第23話 そして、「もう1つの始まり」へ


 ウィルフレッドの部屋で今後の目標みたいなもの(?)が決まった後、


 「うむ、今日は色々あって疲れただろう? 今夜はゆっくりと心と体を休ませた方がいい」


 というウィルフレッドの提案を受けて、水音達はウィルフレッドの部屋を後にすると、それぞれ遅い夕食をとり、自分達の部屋へと戻っていった。


 そしてその夜、みんなが寝静まる中、


 「……駄目だ、全然眠れないや」


 と、全く寝付く事が出来なかった水音は、ベッドから起き上がると、部屋の窓を開けた。


 そこには日本……否、「地球」では見られない満天の星空が広がっていたので、


 「ああ、綺麗だなぁ」


 と、それを見た水音は小さくそう呟くと、今日あった出来事を思い出した。


 「……あんな風に怒ったの、いつぶりだっけ?」


 思い出したのは、午後の訓練前に、訓練場で起きた出来事だった。


 水音達のもとを去った春風を「裏切り者」と罵り、酷い事を言った切人の顔が脳裏に浮かび上がって、


 (……やっぱり僕も、一発ぶん殴っておくべきだったかな?)


 と、今更ながら切人に対して怒りが湧いてきたが、


 「うぐっ!」


 その後すぐに、切人を思いっきりぶっ飛ばした歩夢の姿も脳裏に浮かんだので、水音は思わずを押さえてその場にうずくまった。それも、かなり痛そうに。


 それから暫くして、


 「はぁ、はぁ。やっと引いたぁ」


 と、漸く大事な部分の痛みが引いたのか、水音はゆっくりと立ち上がると、再び星空を見た。


 そして少しすると、


 「……ねぇ、春風。今頃君は、何処で何をしているんだい?」


 と、ぼそっと質問するかのようにそう呟いた。


 (……いや、何をしてるんだ僕は?)


 と、心の中で「?」を浮かべたが、それでも呟きは止まらず、


 「君が僕らのもとを去った所為で、こっちは今日が起きたんだよ? で、それをきっかけに、みんなに君の事をいっぱい話しちゃったよ。勿論、君が悪いんだからね」


 と、水音は星空に向かって言葉を続けた。


 そして最後に、


 「覚悟しろよ、無事に君に再会したら、君の姿をみんなに見せてやるからな。初めて見た時の僕のように、鼻血を垂らすみんなの姿が目に浮かぶよ」


 と、「くっくっく……」と小さく笑いながら言うと、


 「……まぁ、こんなもんか」


 と言って窓を閉めようとした、その時、


 「か、勘弁してくれぇ!」


 という悲鳴のようなものが聞こえたので、


 「春風!?」


 と、水音は窓を閉めようとする手を止めて、すぐに窓から身を乗り出して辺りを見回したが、そこには誰もいなかったので、


 「……気のせいか」


 と、小さく「はは」と笑いながらそう言うと、今度こそ窓を閉めてベッドに入った。


 さて、それとは同時刻に、水音達がいる「ルーセンティア王国」とは別のとある国のとある建物の一室では、


 「いよっしゃあああああっ! 仕事は取り敢えず終了っと!」


 と、1人の男性が喜びの雄叫びをあげて、


 「はい、お疲れ様です」


 と、その傍で1人の女性が、穏やかな笑みを浮かべながら男性をそう労った。


 その後、男性は座っていた椅子から素早く立ち上がると、


 「んじゃ、早速に連絡だ! そして、準備が済み次第、すぐにルーセンティアに出発するぞ!」


 と、女性に向かってそう言ったので、


 「はぁ。仕方ないですね」


 と、女性は「やれやれ」と言わんばかりの表情で、溜め息を吐きながら言った。


 そんな女性を他所に、男性は部屋の窓を力強く開けると、


 「待ってろよぉ、『異世界の勇者』達とやらぁ! このストロザイア帝国皇帝、ヴィンセント・リアム・ストロザイアが会いに行ってやるぜぇ!」


 と、その男性ーーヴィンセントは夜空に向かってそう叫んだが、


 「陛下、うるさい」


 と、背後から女性に頭部を握り潰すかのように鷲掴みにされ、


 「ギャアアアアアアアッ!」


 と、ヴィンセントは悲鳴をあげたが、


 「……あ、気持ちいい」


 と、小さくそう呟いた。


 そしてそれから数日後……正確に言えば、水音達がこの「エルード」という世界に召喚され、春風が彼らのもとから去ってから1週間後。


 水音の運命物語になるのだが、この時の本人は勿論、爽子やクラスメイト達、そして、ウィルフレッドら王族達も、誰1人それに気付く事はなかった。


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 どうも、ハヤテです。


 という訳で、以上で外伝第2章は終了です。


 そして、次回から入る第3章で、少年・水音の物語が、大きく動き出す事になります。


 お楽しみに。

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