第21話 「雪村春風」という少年・4
「えっとぉ、僕が師匠の弟子になってから……」
と、水音はそう言い始めると、「師匠」こと陸島凛咲ーー以下、凛咲の弟子となってから、「兄弟子」の春風を加えた3人での日々を、ウィルフレッドらに話した。
祖国「日本」にいる時は、何かあった時の為の護身術として様々な格闘術や生存術、更には世界各国の言語を学び、学校が休みの日は時々3人で海外に行き、その地に住む人達との交流を深めていた。
ただ、それら全てが楽しいものという訳ではなく、ある時は怖い私設の軍隊に追い回されたり、ある時は狂った宗教団体に「神への生贄」という名目で殺されそうになったり、またある時は古代の遺物を巡って、裏組織を相手に危険なギャンブルをする事になったりした。
それだけでも爽子とクラスメイト達だけでなく、異世界人であるウィルフレッドら王族達にとっても驚愕もので、特にウィルフレッドは国王であるにも関わらず、まるで子供のように目をキラキラと輝かせていた。
そして、彼らをもの凄く驚かせたのが、そういった出来事の最中での、春風の活躍だった。
私設軍隊に追い回された時は、
「師匠、水音君を頼みます!」
と、水音と凛咲を助ける為に自ら進んで囮になったり、宗教団体に生贄にされそうになった時は、
「そんなに神様大好きならテメーらが生贄になれや!」
と、連中を逆に生贄にしようとしたり(勿論、目前で阻止された)、裏組織とギャンブルをした時は、
「わかりました、俺が賭けの景品になります」
と、なんと自身が賭けの景品となったりと、もの凄い活躍をしたのだという。因みに、その時の春風の格好はというと、水音曰く、
「あ……
との事だったので、
「そ、それは、『情熱の赤』という意味の赤なのか!?」
『それとも、『真っ赤な血』という意味の赤ですか!?』
と、周囲の人達がそう尋ねると、
「……両方」
と、水音はそう答えたので、その場にいる者達全員が、
『み、見たい!』
と、叫んだ。ただ、その時何処からか、
「絶対に嫌だ!」
という叫び声が聞こえた気がしたが。
その後、水音は懐から何かを取り出すと、それを周りに見せた。その何かを見て、
「む。水音殿、それは?」
と、ウィルフレッドが尋ねると、
「これは、僕と春風が今の学校に入学した祝いとして、師匠に貰った『お守り』です」
と、水音はそう答えた。そう、水音が取り出したのは、「師匠」である陸島凛咲に貰った「お守り」だった。
細くて短い棒のようなものに見えるその「お守り」を見て、
「あ、それ雪村君が騎士達と戦ってた時に使ってたものじゃ!?」
と、今度は耕がそう尋ねると、水音はこくりと頷いて、その「お守り」をばっと広げた。
それを見て、
「む、それはもしや扇か?」
と、再びウィルフレッドが尋ねると、水音はこくりと頷きながら、
「はい。これは『鉄扇』と言いまして、薄い金属の板を重ねて作られたものです」
と答えた。その答えを聞いて、
「持ってみてもいいだろうか?」
と、ウィルフレッドが更に尋ねると、
「どうぞ。かなり
と、水音はそう答えて、「お守り」ーー鉄扇をウィルフレッドに渡した。そして、ウィルフレッドが「え?」と言いながら鉄扇を受け取った次の瞬間、
「うっ!」
と、まるで本当に重いものを持たされたかのように、鉄扇を持った手が床に沈みそうになった。
「こ、これは……一体?」
と、ウィルフレッドが辛そうにそう尋ねると、
「それ、師匠が作ったもので、僕と師匠以外の人間が持つと
と、水音はそう答えたので、ウィルフレッドは「そ、そうか」と言って水音に鉄扇を返した。
その後、水音は鉄扇をしまうと、
「……とまぁ、こんな感じです」
と、水音がそう話を締め締め括った。
全ての話を聞いて、周囲の人達はまるで魂が抜けたかのようにポカンとなった。特に、
「ふ、フーちゃん……」
「もう、春風君ったら……」
と、水音の横で話を聞いていた歩夢と美羽が、顔を手で覆いながらそう呟いていたので、水音は小さく「はは」と笑った。
その後、
