第11話 治療室にて


 「う、うーん……」


 目が覚めると、水音の目の前に見知らぬ天井が見えた。


 (あれ? ここ……は?)


 と、水音がゆっくりと視線を左右に動かしていると、


 「お、気が付いた!」


 「ああ、よかった桜庭君!」


 と、すぐ傍で声がしたので、水音が「え?」と声がした方へと首を動かすと、そこには2人の少年がいた。


 1人は目つきの悪そうな小柄の少年。


 もう1人は少し気の弱そうな顔つきをした大柄の少年だ。


 2人の少年を見て、漸く意識がはっきりしたのか、


 「あ、近道こんどう君……」


 と、水音は小柄の少年をそう呼び、


 「それに、遠畑とおはた君」


 と、もう1人の大柄な少年をそう呼んだ。


 水音に名前を呼ばれて、「近道君」と呼ばれた少年は「よ!」と返事をし、「遠畑君」と呼ばれた少年は「やぁ」と返事をした。


 その後、


 「ここ……は?」


 と、水音が近道に向かってそう尋ねると、


 「ここは王城内にある『治療室』だ」

 

 と、近道はそう答え、彼に続くように、


 「びっくりしたよぉ。部屋で寝てたら隣で大きな音がして、最後に変な鈍い音がしたから『何だろう?』って思ったら兵士さんの声が聞こえて部屋を出たんだ」


 と、遠畑もそう答えた。そして、その答えに近道も「うんうん、俺も聞こえた」と頷きながら言う。


 遠畑の言葉を聞いて、


 (あ、そういえば2人の部屋は僕の両隣だった……)


 と、水音は最後に「しまった」と思った次の瞬間、ズキンッと頭に痛みを感じたので、


 「うぐっ!」


 と、水音は思わず右手で自身のこめかみを押さえた。すると、


 (……あれ?)


 と、水音は触れている部分に違和感があるのに気付くと、もう片方の手で反対側のこめかみに触れようとすると、


 「ああ、駄目だよ桜庭君! 君、しているんだから!」


 と、遠畑は大慌てで水音向かってそう言ったので、水音は「え?」とキョトンとしていると、すぐ近くに鏡があったので、それで自身の姿を見てみると、そこには頭に包帯を巻いている水音の姿が映っていた。更によく見ると、どうやらベッドに寝かされている状態だというのも、今になって理解した。


 その瞬間、


 (ああ、そうだ。思い出した)


 と、水音は漸くそれまでの記憶を思い出した。


 そう、自分の中に眠る、「職能」や「魔力」以外の、1」を出せるか確かめたら、何かに縛られたかのような感覚に陥って、苦しくなって部屋の中で暴れて、最後はクローゼットに頭をぶつけたのだという事実を。


 それを思い出した瞬間、


 (うわぁ、恥ずかしい!)


 と、水音は顔を真っ赤にしながら下を向いた。


 それを見て驚いた遠畑が、


 「だ、大丈夫!?」


 と、尋ねると、水音は顔を下に向けたまま、


 「あ、うん、大丈夫大丈夫」


 と答えた。顔を真っ赤にしているのを見られたくなかったからだ。


 そんな水音を前に、


 「いや、ホントびっくりしたんだからな! つとむが言ったように、お前の部屋から変な音がしたんで、部屋出たら兵士さんがお前の部屋の扉をドンドンと叩いてるのが見えてな、こっちから話しかけても返事がねぇし、開けようにも鍵がかかってたもんだから、耕が体当たりして扉ぶち破って中に入ったら、何と部屋荒れ放題なうえにクローゼットの傍で血を流して倒れてるお前がいたんだから、大慌てでここまで運んで、そこにいる神官さんが回復魔術かけて治してくれたんだぜ」


 と、近道は遠畑と水音の傍に立つ白いローブ姿の男性の順に指差しながらそう説明した。 


 その後、今になって白いローブ姿の男性ーー神官の存在に気付いた水音は、「あ、どうも」とその神官に頭を下げると、


 「そうだったんだ。ありがとう遠畑君、それに神官さんも」


 と、2人に向かってお礼を言った。その際、


 「え、俺にはねぇの?」


 という近道に対し、


 「いや、すすむ君は後をついてきただけだよね?」


 と、遠畑ーーいや遠畑とおはたつとむ(以下、耕)は「進君」と呼んだ近道にツッコミを入れた。


 そんな2人のやり取りを見て水音が「はは……」と弱々しく笑っていると、バァンッと大きな音を立てて治療室の扉が開かれて、


 「さ、桜庭!」


 と、寝間着(?)姿の爽子が、慌てた様子で入ってきた。因みに彼女の傍には数人の他のクラスメイトの姿もあった。


 それはさておき、そんな様子の爽子を見て、


 「あ、先生……」


 と、水音が口を開くと、爽子は水音に近づいて、


 「大丈夫か桜庭!? 怪我をしたって聞いたