第29話 水音vs少女
「いいよ、相手になってやる!」
そう言い放つと、水音は銀髪の少女の前に向かって歩き出した。
するとそこへ、
「ま、待て、桜庭!」
と、爽子が声をかけてきたので、水音はピタッとその場に止まったが、
「ごめんなさい、先生。お叱りは後で受けます」
と、水音はそう謝罪すると、再びその場から歩き出し、床に落ちていた訓練用の木剣を拾うと、銀髪の少女の前に立った。
明らかに「僕は今もの凄く怒っている!」と言わんばかりの様子の水音に、
「へぇ、
と、銀髪の少女がそう尋ねてきた。
水音自身は元々優しい性格なので、普段の水音なら、先に自身の名前を言うだろう。
しかし、この時の水音は普段とは違っていて、
「はぁ? 人に名前を尋ねる時は、まずは自分から名乗るものじゃないのか?」
と、銀髪の少女に向かって、明らかに挑発するような口調と目付きでそう尋ね返した。
その言葉に銀髪の少女は最初は「何だと?」と言わんばかりの表情になったが、すぐに気持ちを切り替えて、
「そうだな、すまない」
と、冷静な態度で水音に向かってそう謝罪すると、
「エレン。それが私の名だ」
と、銀髪の少女ーーエレンはそう名乗ったので、
「僕は水音。『勇者』の1人だ」
と、水音もエレンに向かってそう名乗り、持っている木剣を構えた。それを見た後、エレンもすぐに木剣を構えて、真っ直ぐ水音を見た。
訓練場の中央にあたる場所で睨み合う水音とエレン。そんな2人を、爽子やクラスメイト、そしてルーセンティアの兵士達はごくりと唾を飲みながら見守っている。
やがて、そのうちの1人からツーっと汗が滴り、ぽたっと床に落ちると、
「「っ」」
2人は同時に動き、互いが持つ木剣をぶつけ合った。
「「……っ」」
お互い睨み合いながら、木剣よる鍔迫り合いをする水音とエレン。
その場にいる者達全員に見守られる中、暫くすると、2人は同時にその場から後ろにジャンプし、お互い木剣を構えながら、また無言で睨み合った。
それから少しすると、今度はエレンの方から動き、水音に向かって突撃した。
「はぁ!」
エレンは水音に向かって力いっぱい木剣を振り下ろす。
それに対して、水音はその攻撃を黙って木剣で受け止めた。
「ちぃ!」
攻撃を止められたエレンは、その後何度も水音に木剣を振り続けたが、水音は「怒っている」と言わんばかりの表情を変えずに、それら全てを防御するか受け流していった。
「く、中々やるなぁ!」
と、何度目かの攻撃を終えたエレンがそう言うと、
「……
と、水音は表情を変えずに、エレンに向かって挑発するかのようにそう尋ねた。
その言葉にカチンときたのか、
「舐めるなぁ!」
と、エレンは更に力を込めた一撃をお見舞いしようと、木剣を振るった。
だが、
(
「フン!」
水音も力いっぱい木剣を振るい、その一撃を弾いた。
「な!?」
思わぬ反撃を受けたエレン。それによってガラ空きになった彼女の腹めがけて、今度は水音が更に力を込めた一撃をお見舞いしようとした。
(だ、駄目だ、やられる!)
迫る木剣を見てそう感じたエレン。
ところが、
「……え?」
水音その攻撃を、エレンの腹寸前のところでピタッと止めた。
それを見て、
「……へ?」
と、エレンが間の抜けた声をもらすと、
「
と、水音は静かにそう言った。
その瞬間、エレンは顔を真っ赤にして、
「こ、このぉおおおおおっ!」
と、今度は両手持ちによる突きをお見舞いしようとしたが、水音は難なくそれを避けて、その後、木剣の刀身をエレンの剣を握る両腕の肘と手首の間に置き、
「
と、また静かにそう言った。
「な、な、なぁ!?」
と、エレンは顔を真っ赤にしてそう呻いた後、
「こいつぅ!」
と、水音に向かって「怒り」と「恥ずかしさ」を込めた攻撃をしてきた。
しかし、
「……」
水音はそれを無言で避けた後、木剣の刀身をエレンの首筋にピタッとあてた。
その瞬間、ハッとなったエレンに向かって、水音は口を開く。
「これで、
その言葉を聞いて、エレンはたらりと汗を流した。
「お前、一体何なんだ?」
と、動けない状態のエレンが、水音に向かってそう尋ねると、
「言っただろ? 『勇者』の1人だって」
そう言った後、今度は水音がエレンに尋ねる。
「どうする? まだやるかい?」
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