第40話 中庭にて


 その日の夜、ルーセンティア王国王城内にある中庭で、


 「はぁあああああ……」


 と、水音が1人、その中庭の隅に備え付けられた椅子に座って、で大きく溜め息を吐いていた。


 (どうしてこうなっちゃったんだ?)


 と、心の中でそんな事を呟きながら、水音はウィルフレッドの自室での事を思い出していた。


 あの後、


 「じゃあ、俺とエレンは明日帰るから、お前達6はその時一緒に行こうな!」


 と、ヴィンセントがそう言ったように、水音、祈、出雲祭ーー以下、祭と晴山絆ーー以下、絆に、進、耕の6人が、ヴィンセントとエレクトラの故郷であるストロザイア帝国に行く事が決まった。その際、


 「いや、ちょっと待ってください!」


 と、爽子をはじめとした一部のクラスメイト達から抗議の声が上がったが、


 「すまない、こいつはなんだ」


 と、ウィルフレッドに説得(?)されてしまい、結局、ヴィンセントの決定が覆る事はなかった。


 その後、その場は解散となり、水音達はウィルフレッドの自室を出ていくと、それぞれの部屋へと帰ったのだが、水音だけは部屋に戻らず、クラスメイト達と別れて、1人、中庭に向かい、現在に至る。


 「あああもう、どうすりゃあいいんだよ!?」


 と、水音が夜空を見上げながらそう叫んだ、まさにその時、


 「桜庭君」


 と、水音を呼ぶ声がしたので、水音はすぐに「ん?」と声がした方へと振り向くと、


 「あ、時雨さん」


 そこには、心配そうに水音を見つめる祈がいた。


 「ど、どうしたんですか時雨さん?」


 と、水音は若干おろおろしながら、祈に向かってそう尋ねると、


 「あ、あの、桜庭君、凄く元気なさそうだったから……後をつけちゃいました」


 と、祈は最後に「ごめんなさい」と謝罪した後、水音に向かって深々と頭を下げた。


 そんな祈の姿を見て、


 (あ、もしかして心配させちゃったのかな?)


 と考えた水音は、


 「え、えっとぉ。僕の事でしたら大丈夫ですので、どうか顔を上げてください」


 と、祈を励ましながらそう言った。


 その言葉を聞いて、祈は「は、はい」とゆっくりと顔を上げると、


 「あ、あの、桜庭君」


 と、恥ずかしそうに顔を赤くしながら水音に向かってそう口を開いた。


 それに対して、


 「は、はい、な、何ですか?」


 と、水音はかなり緊張した様子でそう尋ねると、


 「あ、明日の出発なんですけど、私達も一緒に行くってなって、迷惑じゃなかった?」


 と、祈は顔を赤くしたままそう尋ね返したので、


 「いいえ、全然迷惑じゃありません! 寧ろ、一緒に来てくれて僕としても心強いです!」


 と、水音ははっきりとそう答えた。


 その答えを聞いて、祈が「え、えぇ!?」と顔を更に真っ赤にさせる中、水音は話を続ける。


 「正直に言うと、ここまでなんか話がとんとん拍子に進んじゃって、結構戸惑ってるんですよね。おまけに、僕1人だと……」


 「?」


 「エレクトラ様に何かされそうで、もの凄く怖い」


 と、再びはっきりとそう言った水音に、


 「ああ、それは……そうですねぇ」


 と、祈が納得の表情を浮かべていると、


 「おいおい、それはちょっと失礼じゃあないのかなぁ?」


 という声がしたので、


 「「……え?」」


 と、水音と祈はギギギと壊れた機械のようにゆっくりと声がした方へと視線を向けると、


 「やぁ!」


 そこには、気持ちよく挨拶をしてきたエレクトラがいたので、


 「「え、エレクトラ様ぁ!?」」


 と、2人は思わず同時に驚きの叫びをあげた。


 「な、な、何であなたがここに!?」


 と、水音がエレクトラに向かってそう尋ねると、


 「決まってるだろ水音、お前ときちんと話がしたいからだ!」


 と、エレクトラはビシッと水音を指差しながら答えた。


 その答えに「え、僕!?」と水音がショックを受けていると、


 「ああ、安心しろ。そこの女も一緒だからな」


 と、エレクトラは祈を見ながらそう言ったので、


 「わ、私も、ですか!?」


 と、祈もショックを受けた。


 すると、エレクトラは2人に近づいて、その肩をガシッと掴み、


 「さ、行こうじゃないか」


 と、2人を何処かへと引き摺り込もうとしたので、


 「え、ま、待って、待ってください! って何処にですか!?」


 と、驚いた水音が再びエレクトラに向かってそう尋ねると、


 「勿論、私が寝泊まりさせてもらう部屋だ」


 と、エレクトラはそう答えたので、


 「え、わ、私も、いいのですか!?」


 と、今度は祈がそう尋ねた。


 その質問に対して、エレクトラはにやりと笑うと、


 「安心しろ。私は方だ」


 と、何やらなセリフを吐いたので、


 「「『いける』って何!? 『いける』って何ぃ!?」」


 と、水音と祈は敬語で言うのを忘れてエレクトラに向かってそう問い詰めた。


 そんな2人を無視して、


 「気にするなって。さぁさぁ……」


 と、エレクトラが2人を引っ張ろうとした、まさにその時、


 「何をやってるのですか!?」


 と、誰かが背後からエレクトラの頭部をバコッと思いっきりので、


 「きゅう……」


 と、エレクトラはその場に沈んで意識を失った。


 突然の事に水音と祈が「え?」となると、そこには拳をグッと握り締めたクラリッサ立っていた。


 クラリッサは怒り顔で気絶しているエレクトラを見て「まったく……」と呟くと、ポカンとしている水音と祈を見て、


 「水音様、祈様」


 と、真面目な表情で声をかけた。


 それにハッとなった2人が、


 「「は、はい! 何でしょうか!?」」


 と、背筋をピンッと伸ばしながら返事すると、


 「この鹿が大変失礼しました」


 クラリッサは2人に向かって深々と頭を下げながら謝罪すると、エレクトラの首根っこを掴んで何処かへと引きずっていった。


 そんな姿を見た2人は、お互い顔を見合わせた後、


 「「……」」


 ーーパンッ!


 無言でエレクトラに向かって合掌した。

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