第38話 ヴィンセントの提案(?)


 「お前! 責任とってエレンと結婚しろ!」


 「……はぁあああああああっ!?」


 ヴィンセントのに、水音は悲鳴じみた叫びをあげた。因みに、エレクトラを除いた他の人達は皆、口をあんぐりと開けて呆然とし、肝心のエレクトラは、


 「いやん、父様ったら!」


 と、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。表情は嬉しそうな笑顔だったが。


 それからすぐに、


 「ちょっと待ってくださいヴィンセント陛下! 何ですかその提案なのか命令なのかよくわからないセリフは!?」


 と、水音は立ち上がってヴィンセントに向かってそう尋ね、それに続くように、


 「そ、そうですよ! あなた、私の生徒になんて事を言ってるのですか!?」


 と、ハッとなった爽子も、ヴィンセントに向かってそう尋ねた。


 その質問に対して、ヴィンセントは「むむ!」と真面目な表情になると、


 「言葉の通りだ。我が娘エレンことエレクトラは、お前に負けただけじゃなく、お前に4回も殺された事によって、お前に対する『恋心』のようなものが芽生えてしまった。ならばお前には、娘の想いに応え、幸せにする責任がある」


 と、最後に「違うか?」と付け加えながらそう答えた。


 その答えを聞いて、


 「うぅ! そ、それは、そうなのですが……」


 と、水音がエレクトラを見ながら狼狽えていると、


 「それとも何か? お前、まさか俺の娘に何の魅力も感じないとか言うんじゃねぇだろうな?」


 と、ヴィンセントがもの凄いプレッシャーをかけてきたので、


 「い、いえ! 滅相もございません! ただ! ただぁ!」


 と、水音は大慌てでそう返した後、


 「僕と彼女は、が違います!」


 と、ヴィンセントに向かって深々と頭を下げながらそう言った。


 そんな水音のセリフを聞いて、


 (ねぇ、今のは『異世界人だから』って意味なのかな?)


 (いや、多分『身分』的な意味もあると思う)


 (ああ、確かに、向こうは『お姫様』で、こっちはただの『学生』だしなぁ……)


 と、周囲からヒソヒソとそう話し合う声が聞こえた。


 そんな彼らの話を無視して、


 「だぁー! やっぱ問題にしちまうかぁ」


 と、ヴィンセントは「しまった!」と言わんばかりに、手で顔を覆いながら天井を見上げて、


 「そうだよなぁ。お前とエレンは暮らしてきた世界が違うし、勇者共にはちゃんと帰る場所があるんだよなぁ」


 と、先程までの強気な態度と違って、何処か弱々しい態度と口調でそう言った。


 その後、


 「なぁ、水音よぉ」


 「な、何ですか?」


 「どっかにいねぇかなぁ? この世界とお前らの世界、2つ世界繋げちまうようなを起こせそうな奴をよぉ」


 と、ヴィンセントが水音に向かってそう尋ねると、


 「は、はぁ? ちょっと待ってくださいよ、そんな事を僕にきかれましても……」


 と、水音は困ったような表情を浮かべた。


 (そんな都合のいい起こすような奴なんて……)


 と、心の中でそんな事を呟いていた、まさにその時、


 「……あ」


 水音の脳裏に、1人の少年の姿が浮かんだ。


 そう、エルードこの世界に召喚されたあの日、自分達のもとを去った、あの少女のような顔付きをした少年を。


 そして、


 「なら……」


 と、水音はボソッとその少年の名を呟くと、


 「あ? 『春風』って、『雪村春風』の事か?」


 と、その名前にヴィンセントが反応して、


 「あ、いえ! その……!」


 と、水音は思わず両手で自身の口を覆ったが、ヴィンセントは止まる事なく、


 「そういや俺、まだそいつの事聞いてなかったわ。てな訳で、さっさと教えてくれや」


 と、水音にそう命令してきたので、


 (ええい、もうどうにでもなれぇ!)


 「わ、わかった、わかりましたぁ!」


 と、水音は半ばヤケクソ気味に、その少年ーー春風との出会いから、彼と「師匠」と呼ぶ女性と共に体験した「冒険話」を、ヴィンセントとエレクトラに聞かせた。特に、その最中に春風が起こした「とんでもない奇跡」の数々を、感情を込めて説明した。


 その結果、


 「えぇ! 何そいつ、超面白そうな奴じゃねぇか!」


 と、ヴィンセントは目をキラキラと輝かせた。


 それを見て、水音は「う、うわぁ……」とドン引きしながらも、


 「そうですね。彼はいつだって想像を超える凄い『奇跡』を起こして、僕と師匠のピンチを何度も救ってきました。ですので、もしかしたら彼なら、ヴィンセント陛下が言った『奇跡』を起こせるんじゃないかって思って……」


 と、そう説明した後、顔を下に向けた。


 それを見て、ヴィンセントが「なるほどなぁ」と呟くと、


 「なぁ水音」


 「……何ですか?」


 「そんなすげぇ奇跡を起こしちまうその『春風』って奴の事、どう思ってるんだ?」


 と、ヴィンセントは真剣な表情でそう尋ねてきたので、水音は思わず「え?」と声をもらすと、


 「そうですね。彼は確かに、凄い奴だと思ってます。ですが、だからといって僕だっていつまでも、憧れているままじゃ終わりません。僕はもっと強くなりたいです。強くなって、彼を追い越せるように!」


 と、両手をグッと握り締めながらそう言った。


 それを見て、ヴィンセントは「ふむ」と呟くと、


 「だったらよぉ水音」


 「な、何ですか?」


 「お前、帝国うちに来ないか?」


 と、満面の笑みを浮かべながらでそう言ってきたので、


 「……は?」

 

 と、水音は思わず首を傾げた。

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