第39話 ヴィンセントの提案(?)・2


 「お前、帝国うちに来ないか?」


 ヴィンセントから発せられたその言葉に、水音は思わず、


 「……は?」


 と、首を傾げた。


 その後すぐに、


 「あ、あのぉ。仰ってる意味がよくわからないのですが?」


 と、水音は恐る恐るヴィンセントに向かってそう尋ねると、


 「いや、だからよぉ。お前、その『雪村春風』って奴を超えたいんだろ? だったら、って言ってるんだが?」


 と、ヴィンセントは「何言ってんだお前?」と言わんばかりの表情でそう答えた。


 その答えを聞いて、


 「で、ですから、何で帝国の方が僕を強くするのかがわかりませんが……?」


 と、水音が再び恐る恐るそう尋ねると、


 「まぁ聞けや水音」


 と、一瞬で真面目な表情になったヴィンセントが口を開く。


 「お前の話を聞いてわかった事だが、その『雪村春風』って奴は、かなりだ。そして、それと同時に他者を思いやる心も備えている。実際、そいつはお前の事も大切にしてきただろ?」


 そう尋ねてきたヴィンセントに、水音は「うっ!」っと唸った後、


 「……はい」


 と、ゆっくりとコクリと頷きながら返事した。実際、水音自身も「その通りだ」と思っているからだ。


 そんな水音を前に、ヴィンセントは話を続ける。


 「で、この世界に召喚されたあの日、そいつはお前達を置いてここを出て行った。俺はな……その行動には、何か『理由』があるんじゃないかと思っている」


 「理由?」


 「そうだ。同じ世界の人間であるお前達にも言えない、大きな『理由』だ。そんな人間が、自分の目でこの世界を見て、自分の足でこの世界の大地を踏み締めて、何も行動を起こさないと思うか?」


 「……思いません。彼はどんなピンチに陥っても、『知恵』と『勇気』を振り絞って様々な『奇跡』を起こしてきました。そして、その全てを最終的には自分の血肉にしてきました」


 「そうだ。そして、そんな奴にお前は挑もうとしている。奴を超えたいんなら、ルーセンティアここで学べるものだけじゃ足りねぇ。ていうか、ここじゃ無理だ」


 とはっきりとそう言うと、「おい、ちょっと待て」というウィルフレッドを無視して、ヴィンセントは水音の目の前まで近づき、


 「だから、俺のところに来い、水音。そうすりゃあ、『雪村春風』を超える強さをくれてやるぜ」


 と、にやりと笑いながら言った。


 すると、


 「ヴィンセント」


 と、今度はそれまで黙ってたウィルフレッドが口を開いたので、


 「ん? どしたウィルフ?」


 と、ヴィンセントがくるっとウィルフレッドの方へと振り向くと、


 「まさかとは思うが……お前、水音殿をに春風殿を帝国に招き、あわよくばそのままお前のものにする気か?」


 と、ウィルフレッドはヴィンセントにキリッとした眼差しを向けながらそう尋ねたので、


 『……え?』


 と、水音を含むその場にいる者達全員がそう声をもらすと、


 「あははぁ! バレたぁ!?」


 と、ヴィンセントは先程までの真面目な表情から一変して、かなりふざけた感じの笑みを浮かべながらそう言ったので……。


 『ズコォーッ!』


 と、ウィルフレッドを除いた誰もが、まるで古いギャグ漫画のキャラクターのようにずっこけた。


 そんな彼らを他所に、


 「お前なぁ……」


 と、ウィルフレッドが呆れ顔でそう言うと、


 「だぁってよぉ! なんかそいつ面白そうな感じがするんだよぉ! で、そんな奴がうちに来たら、きっとスゲェ事が起こるんじゃねぇかなって思うだろ!?」


 と、ヴィンセントは言い訳するかのように大袈裟に腕をブンブンと振りながらそう言い返した。


 そんなヴィンセントの言葉を聞いて、


 「ヴィンセント……」


 と、ウィルフレッドが「ゴゴゴ」と言い知れぬプレッシャーを放った。


 そのプレッシャーを受けて、


 「な、何だよ?」


 と、ヴィンセントがビビりながらウィルフレッドに向かってそう尋ねると、彼はガシッとヴィンセントの肩を掴んで、


 「にもその恩恵を受けさせろ」


 と、かなり真剣な表情でそう言ってきたので、


 『陛下ぁ! 何言ってんのぉっ!?』


 と、その場にいる者達全員が、ウィルフレッドにツッコミを入れて、


 「おう、勿論!」


 と、ヴィンセントはそう言って親指を立てて、


 『勿論じゃなぁあああああああい!』


 と、その場にいる者達全員が、今度はヴィンセントにツッコミを入れた。


 因みに、どちらのツッコミにもエレクトラは参加していなかった。


 その後、ウィルフレッドは水音を見て、


 「水音殿、私が許そう。ヴィンセントのもとで、思いっきり鍛えてもらうといい」


 と言ってきたので、


 「いや、ちょ、ちょっと待って……!」


 と、水音は「待った」をかけようとしたが、それを遮るように、


 「むむ、さては1人では不安とな? では、帝国に行ってもらう事にするか」


 と、ウィルフレッドが話を続けたので、


 「いや、ですから……」


 と、水音が更に「待った」をかけようとした、まさにその時、


 「あ、あの!」


 という叫びが聞こえたので、水音は「え?」とその声がした方向へと振り向くと、


 「時雨……さん?」


 そこには、「はい!」と真っ直ぐ手を上げた祈がいたので、


 「え、ど、どうしたの時雨さん?」


 と、水音が恐る恐る尋ねると、


 「わ……私が……行きます!」


 と、まるで勇気を振り絞ったかのように祈はそう叫んだ。


 その叫びを聞いて、


 「え、ええぇっ!?」


 と、水音が驚き満ちた表情になると、


 「それなら私達も行くよ!」


 「ああ、祈だけじゃ心配だからな!」


 と、祈の2人の幼馴染、出雲祭と晴山絆も「私も行く!」と言わんばかりに「はい!」と手を上げた。


 そんな彼女達を見て、


 「え、し、時雨さん? 出雲さん? 晴山さんも!? 一体何を……!?」


 と、水音が若干混乱していると、


 「だったら、俺も一緒に行くぜ!」


 「うん、僕も」


 と、今度は進と耕が「はい!」と手を上げたので、


 「え、ま、待って、近道君に遠畑君?」


 と、水音は更におろおろしていると、


 「ふむ、では一緒に行くメンバーはこれで決まりだな」


 「だな!」


 と、ウィルフレッドとヴィンセントがそう言ってきたので、


 「だからぁ……ちょっと待てぇえええええええいっ!」


 と、水音はそう悲痛な叫びをあげた。

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