第17話 国王の自室にて


 (えー、皆さんこんにちは、桜庭水音です。僕は今、先生とクラスのみんなで、国王様の自室にいます)


 と、心の中でそんな事を呟いた水音は今、爽子とクラスメイト達(ただし、一部を除いて)と共に、国王ウィルフレッドの自室にいる。


 どうしてこんな事になったのか?


 それは、時は少し前に遡り、


 「頼む、私達にも、『雪村春風』という少年がどのような人間なのかを教えてほしい」


 と、そう頼み込んだウィルフレッドに、水音、歩夢、美羽の3人が「どうしよう」と滝のように汗を流していると、


 「あ、あのぉ……陛下達はどうしてこちらに?」


 と、爽子が恐る恐る「はい」と手を上げながらそう尋ねてきたので、


 「ああ、すまない。実は騎士達からの報告で、昼間のを聞いてな、私達も、彼女の事が心配になって様子を見に来たんだ」


 と、ウィルフレッドはチラリと歩夢を見ながらそう答えた。


 その答えを聞いて、歩夢は「あ……」と恥ずかしくなったのか思わず顔を伏せてしまい、そんな歩夢の背中を、美羽は優しく撫でた。


 そんな2人を前に、ウィルフレッドは話を続ける。


 「それで、だな。部屋の前に着くと、其方達の話し声が聞こえたので、妻と娘達と共に外で話を聞かせてもらった」


 その言葉を聞いて、水音達が「え、マジで?」と言わんばかりの表情になると、


 「水音殿、歩夢殿、そして美羽殿」


 と、ウィルフレッドが話しかけてきたので、名前を呼ばれた3人は思わず、


 「「「は、はいぃ!」」」


 と、背筋をピシッと伸ばしながら返事した。


 そんな水音達を見て、


 「ああ、すまない! どうか楽にしてほしい!」


 と、ウィルフレッドが大慌てで謝罪しながらそう頼むと、水音達は「は、はぁ」と言って全身の力を緩めた。


 ウィルフレッドはそれを見て「感謝する」とお礼を言うと、


 「其方達に無理を承知でお願いしたい。もう一度言うが、どうか私達にも、其方達が知っている『雪村春風』という少年が、どういう人間なのかを教えてほしい」


 と、最初に頼んだ事をもう一度言った。


 その言葉に水音が「どうしよう」と答えにくそうにしていると、


 「……そうしたいのは山々なのですが」


 と、歩夢がそう口を開いたので、水音や爽子、クラスメイト達、そしてウィルフレッドらも「ん?」と歩夢を見ると、


 「……凄く、です」


 と、歩夢は周囲を見回しながらそう言い、それを聞いて水音達は思わず、


 『あ!』


 と、口を大きく開いた。


 無理もないだろう。ただでさえそれほど広くない部屋に大人数でいるうえに、そこへ更にウィルフレッドら王族達も入ってきたので、ますます部屋の中が狭く感じてしまったのだ。


 それを知ったウィルフレッドは、


 「む。うーん……」


 と少しの間考え込むと、


 「よし。ならば、で話を聞こう!」


 と、「閃いた!」と言わんばかりの表情でそう提案してきた。


 それを聞いて、水音達は「……え?」となったが、


 (……来てしまった)


 最終的に、ウィルフレッドの自室で話をする事になり、全員で移動して、現在に至る。


 (……いや、どうしてこうなったぁ!?)


 と、心の中でそうツッコミを入れた水音の今の状況はというと、まず結構な広さを持つウィルフレッドの自室の床に敷かれた大きな絨毯の真ん中に、水音、歩夢、美羽の3人が座り込み、彼らを囲むように、ウィルフレッドら王族達はじめ、爽子とクラスメイト達が座り込んでいる。


 「よし、これでは整った。さぁ、聞かせてくれ」


 と言ってきたウィルフレッドに、


 (いや『聞かせてくれ』って、何なのこの状況は!?)


 と、水音は何故か正座をしている状態でがくがくと体を震わせていると、


 「そうですね、まず、私達が知ってる雪村ですが……」


 と、爽子が口を開いたので、ウィルフレッドらだけでなく水音達までもが「ん?」と、皆、一斉に爽子を見た。


 それに爽子はビクッとなったが、すぐに首を横にぶんぶん振るって話を続ける。


 「私自身、まだこの子達の担任教師になって日は浅いのですが、普段の雪村はとても真面目で、あまり感情を表に出す事はないくらい、静かで大人しい子なんです」


 「ほう」


 「ですから、この世界に召喚されたあの日、どうして彼があそこまで陛下達の申し出を拒否して、私達のもとから去った理由がわからなくて……」


 そう言うと、爽子は悲しそうな表情になって顔を下に向けた。


 そんな爽子を見て、


 「そ、そうだったのか。他に誰か、彼を知ってるものはいないのか?」


 と、ウィルフレッドは新たな情報を求めてクラスメイト達にそう尋ねたが、どのクラスメイトも爽子と同じような感じだった。


 そんな彼らを見て、


 (まぁ、そうだよなぁ)


 と、水音が小さく「はぁ」と溜め息を吐くと、


 「……フーちゃんが悪いんだからね」


 と、水音の隣に座っている歩夢が、ぼそりとそう呟いた。


 その言葉を聞いた瞬間、水音は「え?」と歩夢を見ると、彼女はまっすぐウィルフレッドを見て、


 「私と彼……フーちゃんは、5なんです」


 と、答えた。

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