第33話 「鬼宿し」の一族


 「悪い鬼との契約……だと?」


 水音の言葉に対して、ヴィンセントがそう尋ねると、


 「そうですね。これは祖父からいつも聞かされていた話なのですが、この世界風に言いますと……」


 と、水音はそう言って説明を始めた。


 「今から数百年前、僕達勇者の祖国『日本』の国内では、幾つもの『争い』が頻発していた時代があったんです」


 そう言った水音の言葉に、


 「え、待てよ。それって、『戦国時代』って事?」


 と、進が反応したが、その後すぐに「ごめん、しっ!」と純輝に静かにするよう言われてしまったので、


 「わ、わりぃ……」

 

 と、進はそう謝罪した後、黙って水音の方を見た。


 そんな進達を無視して、


 「国内……まさか、人同士による争いなのか?」


 と、ウィルフレッドがそう尋ねてきたので、水音は表情を暗くしながら答える。


 「はい。では人対人による争いなのですが……そのでは、人対魔物……人ならざる存在ものとの争いも起きていました」


 「おいおい、人間同士の争いが表って……」


 と言うヴィンセントをスルーして、水音は話を続ける。


 「そしてそんな時代の最中、当時貧しい農民の1人だった僕の先祖は、1体の『鬼』に出会ったんです」


 『……』


 「その『鬼』は瀕死の重症を負っていて、今にもその命が尽きようとしていたんですが、そいつの中に眠っている『破壊衝動』や『殺戮衝動』はまだ燃え尽きてない状態で、『鬼』自身も『まだ死にたくない』と言っていたそうです」


 「マジかよ……」


 「ええ。それを聞いた僕の先祖は、『鬼』に向かってこう話を持ちかけたんです」


 ーーそれなら、俺の体の中に入って、俺の中で生き続けろ。俺が、お前を生かしてやる。その代わり、お前の力を俺に貸せ。


 「……それが、僕の先祖と『鬼』との『契約』でした。その『契約』が成立してすぐ、『鬼』はそのまま生き絶えましたが、その『魂』と『力』は見事に先祖の中に宿ったのです。それから先祖は、その『鬼』の力を使って様々な争いに出ては、その全てに勝利し、多くの富を得たのです。やがて先祖は結婚し、家族が出来たのですが、先祖に宿った『鬼』の力は、その子供……そして、孫にも宿っている事がわかり、いつしか僕達『桜庭家』の人間は、人々から『鬼宿しの一族』と呼ばれ、恐れ讃えられるようになったのです」


 と、水音はそう話し終えると、「ちょっと疲れました」と言わんばかりに「ふぅ」と一息入れた。


 その話を聞いて、


 「なるほど、そういう訳だったのか。で、その『鬼』の力は今もお前と家族の中に宿ってるって事なんだな?」


 と、ヴィンセントが確認するかのようにそう尋ねてきたので、


 「はい。お話しましたように、この力を持ってるのは僕以外の他に、母と母方の祖父、そして妹が持っていて、家族以外でこの事を知ってるのは、『師匠』と呼んでいる女性と、その弟子である『雪村春風』の2人だけです」


 と、水音はコクリと頷きながらそう答えた。


 その答えを聞いて、ヴィンセントだけでなくウィルフレッドや純輝達も「なるほどなぁ……」と納得の表情を浮かべると、


 「では、その『鬼』の力は、この世界にいる今でも其方の中に宿っておるのだな?」


 と、今度はウィルフレッドがそう尋ねてきた。


 その質問に対して、


 「はい。この世界に召喚されてからも、僕の中の『鬼』の力は存在しているのですが……」


 と、水音はそう答えた後、悲しそうに顔をしゅんとさせたので、


 「む。ど、どうした水音殿?」


 と、ウィルフレッドが少しだけ驚いたと言わんばかりの表情になりながら、水音に向かってそう尋ねると、


 「その力なのですが……この世界の『神々』に、封印されちゃったみたいなんですよねぇ」


 と、水音は何処か気まずそうな表情になってそう答えたので、


 『……え?』


 と、ウィルフレッドらを含めた周囲の人達は、一斉に首を傾げた。

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