第15話 揉め事の後・2


 時は少し前に遡る。


 それは、午後の訓練が中止になって暫く時が経った後の事だった。


 「うぅ……ひっく」


 切人に強烈な連続攻撃をお見舞いした海神は、眼鏡をかけた長い茶髪の少女に支えられながら、自分の部屋に戻った。


 その後、部屋に入ってすぐに、海神は部屋に備わったベッドにダイブし、その身をシーツで包んだ。


 そんな彼女を見て、


 「歩夢ちゃん……」


 と、長い茶髪の少女が心配そうに声をかけると、


 「うぅ、思いっきり叫んじゃった」

 

 と、シーツに包まったまま海神がそう口を開いたので、


 「う、うん。なんか叫んじゃったね」


 と、茶髪の少女はそう返し、


 「うぅ、恥ずかしいよぉ。フーちゃんに会いたいよぉ……」


 と、海神ーー否、歩夢はシーツの中で大粒の涙を流した。そんな歩夢を優しく撫でながら、


 「……そうだね。私も、春風君に会いたいよ」


 と、茶髪の少女も、今にも泣き出しそうな表情でそう言った。


 それから少し時間が過ぎると、トントンと部屋の扉をノックする音が聞こえたので、歩夢は茶髪の少女に、


 「……美羽みわちゃん」


 と、歩夢は申し訳なさそうに茶髪の少女ーー美羽に向かってそう言うと、美羽は「うん」と頷いてベッドから立ち上がり、


 「どなたですか?」


 と、扉の向こうにいるかもしれない「誰か」に向かってそう尋ねると、


 「朝霧だ。入っていいだろうか?」


 と、扉の向こうでそう返事が来たので、美羽と歩夢はお互い顔を見合わせて、こくりと頷き合った後、美羽はゆっくりと部屋の扉を開けた。


 「や、やぁ、天上に海神」


 そこにいたのは、間違いなく自分達の担任教師である爽子だったので、


 「「先生……」」


 と、2人はホッと胸を撫で下ろした。


 すると、


 「私達もいるよ」


 と、爽子の背後で少女の声がしたので、美羽は「え?」と思って彼女の背後を見ると、そこには「クラスの委員長」を思わせる真面目そうな雰囲気をした少女と、その彼女の隣に立つ少し暗い雰囲気を少女がいたので、


 「あ、小日向こひなたさんに御影みかげさん」


 と、美羽は真面目そうな雰囲気をした少女を「小日向さん」、その隣にいる少し暗い雰囲気の少女を「御影さん」と呼んだ。


 その後、


 「少し話がしたいんだ。いいかな?」


 と、爽子が恐る恐るそう尋ねると、美羽は歩夢の方へと振り向き、歩夢は無言でこくりと頷いた。


 そして2人は爽子、小日向、御影を部屋に招き入れ、


 「その……海神、大丈夫か?」


 「……少し泣いたら、落ち着きました」


 と、爽子と歩夢がなんともぎこちない会話をしていると、再びトントンと部屋の扉をノックする音がしたので、


 「どちら様ですか?」


 と再び美羽が尋ねながら、警戒しつつゆっくりと扉を開けると、そこにはクールそうな印象を持つショートヘアの同じ年頃の少女がいて、


 「やぁ、天上。私だ」


 と、彼女がそう口を開き、


 「あ、氷上ひかみさん」


 と、美羽が少し驚いた表情になった。


 すると、「氷上さん」と呼ばれたは、


 「私だけじゃないぞ」


 と、自身の背後を親指で指差したので、美羽は「え?」彼女背後を見ると、


 「よう」


 「こんばんは、天上さん」


 そこには氷上よりもクールそうな印象を持つ少年と、穏やかな笑みを浮かべる小太りの少年がいたので、


 「あ、力石りきいし君に渡世わたせ君も来たんだ」


 と、美羽はクールな印象を持つ少年を「力石君」、小太りな少年を「渡世君」と呼んだ。


 「え、な、なんだ? 3人ともどうしたんだ?」


 と、美羽ではなく爽子がそう尋ねると、


 「私達、海神の様子を見に来たんだ」


 と、氷上はクールそうな表情でそう答えた。


 その後、「海神の様子見に来た」と言う氷上達3人も部屋に招き入れ、爽子らと同じように様子を聞きつつ仲良さそうな会話をした。


 更にその後、また部屋の扉をノックする音がしたので、


 「もう、面倒だな」


 と、また美羽が扉の前に立って扉を開けた。


 そこにいたのは、


 「あ、礼堂さんに……正中君」


 礼堂と純輝だった。


 美羽はすぐに扉を閉めようとしたが、


 「わぁー待って待って!」


 「ぼ、僕には、どうしても言わなきゃいけない事があるんだ!」


 と、必死になってそれを阻止しようとしたので、美羽は「はぁ」と大きく溜め息を吐くと、ちらりと歩夢を見た。


 それに対して、歩夢は「え?」と少し考えたが、最終的には2人も部屋の中へと招き入れた。


 その後、


 「で、礼堂さんはともかく、何で正中君まで来てるの?」


 と、周囲に見守られながら、美羽は2人に向かってそう尋ねると、


 「それは……」


 と、純輝がそう口を開き、


 「海神……さん」


 と、歩夢の方を見て、


 「切人が本当に、ごめんなさい!」


 と、綺麗な土下座をしながらそう謝罪した。


 そんな純輝の姿を見た後、


 「え、えええええええっ?」


 と、歩夢をはじめとした周囲の人達は、そう小さく驚きに満ちた声をあげた。

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