第20話 「雪村春風」という少年・3


 「……それじゃあ、最後は僕ですね」


 と、水音がそう言うと、周囲の人達の視線が、水音に集まってきた。


 そんな状況の中で、


 「ふむ。では、始めてくれ」


 と、ウィルフレッドが真剣な表情でそう言ってきたので、水音は「わかりました」と頷きながら話し始める。


 「僕が春風に出会ったのは、今から3年前になります」


 「ほう、3年前とな?」


 「ええ。実はそのぉ、大変お恥ずかしい話なのですが、その日、僕は妹と一緒に、に遭遇して……のです」


 その言葉を聞いて、ウィルフレッドは「そうか……」と呟くと、


 「……って、何ィ! 母上殿をだと!? 何をどうしたらそのような事が起きたというのだ!?」


 と、ギョッと目を大きく見開きながら、水音に向かってそう尋ねた。


 その質問に対して、水音は「それは……」と呟くと、チラッと周囲を見回した。よく見ると、歩夢と美羽だけでなく、爽子やクラスメイト達、そしてウィルフレッドの家族までもがギョッと目を大きく見開かせていた。


 それを見て水音は、


 (ま、そうなるよね)


 と、心の中でそう呟くと、


 「ずっとみんなには黙っていた事なのですが……というより、信じられない話なのですが……実は僕には、この世界の神々より与えられた『職能』や『スキル』の他に、凄く大きな『力』を持っているのです」


 「ほ、ほう、『力』とな」


 「はい。それは、僕ら『桜庭家』の人間が持っているとても大きな『力』で、使い方を誤れば、大きすぎるを生み出しかねない危険なものなのです」


 「なんと! では、其方はその『力』で……」


 「ええ。3年前、僕はこの『力』をさせてしまい、それを止めようとした母を、この手で……」


 そう言うと、水音は両手をグッと握った。


 「む、むぅ、そうであったか。して、母上殿は……?」


 と、ウィルフレッドが恐る恐る尋ねると、


 「大丈夫です。傷は残ってますが、今も元気で過ごしています」


 と、水音はそう答えたので、ウィルフレッドだけでなく爽子達までもがホッと胸を撫で下ろした。


 だが、水音は表情を暗くして、


 「ですが、それでも僕が母を傷つけた事に変わりはなく、母も『気にするな』と言ってくれましたが、僕は自分を許す事が出来ず、あの出来事から暫くは食事も喉を通らず、しまいには生きる気力さえも失ってしまったのです」


 と、話を続けて、それを聞いたウィルフレッドも、


 「それは……当然だな」


 と言って、水音と同じように表情を暗くした。そして、爽子やクラスメイト達はというと、そんな水音とウィルフレッドを心配そうに交互に見つめた。


 そんな状況の中、


 「その……こう聞くのもおかしいとは思ってるのだが、其方はそのような状態から一体どのようにして今日まで生きられるようになったのだ?」


 と、ウィルフレッドが再び恐る恐るそう尋ねると、


 「……自分がしてしまった事を後悔しながら死に近づいていたある日、僕の家に1人の女性が訪れたんです」


 「女性?」


 「ええ、後に『師匠』と呼ぶ事になる女性冒険家です」


 「ほう、冒険家とな!?」


 「はい。そして、その人が呼んだ、後に僕の『兄弟子あにでし』となる少年が、雪村春風なのです」


 と、水音はそう答えて、それを聞いた瞬間、


 『ええぇっ!?』


 と、周囲から驚きの声があがった。


 その後、


 「ちょ、ちょっと待てよ桜庭! それ、マジな話なのか!?」


 と、進が大慌てでそう尋ねてきたので、


 「うん、マジな話。海神さんや天上さんが話したのと同じように、僕も最初は春風の事『可愛い女の子』って思ってたんだけど、男だって聞かされた時は、凄くショックを受けたよ」


 と、水音は「はは」と遠い目をして笑いながら答えて、


 「えっとぉ、因みにその『師匠』って人の名前、何ていうの?」


 と、野守が恐る恐るそう尋ねてきたので、


 「陸島くがしま凛咲りいさ。それが、師匠の名前だけど」


 と、水音はそう答えた、次の瞬間、


 「く、陸島凛咲ぁ!?」


 「その人、世界的に有名な女性冒険家じゃない!」


 「『弟子を作った』って話は聞いてたけど……」


 「まさか、それが桜庭君と雪村君だったなんて!」


 と、歩夢と美羽を除いたクラスメイト達が、一斉に驚きの声をあげた。


 それを聞いて、ウィルフレッドら王族達がポカンとしていると、


 「な、なぁ。海神と天上は、この事知ってたのか?」


 と、爽子が歩夢と美羽に向かってそう尋ねてきたので、


 「あー、はい、実は知ってました。私と美羽ちゃんは、『マリーさん』って呼んでます」


 「うん、陸島凛咲の『ま』と『り』と『い』を取って、『マリーさん』」


 と、2人は爽子を見てそう答えた。


 その答えを聞いて、


 『な、なんか羨ましい!』


 と、クラスメイト達が本当に羨ましそうな表情をしていると、


 「コホン! ああ、すまないが話の続きを聞かせてくれないか?」


 と、ウィルフレッドが咳き込みながら割り込んできたので、水音は「あ、はい」と返事をして続きを話し始めた。


 「その、本当にお恥ずかしい話ですが、最初は『自分なんて死んでしまえばいい』って思ってたんですが、春風と師匠は、そんな僕に全力で向き合ってくれました。そしてそのおかげで、僕は『まだ生きたい』『まだ死にたくない』と思えるようになったんです」


 「おお、それは素晴らしい!」


 「はい。その後、僕は師匠の新しい『弟子』となって、彼女と春風と共に、祖国『日本』をまわるだけでなく、そこから飛び出して様々な国を訪れたのです」


 と、水音そう話した次の瞬間、ウィルフレッドはズイッと水音に近づいて、


 「その時の話、是非とも詳しく聞かせてくれ」


 と、水音の両手を握りながらそう頼み込んだ。


 それを聞いて、水音は「え? え?」と戸惑っていると、


 『俺(僕)(私)(あたし)達にも教えて!』


 と、なんとクラスメイト達までもが水音に近づいてきた。


 それに水音は「そ、それは……」と凄く戸惑ったが、


 「……春風が悪いんだからな」


 と、小さくそう呟いて、


 「わかりました。僕が師匠の弟子になってから体験してきたをお話しします」


 と、そう言った後、水音はウィルフレッドら王族達だけでなく、爽子とクラスメイト達に、文字通りを話し始めた。

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