第13話 揉め事、発生?


 それから水音は、しつこく春風の事を聞いてくる進らクラスメイト達をなんとか回避しつつ、午前の訓練である座学を乗り切った。


 ただ、その間、周囲から妙な視線を受けてはいるが、


 (き、気にしない! 僕は絶対に気にしない!)


 と、水音は必死になってそれらをスルーした。


 そして昼食を終えて、


 「なぁ、ホントに『何となく答えてみただけ』なんだろうなぁ?」


 「ほ、ホントにホント! だからそんな気にしないで!」


 「えぇ? ホントにぃ?」


 と、進と耕からのしつこい質問にそう答えながら、水音は午後の訓練の場所である王城内の訓練場に向かっていると、


 「よせ、切人きりひと!」


 という叫び声が聞こえて、


 「お?」


 「ねぇ、今の声って……」


 「正中君?」


 と、3人はぴたっとその場に止まって顔を見合わせると、


 「ぐは!」


 と、誰かが殴られたかのような鈍い音と悲鳴が訓練場から聞こえたので、


 「え、何今の音!?」


 「急ごう!」


 と、水音達はすぐに訓練場へと駆け出した。


 そして、3人が訓練場に入ると、


 「何すんだ裏見うらみ!?」


 と、地面に座り込んで口元を拭う少年と、


 「黙れ! の話をするな!」


 「やめるんだ!」


 と、純輝に羽交い締めにされながら、怒りの形相でその少年を怒鳴っている少年が見えたので、


 「あれって、あかつき君?」


 「それに正中に羽交い締めされてるのって……」


 「裏見君だ」


 と、水音達は座り込んでいる少年と純輝に羽交い締めされている少年の順に見た。


 因み彼らの周りには、同じく訓練に来ていた他のクラスメイト達もいて、皆、少年達を見ておろおろしていた。


 それからすぐに水音は、「暁君」と呼んだ座り込んでいる少年の傍に立っている眼鏡をかけた少年に近づいて、


 「野守のもり君!」


 と、声をかけた。


 その声に気付いたのか、


 「あ、桜庭君に近道君、遠畑君!」


 と、「野守君」と呼ばれた少年が返事すると、


 「これ、一体何があったの!?」


 と、水音は野守に向かってそう尋ねた。

 

 すると、野守は「あー……」と気まずそうに頬を人差し指で掻いた後、水音の傍に近づいて、


 「今朝、礼堂さんが『雪村君に笑われちゃう』って言ってたでしょ? それで暁君が、『よっしゃあ! じゃあ、雪村に笑われないように頑張るぞ!』って、気合いを入れたら、裏見君が……」


