第28話 謎の少女


 「な、なんじゃこりゃあああああああっ!?」


 そう悲鳴をあげた水音の目の前には、まさに「地獄絵図」に相応しい光景が広がっていた。


 何か「攻撃」のようなものを受けて倒れている、進や暁らクラスメイト達。よく見ると、その中にはルーセンティア王国の兵士達もいて、既に何名かは回復魔術による治療を受けていた。


 「一体、何が……」


 と、水音がそう言って訓練場内に足を踏み入れると、


 「お、1いたか?」


 と、前方から少女のものと思わしき声が聞こえたので、水音が「え?」と声がした方へと振り向くと、訓練場の中央にあたる場所に、3人の人影があった。


 そのうちの2人は、


 「え? 正中君に、力石君?」


 クラスメイトである純輝と、クールな印象を持つ「力石」という少年だった。


 訓練用の木剣を手に、何やら辛そうな表情で「はぁ、はぁ……」と肩で息をしている2人の目の前には、同じく木剣を構えた1人の少女が立っていた。


 見たところ、水音と同い年に見える長い銀髪に赤い瞳を持つその少女は、辛そうにしている純輝と力石とは対照的に、何処か余裕のある表情をしている。


 そんな少女を見て、


 「え、誰?」


 と、水音がそう呟くと、


 「来ちゃ駄目だ、桜庭君!」


 と、純輝が「待った」をかけてきた。因みに、彼の視線は目の前の少女に向かったままだ。


 その言葉に水音が「え? え?」と戸惑っていると、


 「隙あり!」


 と、銀髪の少女はそう言って持っている木剣で純輝と力石を薙ぎ倒した。


 「「ぐあっ!」」


 少女からの一撃を受けて、2人は後ろへと吹っ飛ばされる。それを見て、


 「ま、正中君! 力石君!」


 と、水音がショックを受けていると、


 「おい、そこのお前!」


 と、銀髪の少女が水音を見てそう言ってきたので、水音は思わず、


 「……はい?」


 と、自身を指さすと、


 「そうだ、お前だ!」


 と、銀髪の少女は持っている木剣の先を水音に向けながらそう言った。


 「あの……僕に何の用ですか?」


 と、水音が恐る恐る銀髪の少女に向かってそう尋ねると、


 「その格好、お前も『勇者』の1人なのだろう?」


 と、銀髪の少女はそう尋ね返してきたので、


 「ええ、そうですけど……」


 と、水音が恥ずかしそうにそう答えると、少女はにやりと笑って、


 「この私と!」


 と、自身の胸をバンと叩きながら言った。


 その言葉を聞いて、水音は一瞬ポカンとなったが、


 「……はぁあ!? ちょっと待って! 何言ってんのいきなり!?」


 と、すぐにハッとなって銀髪の少女に向かってそう尋ねたが、


 「言っておくが、これは決定事項だ! お前に拒否権はない!」


 と、銀髪の少女ははっきりとそう言ってきたので、水音は「えぇ?」とドン引きした。


 すると、


 「桜庭……」


 と、今度は弱々しい女性の声がしたので、水音はすぐにその声がした方へと振り向くと、


 「先生!」


 そこには神官に手当て受けている爽子がいた。


 水音はすぐに爽子の傍に寄って、


 「せ、先生、どうしたんですかその怪我!? それと、この状況は一体……!?」


 と、尋ねると、爽子は「それは……」と答え難そうな表情になったが、


 「実は、これから訓練を行うところに、いきなりあの少女が現れて、『私と戦え!』と言ってきたんだ。それで、みんなを代表して私が彼女に挑んだんだが、結果はこの通り、敗北してしまって……」


 と、そう答えると、爽子は怪我をしてる部分を水音に見せた。


 それを見て、水音は「そんな……」と呟くと、爽子は続けて答える。


 「そして、私が敗れた後、みんなが彼女挑んだんだが、結果は私と同じように、前衛系の職能を持った者達は敗れ、残ったのは『魔術師』の職能を持った者だけに……」


 そう答えると、爽子は悔しそうに顔を下に向けた。


 その答えを聞いて、水音は改めて周囲を見回すと、確かに爽子の言うように、倒れているのは前衛系の職能を持ったクラスメイトだけで、「魔術師」の職能を持ったクラスメイトは、他の「魔術師」達と怪我人の手当てをしていた。


 水音はその状況を見て、拳をグッと握り締めると、


 「春風なら、きっと……」


 と、小さい声でそう呟いて、


 「すみません、先生をお願いします」


 と、手当てをしている人に向かってそう頼むと、銀髪の少女を見て、


 「いいよ、相手になってやる!」


 と、言い放った。

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