第19話 「雪村春風」という少年・2


 「……その最中に、私に出会ったんですよねぇ」


 そう言った美羽の言葉に反応したのか、爽子とクラスメイト達が「ん?」と一斉に美羽に視線を向ける中、


 「詳しく話を聞かせてくれないか?」


 と、ウィルフレッドがそう言ってきたので、美羽は「あー、そのぉ……」若干気まずそうに頬を掻きながら、


 「私と彼が出会ったのは、12歳の時なんですけど、その時の話をする為に、少し私自身の事を話させてもらいますが、よろしいでしょうか?」


 と尋ねた。


 それを聞いたウィルフレッドは頭上に「?」を浮かべながら、


 「あ、ああ、構わない。話してくれ」


 と言ったので、美羽は「ありがとうございます」とお礼を言うと、


 「その……私、幼い頃、通っていた小学校で酷いを受けてたんです」


 と、話し始めた。


 その言葉を聞いて、爽子とクラスメイト達が「え!?」と反応する中、美羽は話を続ける。


 「その頃の私が通っていた小学校には、結構高い身分の子が何人か通っていて、みんな親の権力をかさにやりたい放題していて、教師は誰も逆らえなくて、それで私以外にも沢山被害者がいたんです。もうのような毎日でしたよ」


 その説明を聞いて、


 (いや、どんだけ酷いとこだったんだ?)


 と、水音が心の中でそう呟きながら若干引いていると、


 「なんと、それは許せんな」


 と、ウィルフレッドが拳をグッと握って怒りをあらわにしたので、美羽は「ええ」と頷いて、


 「ですから、そんな日々に耐えかねた私は、ある時彼らに対して、ちょっとしたをしようとしたんです。ああ、勿論、当時はまだ幼かったので、なるべく相手にバレないように、かつ両親迷惑がかからないように、出来る範囲でですけど。で、その結果、見事に仕返しは大成功して、相手に一泡吹かせる事が出来たんですけど……」


 『?』


 「その……思った以上の成果が出て、相手の子達がしたイジメだけじゃなく、そのイジメに加担していた教師数人、更には一番偉い立場の校長先生のも明るみにしてしまって、学校内はもう大混乱に陥ってしまったんです」


 まさかの結末を聞いて、


 「なんとぉ!」


 『あらやだ、思った以上の大成果!』


 と、ウィルフレッドとクラスメイト達が驚きに満ちた表情になる中、


 「はい、あまりにも大事になってしまって、もう学校は教師の殆どが、自主退職か、クビか、他の学校への異動。当時の校長先生なんか、その不正があまりにも悪質という事で逮捕されるという結末を迎えて、新しい教師や校長先生が決まるまでは本当に大変でした」


 と、美羽はそう言うと、表情を暗くして「はは……」と小さく笑った。そんな美羽を見て、


 (本当に大変だったんだなぁ)


 と、その場にいる者達全員はタラリと汗を流した。


 そんな状況の中、美羽は更に話を続ける。


 「で、先程も言いましたように、あまりの大事になった為に、私が原因だという事実は世間の耳には入らなかったんですが、事情を知ってる一部の当時の同級生やクラスメイト達……というか、私と同じ被害者達からは、「悪い奴らをやっつけた英雄」的な扱いを受けたんですが、それ以外の人達からは、「仲間だけでなく教師や校長を追い出した札付きの問題児」的な扱いを受けて、卒業するまでの間は居心地の悪い日々を送る事になったんです」


 と、暗い表情で話した美羽に、


 『そ、それは居心地が悪い』


 と、その場にいる者達全員が同情の眼差しを向けた。


 その後、美羽は更に表情を暗くして、


 「ですがある日、とうとう私が原因だって事が相手側にバレてしまって……連中に復讐されそうになったんです」


 「む、『されそうになった』という事は、そうはならなかったのだな?」


 「ええ、その時は凄いピンチだったのですが……」


 ーーうわぁあああっ! どいてどいてどいてぇえええええっ!


 「という悲鳴が聞こえて、『何だ何だ!?』って思ってるところに、空から彼……雪村春風君が。連中を下敷きにして」


 と、美羽がそう言った数秒後、


 『え、落ちてきたの!? 空から!? 何故に!?』


 と、爽子とクラスメイト達が一斉に尋ねてきたので、


 「うーん、詳しい事は教えてくれなかったんですけど、何かの『実験』をしていて、それが失敗に終わったそうなんですよ」


 と、美羽は若干答えにくい感じでそう答えた。


 「で、その後私から事情を聞いた彼は、連中を1人残らずブチのめして、二度と私に危害を加えないようにしてくれたんです」


 『おおっ!』


 「ただ、その時の私、彼が『男』だって知らなくて、最初は『凄く強い女の子』って思ってました。後で『男』だって知った時は、本当に信じられませんでした」


 『あぁ……』


 「で、その出来事の後、私と彼は一旦別れたんですが、中学に上がった時に再会して、それをきっかけに歩夢ちゃんに出会って、一緒に中学校生活を満喫して、で、一緒に今の高校に進学して、現在に至る訳なんです」


 そう説明し終えると、美羽は「ふぅ」と一息入れた。


 そして周囲の人達は「ま、マジっすか」と言わんばかりに口を開けて呆然とし、


 「お、おお。其方も何とも凄い出会いをしたのだな」


 と、ウィルフレッドはたらりと汗を流しながらそう言うと、


 「……それじゃあ、最後は僕ですね」


 と、それまで黙って話を聞いていた水音が口を開いた。

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