「う、うーむ、師匠殿も凄いが、其方の兄弟子殿も凄い人物なのだな」
と、話を聞き終えたウィルフレッドがそう口を開いたので、水音も表情を暗くしながら口を開く。
「ええ、言う事もやる事も全部
「そ、そうなのか?」
「そうなんです。おまけに彼、こういった日々を送ってるものですから、せめて学校では大人しくしようと、いつも目立たないようにしているんです。普段、眼鏡をかけているのもそれが理由で……ああ、因みに、この世界に召喚されたあの日の春風がかけていたのは、度が入ってない伊達眼鏡です」
「うーむ、そうであったか」
「はい。そしてこれも大事な事なのですが、春風は学校内では基本的に1人でいる事を好むのですが……実は友人を作るのが上手で、僕達の祖国『日本』だけでなく海外でも沢山作っているのです」
と、水音がそう言った次の瞬間、
『な、なんだってぇえええええっ!?』
と、爽子とクラスメイト達が驚きの声をあげた。
その声にウィルフレッドはビクッとなったが、すぐに真面目な表情になって、
「そ、そうなのか。それは凄いな」
と言うと、
「それ程友人を作るのが上手なら、その内『恋人』も出来てしまうのではないか?」
と、冗談を交えたかのような発言をしたが、
「ああ、それは」ないと思います」
と、水音は真剣な表情でそう即答したので、
「え、な、何故だ!?」
と、ウィルフレッドは本気でギョッとなりながらそう尋ねた。
その質問に対して、水音は真剣な表情を崩さずに答える。
「だって春風、もう既に裏切りたくない女子・女性が
次の瞬間、その答えを聞いた者達は、
『……え?』
と、皆、目が点になった。
そんな状態のまま、ウィルフレッドは水音に尋ねる。
「……いたのか? そのような人物が」
「はい、います」
「3人もか?」
「ええ、3人も」
「……其方はその3人を知っているのか?」
「はい、その1人が……師匠なんです」
と、水音がそう答えた次の瞬間、
『……はいぃ?』
と、その場にいる者達は、皆、一斉に首を傾げた。
そんな状況の中、ウィルフレッドは更に尋ねる。
「……つかぬ事を尋ねるが、兄弟子殿の年齢は?」
「僕と同じ17歳です」
「失礼を承知で尋ねるが、師匠殿の年齢は?」
「24歳です」
と、水音がそう答えた次の瞬間、
『と、と、歳の差7つだとぉおおおおおっ!?』
と、爽子とクラスメイト達の悲鳴があがった。
その後、爽子達がまるで石のように固まるっていると、
「そ、それは、冗談でないのか?」
と、またウィルフレッドが尋ねてきたので、それも水音が答える。
「冗談ではありません。もう師匠の春風に対する
「そ、そうか。して、残りの2人は?」
「それは……」
と、水音はそう答えた後、チラリと
そう、
そしてそれを見て、
『ま、まさか!』
と、その場にいる者達全員が、一斉に彼女達を見ると……。
「「えへへ……」」
と、2人共、恥ずかしそうに顔を真っ赤にした。
その瞬間、
『あ……あんのヤロォオオオオオオオオッ!』
と、男子達が怒りの叫び声をあげ、
『ゆ、ゆ〜き〜む〜ら〜(く〜ん〜)!』
と、女子達が「鬼」のような形相になった。
その時、パンッと手を叩く音がしたので、男女全員がその音がした方へと振り向くと、
「……みんな」
そこにいたのは、両手を合わせた爽子だった。
男女達が見守る中、爽子は口を開く。
「雪村と再会次第、『学級裁判』を行う!」
その言葉を聞いて、
『おおおおおおおっ!』
と、男女は一斉に叫ぶようにそう返事し、
「では、場所はこちらが用意しよう」
と、ウィルフレッドが親指を立てながらそう言ってきたので、
『ありがとうございます、ウィルフレッド陛下!』
と、爽子とクラスメイト達は、ウィルフレッドに向かって深々と頭を下げながらお礼を言った。
水音はそんな彼らを見て、
(春風、ご愁傷様)
と、ここにはいない春風に向かって静かに合掌した。
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