第32話 「鬼」


 「僕達『桜庭家』の人間は……体に魔物の力を宿してるんです」


 と、ウィルフレッドとヴィンセント、そして進ら数人の男子クラスメイト達にそう言った水音。


 普通だったらここで、


 「え、ま、マジでぇ!?」


 というセリフと共に、驚きに満ちた表情になるだろう。


 しかし、ウィルフレッドヴィンセント、そしてクラスメイト達は何も言わず、寧ろ、


 (ああ、やっぱりか……)


 と、皆、納得の表情を浮かべていた。それほどまでに、エレン……否、エレクトラとの戦いの時に見たものが衝撃的だったのだろうと、水音はウィルフレッド達の表情を見てそう理解した。


 そんな中、


 「……それは、今俺が言った『2本の角を生やした何か』の事だな?」


 と、ヴィンセントが真剣な表情でそう尋ねてきたので、水音はコクリと頷きながら答える。


 「はい。僕らの世界……というより、僕らの祖国『日本』に存在する『鬼』と呼ばれる人型の魔物です」


 「ほう、鬼……とな?」


 「ええ。『伝承』、もしくは『物語』の中の存在とにはそう伝わっているのですが、『鬼』は確かに存在しているんです」


 と、水音がそう説明すると、


 「それで、その『鬼』とはどのような魔物なのだ?」


 と、今度はウィルフレッドがそう尋ねてきたので、それにも水音は答える。


 「先程説明したように、頭に角が生えてる以外は、人間よりも大きく、かつ頑丈な肉体に加えて途轍もない怪力を誇っていたり、中には魔術のような力を扱うものがいるんです」


 「おお、それは凄いな」


 「ええ。そして、これが1番大事なところなのですが、『鬼』にもいろんなタイプがおりまして、人を助ける『良い鬼』もいれば、人に悪さをする『悪い鬼』がいるんです」


 そう言った水音の言葉に、その場にいる者全員が「おぉ……」と声をもらすと、


 「僕ら『桜庭家』の人間が宿しているのは、『悪い鬼』の方の力です」


 と、水音はそう付け加えた。


 これには流石にショックを受けたのか、


 「え、えぇ!? それマジ!? ヤバくね!?」


 と、ヴィンセントが驚きに満ちた表情でそう尋ねると、


 「えぇ、かなりなんですよ。これは小さい頃から祖父に聞かされた事なのですが、大昔、その『悪い鬼』は生まれた時から『怪力』と『体内に宿るエネルギーを扱う能力』を持っていて、本能や衝動のままに大勢の人間達を殺し、その血肉を喰らっていたそうなんです」


 と、水音は自嘲気味に「はは……」と笑いながらそう説明した。


 その説明を聞いて、


 『何それ、まじでヤベェやつじゃん!』


 と、ヴィンセントだけでなくクラスメイト達までもがショックを受ける中、


 「……教えてくれ、水音殿。その『悪い鬼』の力とやらは、其方の他に宿している者がいるのか?」


 と、ウィルフレッドが恐る恐るそう尋ねてきた。


 その質問に対して、水音は「それは……」と答えるのを躊躇ったが、すぐに首を横に振るい、ゆっくりと口を開いて、


 「はい。僕以外には、母と母方の祖父、そして妹が宿しています」


 と答えた。


 その答えを聞いて、ヴィンセントとクラスメイト達は「マジかよ……」と顔を真っ青にした。


 その後、


 「……何故、其方達に、そのような危険な存在の力が宿っているのだ?」


 と、ウィルフレッドが再び恐る恐るそう尋ねてきたので、水音も再び「それは……」と答えるのを躊躇ったが、やがて意を決したかのように真っ直ぐウィルフレッドを見て答える。


 「それは、今から凄く大昔に、先祖がその『悪い鬼』と、ある『契約』を交わしたからなんです」

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