第41話 王族と皇族達の夜


 その日の夜、誰もが寝静まった王城内。


 ウィルフレッドの自室では、部屋の主であるウィルフレッド本人と、妻であるマーガレット、そしてストロザイア帝国皇帝ヴィンセントがそれぞれワインが注がれたグラスを片手に、楽しい大人の会話(のようなもの)を繰り広げていた。


 「いやぁ、昼間はエレンが悪かったな」


 と、ワインを飲みながら、今日起きた出来事について謝罪(?)したヴィンセントに対して、ウィルフレッドはスッと右手を上げて、


 「その謝罪は私にではなく、爽子殿達にお願いしたいのだがな」


 と言った。そしてそれに続くように、マーガレットも「うんうん」と頷いたので、ヴィンセントは「ハハハ、そうだな」と気まずそうに頭を掻いた。


 すると、


 「ところで……」


 と、ウィルフレッドはグラスをテーブルに置いて、ヴィンセントをでそう呼ぶと、


 「お前は、本気で春風殿を手に入れる気なのか?」


 と、真面目な表情でヴィンセントにそう尋ねた。


 その質問に対して、ヴィンセントもグラスをテーブルに置くと、


 「ああ、本気だぜ。俺は、その雪村春風って奴を帝国に迎え入れる」


 と、ウィルフレッドと同じように真面目な表情でそう答えた。


 その答えを聞いて、ウィルフレッドが「そうか」と言うと、ヴィンセントは話を続ける。


 「さっきも言ったが、水音の話を聞いて『何そいつ、超面白そうじゃん!』って思ってな、そんな奴が帝国うちに来たら、『きっとスゲェ事が起きんじゃねぇか?』って考えちまってな、是非とも迎え入れたいって思った訳よ」


 と、真面目な表情を崩さずに言うヴィンセント。そんな彼を前に、ウィルフレッドは小さく「そうか」と言うと、ヴィンセントは「それとな……」と更に話を続ける。


 「こいつはあくまで俺のなんだが……」


 「「?」」


 「話を聞いて感じるんだわ。その春風って奴……近い将来、何かをやらかすに違いねぇ。それも、『世界』が動くほどのデケェ事をな」


 そう言ったヴィンセントに、ウィルフレッドはゴクリと唾を飲み込むと、


 「ならば、そんな彼をみすみす『外』に行かせた私は、酷い愚か者だろうか?」


 と、ウィルフレッドは表情を暗くしながら、尋ねるようにそう言ったので、


 「なぁに気にすんなって。無事にそいつを帝国に招いたら、お前にも報告するからよ」


 と、ヴィンセントは励ますようにそう言った。


 その言葉を聞いて、


 「……ありがとう」


 と、ウィルフレッドはそうお礼を言った。


 その後、ウィルフレッドとヴィンセントはテーブルに置いたグラスを手に取ると、2人同時にぐいっとグラスの中のワインを飲み干した。


 さて一方その頃、ウィルフレッドの自室から離れた位置にある、第1王女クラリッサの自室では、


 「うぅ、痛いじゃないかクラりん」


 と、痛そうに自分の頭を摩りながら言うエレクトラを前に、


 「あなたがいけないんでしょ、エレン。あと、クラりんと呼ばないで」


 と、部屋の主であるクラリッサは、頬を膨らませてプンスカと怒りながら言った。


 そして、そんなクラリッサの隣には、「はぁ」と溜め息を吐くクラリッサの妹イヴリーヌがいる。


 そんな王女姉妹を前に、


 「し、仕方ないだろ、惚れてしまったんだから!」


 と、エレクトラは言い訳するが、


 「だからといってあれは流石に有り得ないから。水音様も困ってましたし」


 と、クラリッサはその言い訳をピシャンと跳ね除けた。因みに、その横ではイヴリーヌも「うんうん」と頷いていた。


 すると、エレクトラは「うぅ……」と唸って、


 「じゃ、じゃあクラりんとイヴりんはどうなんだ!? 勇者達の誰かに惚れたりしてないのか!?」


 と、怒鳴りながらそう尋ねると、


 「え、私? うーん……」


 とクラリッサは考え込み、


 「……」


 と、イヴリーヌは黙り込んだ。


 すると、そんな彼女達を見て、


 「まさか……水音が話してた『雪村春風』って奴とか?」


 と、エレクトラは意地の悪そうな笑みを浮かべながらそう尋ねると、


 「いえ、それはないわ」


 と、クラリッサははっきりとそう即答したので、


 「え、な、何でだ!? 水音が言うには、『大変美しい奴』というじゃないか!?」


 と、エレクトラは意外なものを見るような目で再びそう尋ねてきたので、クラリッサは「む」となって答える。


 「ええ、確かに彼の素顔はけど……」


 「けど?」


 「美し過ぎて……逆に異性として見れない」


 と、再びハッキリとそう言ったクラリッサを前に、エレクトラは「え、マジで?」と小さく言うと、


 「じゃ、じゃあイヴりんは? イヴりんはどうなんだ!?」


 と、今度はイヴリーヌに向かってそう尋ねてきたので、話を振られたイヴリーヌは「え!?」と驚いた後、


 「そ、それは、その……」


 と、戸惑いの表情をした後、


 「わたくしは……だと、思います」


 と、頬を赤くしながら言った。


 その答えを聞いて、エレクトラだけでなくクラリッサまでもが「ガーン」となった後、


 「え、い、イヴ! まさか、本気……!?」


 と、クラリッサは立ち上がってイヴリーヌに詰め寄ろうとしたが、


 「……あ、ちょっと待って」


 と言うと、クラリッサはその足を止めて考え込むポーズをとりながら、何かを考え始めた。その姿を見て、


 「お、お姉様?」


 「ど、どうしたクラりん?」


 と、イヴリーヌとエレクトラが声をかけようとした、まさにその時、


 「……ぐふふ」


 と、クラリッサは王女らしからぬ笑い声をこぼしたので、


 「お、お姉様!?」


 「どうしたクラりん!?」


 と、驚いたイヴリーヌとエレクトラがクラリッサを問い詰めようとすると、


 「イヴ!」


 と、クラリッサはそう言ってイヴリーヌの両肩をガシッと掴んで、


 「私が許すわ! 彼のハートを、ガシッと掴んできなさい!」


 と、目をぱちくりさせるイヴリーヌに向かってそう言った。


 その言葉を聞いて、


 「は……はい」


 と、イヴリーヌはそう返事したが、その時のクラリッサは、あまりにも邪悪な笑みを浮かべていたので、


 (あ、こいつ、絶対何か悪い事企んでるな)


 と、エレクトラは呆れ顔になった。


 そんなイヴリーヌとエレクトラを無視して、


 「ぐふふふふふ……」


 と、クラリッサは更に不気味な笑い声をこぼすのだった。

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