第4話 初めてのことと、2年ぶりのこと
…ん、眩しい。朝か。
なんだか妙にスッキリしてるな。
ウィセルは暑さで寝苦しかったし北上してきたのが良かったのかもしれな…
「おはよう、リツ…さん」
「…おはよう、マリナ。なんで部屋にいて、しかも裸…あー、いややっぱり答えなくていい」
「…うん」
ポーションを飲んで頭がぼんやりしていたはずだが、昨夜のことはよく思い出せる。
いくら独り身で寂しかったからといってあんな…!
「あ、そういえば船は…」
「うん、もう朝の便は全部出航しちゃったよ」
くっ、やっぱりそうか。
昼の便に乗れば夜になる前に王都には着けるだろうけど、先払いした分が無駄になってしまった。
まぁ、それはもうしょうがないか。それより…
「なぁ、マリナ。その…」
「…あはは、あんまり気にしないでよ。王都まで一緒なんだし、気まずくなるのも嫌じゃん?せっかくだし昼の便の予約してから優雅にブランチでも食べようよ」
「そうか…そうだな。分かった。ありがとうマリナ」
「どういたしまして!」
こんなに甘い対応をされておいてその上ポーションのせいにするつもりはないが、それはそれとしてあのポーションはもう飲まないようにしよう…
─────
「相変わらず大きい街だな、ここは」
あの後、問題なく昼の便に乗船した俺たちは予定より早く夕方になる前に王都に到着した。昼の便は乗客が少なかったからな。
その間マリナとの会話は多少ぎこちなかったが、時間が経てば元通りだ。
…歳下だろうにその気遣いには感謝しかない。
「王都に入ってからも長いんだよね…よっと」
このリートン運河は王都を縦断しており、俺たちが下船したのは王都の中心部と言える場所だ。
王都の領域に南方から入り、そこから速度を落とした状態とはいえ中心部に着くまで数十分かかるのだからその広さには圧倒される。
「俺は冒険者ギルドに行くから、ここでお別れか」
「実はポーションの届け先も冒険者ギルドなんだ。だから一緒に行こ!」
冒険者ギルドまでは徒歩10分ほどで着く。
けど、たった10分でもマリナと一緒にいられる時間が延びるのは嬉しかった。
─────
冒険者ギルド…それも王都の本部ともなればその大きさもかなりのもので、出入りする人の数も多い。
その分得られる情報も多く、ロビーに行ってドラゴンに関する情報を集めたいところなのだが…
「リツ、こっちは関係者用出入り口だよ?」
「ああ、実は会っておきたい人がいてな…ちょっと面倒な相手だから配達の方を先に済ませてくれ」
「なるほど、じゃあお言葉に甘えて!…すみませーん、ノーベル本部長にお届け物でーす」
ん…?ノーベル本部長…?
「あら、マリナさんいつもの?ちょっと待っててね、本部長呼んでくるから」
そう言って職員は立ち去っていく。何度も配達しているだけあって、職員にとってマリナはもう顔馴染みのようだ。
「…マリナ、届け先って…」
「ノーベル本部長だよ!驚いた?…意地悪して隠してたわけじゃないよ、個人情報だからね」
「それは分かってる、ちょっと予想外だっただけだ、あの人にポーションが必要とは思えなくて…」
だって、あの人の旦那さんは…
「あたしがポーション買っちゃ悪いのか?」
「うわっ!?…びっくりした、脅かさないでくださいよ…リンダさん」
「はぁ…2年じゃ生意気なところまでは変わらないか。久しぶりだな、リツ」
リンダ・ノーベル…冒険者ギルド本部長にして、かつて武勇を轟かせた冒険者パーティ『光の同盟』の元メンバー。
その燃えるような赤髪が象徴する、二児の母とは思えない溌剌さは2年経っても変わっていないようだ。
「えっ、えっ?おふたりはお知り合い…なんですか?」
「まぁ…剣の師匠だよ、冒険者としても」
「元師匠な。…それよりリツはともかくマリナは長旅で疲れてるだろ?中で話しようぜ」
リツはともかくって…まぁ船の固い座席はお世辞にも座り心地が良いとは言えなかったし、応接室の柔らかいソファで癒されるとしよう。
…あとポーションのことも聞きたいし。
竜を殺す冒険者 Sat @xskyguyx
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