第16話 揉め事の後・3
「……で、その後すぐに僕達がここに来た、と?」
と、爽子からの
「あぁ、そうなんだ」
と、爽子は「ハハハ……」と乾いた笑い声を溢しながら答えた。
現在、水音、進、耕、暁、野守、夕下、出雲、時雨、晴山の9人は、状況説明の為に全員部屋に招き入れられたが、
(ちょっと、狭い気がする)
と、水音がそう感じたように、幾ら「勇者」達に用意された部屋といってもそれほど広い訳ではないのに17人も入ってきたので、部屋の中はかなり窮屈な状態になった。
しかし、それでも歩夢に向かって土下座の姿勢を解かない純輝に、爽子や他のクラスメイト達がどうしたものかと困った表情になっていると、それまでシーツに包まっていた歩夢がベッドから降りて、
「正中君、裏見君はどうしてるの?」
と、尋ねた。
その質問に水音達がピクッと反応すると、純輝は尚も土下座を崩さないまま答える。
「切人は今、部屋で大人しくしてもらってる。でも、今のあいつは、海神さんに何をしでかすかわからない状態だから、玄次達やお城の兵士さん達に見張りをお願いしてきたところなんだ」
と、そう答えた純輝に、歩夢は「そう、なんだ」と小さく呟くと、
「正中君、顔を上げて」
と言った。その言葉が届いたのか、純輝はゆっくりと顔を上げて歩夢を見ると、
「私は、正中君に怒ってなんてないから、謝罪はいらないよ。ああ、でも……」
と、歩夢はそう言って、壁際に立っている暁を見た。
それにつられて、純輝も暁を見ると、「あ」と声を漏らして、
「ご、ごめん、暁君! 僕がもっと早く切人を止めてたら、暁君が殴られる事なんてなかったのに!」
と、今度は暁に対して土下座で謝罪した。
それを見た暁は「うぇ!?」と驚いたが、
「あー、俺も別に怒ってないっつーか、海神が
と、若干気まずそうな態度でそう答えると、どう言えばいいのかわからず「うーん」と考え込んだが、
「だー! 考えんのやめだやめだぁ!」
と叫び、
「とにかくだ正中! 俺も全然気にしてないから、いい加減頭上げろ! なんかこっちが恥ずかしいわ!」
と、純輝に向かってそう怒鳴り、それに水音や夕下らが「えぇ?」と少し後ろへ下がると、
「……わかった」
と、純輝はそう言って、土下座の姿勢からスッと立ち上がった。
そんな純輝を見て、暁は「ったく」と、気まずそうな表情になると、
「てか正中。お前、召喚初日に比べてなんか態度おかしくないか? 俺てっきりこのまま勇者として突っ走んのかなって思ってたんだけどよぉ」
と、純輝に向かってそう尋ね、それにつられるように水音達も、
『ああ、確かに!』
と、皆、ぽんと自分の拳を叩いた。
すると、純輝は表情を暗くして、
「はは。『勇者』、か」
と、乾いた笑い声を溢した。
それに水音達が「ん?」と反応すると、
「確かに、この世界……というより、『ウィルフレッド陛下達を救いたい』って気持ちに嘘はないよ。だけど、それと同じくらい、自分の事も考えているんだ」
と、純輝はそう言って周囲を見回すと、
「みんなは、僕の『噂』を知ってるだろ?」
と尋ねた。その質問を聞いて、水音だけでなくその場にいる者達全員が「あ」と声を漏らして、気まずそうにそっぽを向いた。
それを見て純輝は再び「はは」と乾いた笑い声を溢しながら、更に話を続ける。
「正直に言うと、『それは違う!』ってはっきりと言いたいんだけど、今の僕が何をいっても、きっと周りは聞いてはくれないと思う。だから、僕は欲しいんだ。周りを一気に黙らせる、自分だけのものが……自分で自分を誇れるものが。それを手に入れる為に、僕は陛下達や、みんなを利用し、おまけに先生にまで酷い態度をとってしまった」
そう言うと、純輝はまた深々と頭を下げて、
「本当に、ごめんなさい」
と、謝罪した。
そんな純輝を見て、
「ま、正中……」
と、爽子はなんとも言えない表情になった。それは水音達も同様だった。
すると、純輝はスッと頭を上げて「だけど……」と言うと、
「だけど、僕は雪村君がここを去るのを止められなかった。それどころか、斬りかかってきた騎士達から、彼を守る事も出来なかったんだ。言い訳に聞こえるかもしれないけど、あの時は本当に足が動かなくて、その為に、ただ見てる事しか出来なくて。今思うと、本当に自分が情けなくて、『何が勇者だよ!』って、自分自身に腹が立って……!」
と、今にも泣き出しそうなくらいに声を震わせながら言った。
それを聞いた瞬間、
(ああ。正中君も、僕と同じだったんだ)
と、水音も泣き出しそうな表情になった。
その時、
「……なんだよ、お前も一緒かよ」
と、暁が口を開いたので、純輝だけでなく水音達も「え?」と反応すると、
「俺もよぉ、あの時は見てるだけしか出来なかったからよ、お前の気持ちはわかるぜ本当に」
と、暁は恥ずかしそうに頬を掻きながら言った。
それにつられたのか、
「……うん。実は僕もなんだ」
と、水音もそう言い、それからも、
「あー、俺もだ」
「う、うん、僕もだよ」
「あはは、俺も」
「……私も」
「私もだよ」
「うん。私も」
と、進や耕、野守や夕下、歩夢や美羽もそう言い、更には他のクラスメイト達も「自分も」と言った。
そして最後に、
「正中、それを言ったら私だって同罪だ。私だって、『教師』でありながら、大切な生徒の1人である雪村を守る事が出来なかったから」
と、爽子が純輝の肩に手を置きながら言った。
その後、部屋の中が重苦しい空気に包まれたが、それに耐えきれなくなったのか、
「あー、やっぱ駄目だ。もう我慢出来ねぇ」
と、進が口を開いて、
「ていうかよぉ、桜庭に海神、それに天上」
「「「?」」」
「お前ら結局、雪村とどういう関係なんだよ!?」
と、質問してきたので、
「えぇ? ここでその質問?」
と、水音が尋ね返したが、進の質問が心にきたのか、
「そういえば……」
「確かに気になるよな」
「……うん、雪村君が出て行く時、呼び止めたの桜庭君に天上さん、それに海神さんだったよね?」
「ああ、特に海神、雪村の事『フーちゃん』って呼んでたな」
と、クラスメイトが皆、口々にそう言い出したので、水音も歩夢も美羽も、
「「「え? え?」」」
と、狼狽しだした。
するとその時、
「私達も聞いてもいいだろうか?」
という声がしたので、その場にいる全員が「え?」と声がした方へと振り向くと、
『ウィルフレッド陛下!』
そこには国王のウィルフレッドがいた。
いや、よく見るとウィルフレッドだけでなく、王妃マーガレットと、2人の娘であるクラリッサ姫とイヴリーヌ姫もいた。
その姿に驚く水音達を無視して、
「頼む、私達にも、『雪村春風』という少年がどのような人間なのかを教えてほしい」
と、ウィルフレッドはそう言って深々と頭を下げたので、
「「「ど、どうしよう」」」
と、水音、歩夢、美羽はそう言って、滝のようダラダラと汗を流した。
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