第34話 「神」に呪われた勇者


 「その力なのですが……この世界の『神々』に、封印されちゃったみたいなんですよねぇ」


 『……え?』


 何処か気まずそうにそう言った水音の言葉に、その場にいる者達が一斉に首を傾げると、


 「そ、それは、どういう意味なのだ?」


 と、ウィルフレッドが恐る恐る尋ねてきた。そして、ウィルフレッドに続くように、


 「ああ。なんとも穏やかじゃないなおい」


 と、ヴィンセントも真剣な眼差しを向けてきたので、水音は「実は……」と口を開いた。


 「勇者召喚の光に飲み込まれたあの時、変な場所で目を覚ましたんです」


 「変な場所?」


 「はい。僕はその場所が何処なのか確かめようとしたんですけど、がっちりと拘束されていて身動きが出来ない状態でした。そして、動けない僕のもとに知らない男性と女性が現れて、僕に『何か』を植え付けたのです。今思えば、あの人達がこの世界の『神々』で、僕に植え付けたのが『職能』だったのでしょう」


 と、水音がそう説明すると、


 「あ! それ、僕も覚えてるよ! 凄く怖かった記憶がある!」


 と、純輝が思い出したかのように話に加わった。


 純輝だけではない。進や暁、力石も、純輝と同じような表情をしていた。


 そんな彼らを見て、


 「な、なんと、そのような事が……」


 と、ウィルフレッドはショックで顔を青くして、


 「……」


 と、ヴィンセントは無言で何かを考えるような仕草をした。


 水音は話を続ける。


 「その後、僕は先生やクラスのみんなと同じように謁見の間で目を覚まし、ウィルフレッド陛下から事情を聞いて、一悶着の末に春風が僕達のもとを去ったのです。そして、改めて自分のステータスを確認すると、僕自身の『力』に関係する部分が文字化けしていて読めなくなっていたのです」


 そう言うと、水音は自身のステータスをウィルフレッド達に見せた。特に、読めなくなってる部分にはしっかりと指をさしていた。それを見て、ウィルフレッドらが「おぉ……」と感心していると、


 「なるほどなぁ。で、と言ってたが、今でもその『力』の存在を感じてはいるんだろ?」


 と、ヴィンセントがそう尋ねてきたので、


 「はい。確かに今も僕の中に『鬼』がいるのを感じてはいるんですが、今、とても状態なんです」


 と、水音はこくりと頷きながらそう答えた。


 「よろしくないとは、どういう意味なのだ?」


 と、今度はウィルフレッドがそう尋ねてきたので、水音は「うーん……」と唸った後、


 「なんて言いましょうか。体中を頑丈な鎖で雁字搦めにされてるって言った方がいいでしょうね。その所為で、とても苦しそうにしていました」


 と答えた。その言葉を聞いて、


 「マジかよ」


 と、ヴィンセントが表情を強張らせた。


 「マジです。そして訓練初日の夜、僕は『鬼』の力を引き出そうとしたのですが、神々が僕に植え付けた『神闘士』の職能が、それを邪魔しようと僕を苦しめてきたのです」


 と、水音がそう言うと、


 「あ、もしかしての事か!?」


 と、進が思い出したかのようにそう尋ねてきたので、水音はこくりと頷きながら、


 「うん、あの時は嘘をついていてごめん。この『力』の事は、誰にも言ってはいけないっていつも言われてたから」


 と、進に向かって謝罪した。その謝罪を聞いて、


 「それはつまり、お前の『力』は神々にとってだと思われたって事でいいんだな?」


 と、ヴィンセントがかなり真剣な表情で尋ねてきた。


 その質問に水音は黙って頷いた後、


 「そうですね。確かに、この『力』は他人から見たら凄く危険なものでしょう。実際、僕自身も幼い頃はこの『力』の事を恐れ、嫌っていたんです。生まれた時から宿っていたものなのに……」


 『……』


 「だけど、そんな危険な『力』を持った僕を、家族は優しく支えてくれました。家族だけではありません、僕に『世界』について教えてくれた『師匠』や、その『師匠』の兄弟子である春風も、僕を恐れたりせず、寧ろ春風からは『かっこいい!』って言われたりもしました。そのおかげで、少しずつではありますが、僕はこの『力』に向き合う事が出来たのです。しかし……」


 『?』


 「その『力』は……僕の中の『鬼』は今、神々によって苦しめられています」


 と、水音はそう言った後、申し訳なさそうな表情でウィルフレッドを見て、


 「ウィルフレッド陛下。あなたにとって……いえ、この世界の人々にとって、職能は『神の祝福』なんですよね?」


 と、尋ねた。


 それに対して、ウィルフレッドが「ああ」と頷くと、


 「こんな事を言うのは良くないとわかってはいるのですが……申し訳ありませんが、僕にとって職能これは『呪い』でしかありません」


 と、水音は今にも泣きそうな表情でそう言った。

 

 「の、呪い……とな?」


 「ええ。僕の中にいる『鬼』という『もう1人の僕』を苦しめる『呪い』なんです」


 そう言い放った水音を見て、


 「それは……当然だな」


 と、ウィルフレッドは納得の表情を浮かべて、


 「だな。ずっと一緒に育ってきた『力』が、他所の存在もんに苦しめられているなんて、そんなの『呪い』でしかねぇわ」


 と、ヴィンセントも「うんうん」と頷きながらそう続いた。


 その後、ヴィンセントは腕を組んで、


 (『神に呪われし勇者』……か。なんとも奇妙な話だなぁ……)


 と、心の中でそう呟いた。


 そして、周囲がズンと暗くなると、


 「ま、ここでこうしてもしょうがねぇ。そろそろ出るか」


 と、ヴィンセントはそう言って湯船から出て、それに続くように、ウィルフレッド、水音、純喜達も湯船から出た。


 そして、脱衣場で服を着た後、みんなに合流しようと廊下を進んでいた、まさにその時、


 「みーつーけーたーぞぉ、水音ぉおおおおおっ!」


 『え?』


 前方からエレクトラが、もの凄い形相で水音達に向かって駆け寄ってきた。

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