 と、チラッと「裏見君」と呼んだ純輝に羽交い締めされている少年を見ながら、小さな声でそう答えた。


 その答えを聞いて、水音が「えぇ?」と声を漏らすと、


 「聞こえてるぞ野守ぃ!」


 と、裏見の怒鳴り声が聞こえたので、野守だけでなく水音、進、耕までもがビクッとなった。


 その後、裏見は座り込んでいる暁から視線を外すと、


 「お前もお前だ礼堂! お前があいつの話をするから!」


 と、その視線の先にいる少女、礼堂に向かってそう怒鳴った。


 その声に礼堂が「ひっ!」と悲鳴をあげたので、


 「やめろと言ってるだろ切人! 野守君と礼堂さんに八つ当たりするな!」


 と、裏見を羽交い締めにしながら純輝がそう怒鳴った。


 これで大人しくなるかと、誰もがそう思っていたが、


 「……あ?」


 と、裏見は純輝を見ると、


 「え? うわっ!」


 裏見は信じられないような力で純輝の拘束を振り解き、


 「黙れ」


 「ぐあっ!」


 その勢いで、裏見は純輝を殴り飛ばした。


 それを見て、


 「正中! 裏見、テメ……!」


 と、暁が立ち上がると、


 「お前も原因だろうが純輝! お前が雪村を……あのを止めなかった所為で!」


 と、裏見はそんな彼を見ず、殴られて地面に倒れている純輝を見てそう怒鳴った。


 次の瞬間、


 「……おい」


 と、裏見の怒鳴り声を聞いた水音がそう声を漏らすと、その声に何かを感じたのか、裏見や純輝、暁や他のクラスメイト達までもが、一斉に水音を見た。


 そんな彼らを前に、


 「今、春風の事なんて言った?」


 と、水音は恐ろしく低い声で、裏見に向かってそう尋ねた。


 あまりにも普通じゃない水音の雰囲気に、進らクラスメイト達は怯え始めたが、それに気付いていないのか、


 「はは、何だよ桜庭、お前もあの裏切り者の肩を持とうってのか?」


 と、裏見は醜く口を歪めて笑いながらそう尋ね返した。


 その質問がとなったのか、


 「それは、春風の事を言ったのか裏見ぃ!?」


 と、水音はまさに形相で更に尋ねた。


 その質問を聞いた瞬間、


 「お、おい桜庭!」


 「桜庭君!」


 と、進と耕が慌てて水音を抑えたが、そんな彼らを前に、


 「おいおい何だよ、『裏切り者』を『裏切り者』って呼んで何が悪いんだ?」


 と、裏見は更に醜い笑みを浮かべながら尋ね返した。


 それを見て、水音は進達に抑えられながらも、裏見のもとへと進もうとしているが、彼は更に話を続ける。


 「大体、あいつはあんな事言ってるけど、本当は怖くて逃げ出したんじゃないのかなぁ? 当然だよね、だってあいつ、『勇者』じゃないんだからさぁ!」


 と、裏見が声高々にそう言うと、


 「やめろ切人! 確かに雪村君は僕達のもとを去ったけど、『絶対に帰る』って言ってたじゃないか! それなのに……」

 

 と、漸く立ち上がった純輝がそう叫んだ。


 しかし、


 「黙れよ、雪村を止められなかった役立たずが!」


 と、裏見に怒鳴られてしまい、純輝は「うぐっ!」と何も言えなくなった。


 裏見はそれを確認すると、


 「そうさ、あいつはただの『臆病な裏切り者』だ! あんな奴、魔物にでも襲われてさっさとくたばればいい!」


 と、再び声高々にそう叫び、そして最後に、


 「ああ、それともあれかな? 今頃はあの『レナ』って女の子といちゃついてんのかな?」


 と、付け加えたので、それが更に引き金となったのか、


 「裏見ぃい!」


 と、ブチ切れた水音が、進らを振り解いて裏見のもとへと駆け出そうとした……が、まさにその時、


 「ぐ!」


 突如、裏見の傍に現れた人影が、彼のを思いっきり踏んだ。


 突然の事に水音をはじめ、誰もが『え?』となっていると……。


 ーーバキッ! ゴスッ!


 「うぐ! がは!?」


 その人影は、裏見の顔面を2回殴った。当然、彼の足を踏んだまま、だ。


 「な、な……?」


 殴られた裏見がそう声を漏らすと、人影は彼の足を踏んでいた自身の足を退けると……。


 ーーズゴッ!


 その足で裏見のに蹴りを入れた。


 「ぎぃあああああああっ!」


 まさかの一撃を受けて、裏見は立っていられなくなったのか、痛そうに股間を押さえてその場に倒れた。


 そしてそれが原因なのか、さっきまでぶち切れていた水音をはじめ、進や耕、純輝や暁といった、その場にいた他の男子、男性までもが、痛そうに股間を押さえた。


 (い、一体、何が?)


 と、水音は股間を押さえたままその人影を見た。


 「わ、海神わだつみ……さん?」


 その正体は、「勇者」として召喚されたクラスメイトの少女だった。


 「……何も。何も知らない癖に……」


 少女は倒れている裏見を見て、


 「彼を……雪村君を……を……」


 目に涙を浮かべながら叫んだ。


 「私のを、侮辱するするなぁっ!」


 その叫びを聞いて、水音は「あ……」となったが、それ以外(一部を除いて)の人達は、


 「えええええええっ!?」


 と、驚愕の声をあげた。

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