第25話 その後の「勇者」達


 爽子とクラスメイト達による「雪村春風への学級裁判」の決定から翌日、爽子や水音ら「勇者」達はというと、特に問題なくその日を過ごしていた。


 昨日の午後の訓練前に起きたの所為で、その原因である裏見切人が何か良からぬ行動を起こすのではないかと、爽子達は不安になっていたが、


 「……昨日は、悪かった」


 と、意外にもとうの切人本人があっさりと謝罪してきたので、皆、最初は「へ?」とポカンとなったが、その後すぐに反省したと思い、ホッと胸を撫で下ろした……のだが、


 (なんだか、気味が悪いな)


 と、水音と純輝はそう感じたので、万が一の事も考えて、純輝が他の中心メンバー達と一緒に切人を見張る事になった。


 とまぁそんな感じで、その日は午前と午後、両方の訓練は特に問題なく終える事が出来た。


 その後は基本的に各自自由行動(と言っても王城内限定だが)なのだが、水音はというと、その日は国王ウィルフレッドに許可をもらって、王城内にある「書物庫」で1人、そこに眠る様々な本を読み漁っていた。


 読んでいるのは主にこの世界の「歴史」から、人々に与えられる「職能」と、そこから生まれる「スキル」について書かれている資料で、その辺りは午前の訓練(座学)で話を聞いてはいるのだが、水音自身はどうしても納得が出来ないと思っているので、先程記したようにウィルフレッドから許可をもらって、こうして1人調べものをしていたというわけだ。


 最初は「異世界の書物」だからエルードこの世界の文字が読めるかどうか不安だったが、称号「異世界(地球)人」の特性のおかげでちゃんと読む事が出来たので、水音は「ああ、良かった」と安心して本を読み進めた。


 その結果、


 「うーん。やっぱり駄目だ」


 どの本にも、水音が欲しい「情報」は載っていなかったとわかった。


 それでもわかった事といえば、どの本を読んでも、この世界がになる500年前よりも前の歴史について書かれていなかったという事だ。その事実を知って、


 (ウィルフレッド陛下や訓練教官の話がなら、どうしてその辺りの事が何処にも書かれていないんだ?)


 と、水音は頭上に幾つもの「?」を浮かべながら首を傾げた。


 そして、もう1つわかった事は、5柱の神々が人類に授ける「職能」についてだ。


 この世界の人々が持つ「職能」は、大きく分けて「戦闘系職能」と「生産系職能」の2種類あるとウィルフレッドや訓練教官が言っていた。


 「戦闘系職能」に関しては、武器と魔術両方を得意とする「騎士」、体術を操る「格闘士」、片手武器を扱う「軽闘士」、両手武器を操る「重闘士」、槍を扱う「槍闘士」、弓矢を扱う「弓闘士」、魔術を操る「魔術師」の計7種類を基本としているが、これらの上にはより強い力を秘めた上位の職能が存在している。


 因みに、水音が持っている「神闘士」や、担任教師の爽子が持っている「神聖騎士」は上位の職能に該当していて、「戦闘系職能」の中には「盗賊」や「暗殺者」は存在していないのがわかった。


 一方、「生産系」に関しては、「農夫」や「料理人」、「鍛治師」や「裁縫師」といった、文字通り「作る側」の為の「職能」が存在していて、何かを作れば作るほど、新たなスキルを覚えたり、生産の成功率がグンと上がるようになっているのだ。


 「ふぅ、今日はこんなところか」


 と言って、水音が読んでいた本を片付けて、書物庫を出ると、


 「うわ、もう暗くなってる!」


 と、窓の外はすっかり夜になっていたのに驚いた。


 それと同時に……。


 ーーグゥ。


 「あ」


 お腹からそんな音が聞こえたので、水音は思わずそう声をもらして、


 「い、急げば食堂やってるかな!?」


 と、大慌てで食堂へと駆け出した。


 そして、廊下の曲がり角を曲がった次の瞬間……。


 ーードンッ!


 「うわぁ!」


 「きゃあ!」


 と、誰かぶつかってしまい、思わず水音と、水音にぶつかった人はその場に尻餅をついてしまった。


 「いたた。す、すみません、大丈夫ですか……って、あれ?」

  

 と、水音はすぐに立ち上がって、ぶつかった人物に近づくと、


 「あ……大丈夫、です。桜庭君」


 そこにいたのは、


 「時雨……さん?」


 クラスメイトの1人である、長い黒髪の少女だった。

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