第30話 決着と、少女の正体


 「どうする? まだやるかい?」


 そう尋ねる水音に対し、エレンはゴクリと唾を飲んで、


 「そんなの……」


 と、小さく呟くと、


 「やるに決まってるだろ!」


 と、強引に木剣を持つ腕を動かして水音に一撃を入れようとしたが、


 「……」


 水音は涼しい表情でそれを回避した。


 そして、その場から数歩程離れた位置に立つと、エレンを見ながら木剣を構え、それを見たエレンも、「はぁ、はぁ……」と肩で息をしながら木剣を構えた。


 睨み合う2人を、周囲の人達が見守る中、


 「次で、決める」


 と、水音は小さな声でそう呟くと、エレン向かって突撃した。


 エレンはそれを見てグッと木剣の柄を握り締めた、次の瞬間、


 「ふっ!」


 ーーブオン!


 『なっ!?』


 なんと、水音は持っていた木剣を槍のようにエレンに向かって投げたのだ。


 (ぶ、武器を投げるなんて!)


 「く!」


 エレンは飛んできた木剣を上に向けて弾くと、すぐに水音を睨みつけた。


 だが、次の瞬間、


 「……え?」


 と、エレンは表情を凍りつかせた。


 否、エレンだけではない。爽子やクラスメイト、更には王国兵士達も、同じように表情を凍りつかせた。


 何故なら、自分達の目の前に、水音ではなくがいたからだ。


 は、人の形をしてはいるが、体の色は青く、大きさは自分達よりも大きく、エレンを鋭く睨むその頭には、2本の大きな角が生えていたのだ。


 そして、角を生やした大きな人型の『何か』が、エレンに向かって手を伸ばしてきたので、


 「う……うあああああああっ!」


 と、エレンは恐怖に支配されたのか、『何か』に向かって木剣による突きをしかけた。


 すると、人型の『何か』はスッと消えて、代わりにエレンに向かって手を伸ばす水音の姿があった。


 その姿を見てエレンがハッとなると、水音の手がエレンの胸ぐらを掴んだ。


 「な、何だと!?」


 そして、水音はもう片方の手でエレンの腕……正確にはエレンの服の袖を掴むと、


 「先生達の仇だ……思い知れ!」


 と、そう叫んで、そのままエレンを感じで床に叩きつけた。


 「がはっ!」


 背中に強烈なダメージを受けたエレン。


 そんな状態のエレンを押さえつけた水音の頭上に、先程エレンが弾いた木剣が落ちてきたので、水音はそれを手に取ると、その切先をエレンのにあたる部分にちょんとあてた。


 「これで、4だよ」


 と、水音はエレンに向かってそう言ったが、とうのエレンはというと、背中に受けた衝撃の所為か、まるで漫画のキャラクターのように目をぐるぐるとさせて気を失っていた。


 その瞬間、「わぁあああああッ!」と周囲から歓声が上がったが、


 (まだ、生きてるんだけどなぁ……)


 と、エレンにやられた人達は、皆、心の中で水音にそうツッコミを入れた。


 その時、


 「だーっはっはっはぁ! いやぁ、良いもん見れたぜぇ、オイ!」


 と、パチパチと拍手する音と同時にそんな声がしたので、水音と周囲の人達は「っ!?」と驚いてその声がした方へと振り向くと、


 「よっ!」


 そこには、かなり威厳に満ちた服装をし、短く整った銀髪を持つ40代後半くらいの男性と、


 「み、水音殿。なんという事を……」


 その横で、顔を真っ青にしたウィルフレッドがいた。


 因みに、2人の後ろにはウィルフレッドと同じように顔を真っ青にしたマーガレット、クラリッサ、イヴリーヌの姿もあった。


 「あの、ウィルフレッド陛下。そちらの方は……?」


 と、水音がウィルフレッドに向かってそう尋ねると、


 「昨日話したように、彼がストロザイア帝国の皇帝だ」


 と、ウィルフレッドは真っ青な顔を手で覆いながらそう答えたので、水音だけでなく爽子やクラスメイト達が「え?」と首を傾げると、


 「その通り! 俺がストロザイア帝国皇帝、ヴィンセント・リアム・ストロザイアだ!」


 と、銀髪の男性ーーヴィンセントは胸を張りながらそう名乗った。


 それを聞いて、爽子とクラスメイト達が「えぇ!?」と驚いていると、


 「で、水音っつったっけ? お前が4回も殺したそいつはな……」


 と、ヴィンセントは気を失っているエレンを指差して、


 「2の、だ」


 と言った。


 その言葉を聞いてから4秒後、


 『はぁあああああああっ!?』


 水音や爽子、そしてクラスメイト達の絶叫が響き渡った。

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