第12話 食堂にて
それから一夜明けて、
「本当に大丈夫なのですか? まだ安静にした方がいいのでは?」
と、水音は治療した神官にそう尋ねられたが、
「ご心配なく、僕はもう大丈夫ですから」
と、水音はそう言って頭に巻かれた包帯を外すと、「ありがとうございました」と神官に向かって深々と頭を下げて、治療室を後にした。
治療室を出てすぐ、グゥッとお腹が鳴ったので、水音は自室に戻らずに、そのまま食堂に向かった。
その途中、
「よ、桜庭」
「おはよう、桜庭君。もう怪我は平気なの?」
と、進と耕に出会ったので、
「おはよう。もう大丈夫だから、これから食堂に向かうところだよ」
と、水音は穏やかな笑みを浮かべてそう返すと、
「あ、僕達も食堂に向かうところだから、一緒に行こうよ」
と、耕に誘われたので、
「うん、行こう」
と、水音は進達と一緒に食堂へと歩き出した。
食堂に着くと、そこには王国の兵士や騎士達と一緒に、爽子とクラスメイト達がそれぞれのテーブル席に座って食事をしていた。
因みに、この世界に召喚されてすぐの時に、ここにはいない春風と、彼を連れ出したレナという少女ぶちのめされた騎士や神官達はいない。何故なら、春風達が去った後、
「お前達には、暫くの間自宅で謹慎してもらう」
と、彼らは国王ウィルフレッドにそう命令されたからだ。
無理もないだろう。幾ら五神教会教主ジェフリー・クラークの命令とはいえ、自分達の都合で巻き込んでしまった異世界の人間を
そんな訳で、彼らは現在、それぞれの実家でウィルフレッドの命令に従って大人しく謹慎しているのだが、それでも春風(とレナ)がやった事が大きかったのか、他の騎士や兵士達はともかく、爽子とクラスメイト達も、皆、何処か暗い表情をしていた。
そんな彼らを、水音はなんとも言えない表情で見ていたのだが、再びお腹がグゥッと鳴ったので、進達と一緒に食事をする事にした。
だが、
(うぅ……)
やはり皆、何処か暗い表情をしていたので、それがこの場を重苦しい雰囲気にしていた。
(こ、この状況は、不味い!)
と、水音はとある方向をちらりと見た。
その視線の先には、純輝ら6人の中心グループがいるのだが、全員他のクラスメイトと同じく暗い表情をしていて、特に純輝の隣に座っている少年は、クラスメイト達以上に表情を暗くしていた。いや、暗すぎて明らかに
とにかく、そんな純輝達を見て、
(ああ、駄目だぁ)
と、水音が諦めの表情になると、
「あぁー、もう!」
と、1人の女子クラスメイトがそう叫びながら椅子から立ち上がった。
「うわ、びっくりした!」
と、突然の事に小さく驚きの声をあげた水音は、
「え、
と、その女子クラスメイトを見た。水音だけでなく、進や耕、それに爽子や他のクラスメイト達も、一斉に彼女を見た。
そして、
「ど、どうしたんだ礼堂?」
と、爽子がその女子クラスメイトに向かって恐る恐る尋ねると、「礼堂さん」呼ばれた長いツインテールの女子クラスメイトは、
「ちょっと先生! それにみんな! 朝っぱら暗すぎ! せっかく朝ごはんが美味しくなくなっちゃうよ!」
と、周囲を見回しながら怒鳴った。
そんな女子クラスメイトーー礼堂に、
「お、おい、れいど……」
と、爽子が声をかけたが、それに構わず、
「あのさぁ、私達『勇者』として頑張るって事になったんだから、もう覚悟決めて一緒に頑張ろうよ! でないと『世界を救う』なんて出来る訳ないじゃん!」
と、礼堂は真面目な表情でそう言ってきたので、
「そ、そうだな……」
「うん、そうだよね」
と、クラスメイト達は口々にそう言って、少しずつではあるが表情を明るくしていった。
そんな状況の中、
「礼堂さん、元気だねぇ」
「へへ。ま、あいつの言う通りだな」
と、耕と進は表情を緩ませ、
(礼堂さん、ナイス!)
と、水音は心の中で彼女に向かって親指を立てた。
ところが、
「もう、しっかりしてよね! みんながそんなんじゃ、
と、礼堂がそう言った瞬間、
『はぁ……』
と、皆、溜め息を吐いて表情をもの凄く暗くした。
それを見て、
(礼堂さんの馬ぁ鹿ぁあああああああっ!)
と、水音は心の中でそう悲鳴をあげた。
そんな状況の中、礼堂が「あれ? あれ?」と、おろおろしていると、
「はは。『雪村君』、かぁ」
と、進がそう口を開き、それにつられて、
「今頃、雪村君どうしてるかなぁ」
と、耕は天井を見上げた。
そして、
「どうって、ウィルフレッド陛下が言ってたように、外の世界は危険がいっぱいなんだろ? どっかでピンチになってんじゃねぇか?」
と、進が投げやり気味にそう言うと、
「いや、
と、水音は「ははは」と笑いながらそう言った。
すると、
『……え?』
と、爽子や進と耕を含めたクラスメイト達が、一斉に水音を見た。
「ん? どうしたのみんな?」
と水音がきょとんと首を傾げると、
「桜庭、お前雪村の事知ってんの?」
と、進がそう尋ねてきたので、
「え……って、あっ!」
と、水音は自分が
(や、ヤバい!)
と、思うと、すぐに目の前の食事を平らげて、
「ご、ご馳走様ぁ!」
と言って、水音は大急ぎでその場を後にした。
そして、そんな水音に続くように、
「あ、おい、桜庭!」
「ど、どうしたの桜庭君!?」
と、進と耕も、自分達の食事を平らげて、
「待てよ桜庭!」
「ま、待ってぇ!」
と、2人は水音の後を追いかけた。
その際、彼らを鋭い眼差しで見ていた者がいたが、残念な事にそれに気付いた者は、その場には誰もいなかった。
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