれでも勝てるなら剣の道でも趣味にしておけば」



 え、待って!




「アンジュ。その人の恰好は?」

「恰好ですか……灰色のローブで髪は銀色。長身でサンドベル様が好むような大きな胸でしたね……それと、いえ気のせいでしょう」



 アンジュがその後に小さく。目くらましの魔力がなんだらかんだらと呟くのが聞こえた気がした。



「帰って貰え。ここまでの旅費と迷惑料は払って――」

「父上!」

「うお!」



 思わず父の目の間に俺は立っていた、そしてその手を握りしめる。



「僕家庭教師が欲しいです」

「いやしかしお前、家庭教師いらないぐらいに強いだろ」

「俺は魔力でも強くなりたいです! 父上だって若い時に冒険に出ていたのなら強さを求めるのはわかるでしょう!」

「まぁな、しかし……」



 父が頷きそうなると、アンジュが咳払いをする。



「メイド長としてはサンドベル様が好きそうな女性を家に上げるのは反対ですし、クロウベル様の教育にも悪そうです」

「そ、そうか。クロウベル諦めろ」

「アンジュ! ばらすよ。そりゃ街中まで聞こえるぐらいに」



 俺が振り向き行った言葉にアンジュと父サンドベルの顔が固まる。

 声に出さないで『ちちうえのことを』と口パクで付け加えた。

 一人知らないのはスゴウベル一人である。



「何の話だ。おいクロウベル。メイドの秘密でもあるのか?」

「実はアンジュと父は――むぐ!」

「サンドベル様、クロウベル様もこのように強くなりたいという気持ちが表れていますので、どうでしょう期間を決めてお雇いになっては……もちろんクロウベル様が若い時のサンドベル様みたいに暴走しないように見張りますけど……もちろんサンドベル様も見張ります」



 うぐ!? 俺が暴走だと。


 暴走なんてした事がないしするつもりもない。

 メルギナス師匠の弟子となり師匠と訓練しながらハプニングと生じて尻や乳を触ったり、温泉イベントなど『うわー大きな山が、おっと師匠の胸でしたか!』などそういう事がしたいだけだ。



「俺としてはアンジュの意見に従おう……」

「ありがとうございます父上! さっそく挨拶をしてきますので」



 俺は階段を駆け下りると客間の扉を開けた。

 一人のローブ姿の女性が後ろ向きで立っている、師匠に違いない!



「師匠おおおお!」

「きゃっ!」



 俺は抱きつきその尻に頬ずりした。

 少し柑橘系の匂いが……あれ? さっきと違う。

 俺は頬ずりを辞めて上を見上げると銀髪というよりは水色でそこそこ長い髪の少女が涙眼で俺を見ている。


 活発な図書委員って感じの少女だ。


 そっと離れて身だしなみを整えた。

 数歩後ろにさがり客間の扉を閉める、丁寧にノックをして扉を開けた。



「こんにちは。俺はクロウベル、家庭教師のメルさんって貴女でしょうか?」

「お前凄いのじゃ。今の行動を無かった事にしようとはそいつはワシの知り合いの子でアリシアじゃ……よし、ワシもこの話は無かった事にするのじゃ。アリシア帰るぞよ!」



 別の声で振り向くと、丁度死角に入る所にローブ姿の女性が壁に寄り掛かっている。


 魔女メルギウス! その本人が登場である。

 二度目だけど……。



「うおおおおおお! 師匠おおおおおお!!」

「こ、こはなせ! 離せって、どさくさに紛れてむ、胸を触るなっ! 師匠じゃない!」



 先走ったか! しかし俺はまだ少年。

 胸ぐらいは許されるんじゃ?

 精神年齢? 深く考えてだめだ。



「くっ! スタン家の女好きの体質がクロウベル様にも! クロウベル様だけは大丈夫と信じていたのに!」



 アンジュの声が聞こえたかと思うと後頭部に痛みが走った。



「まだまだあああ!」

「く、訓練されて無駄に強く!」

「ごたくはいいからさっさとコイツをハガセなのじゃ!」

「先生! た、助けます。ファイヤーバースト!!」

「のおおお! アリシアバーストは駄目なのじゃ! 火力がっでかいのじゃ!!」



 俺の視界が一気にまっかになると、今度こそ意識がなくなった。

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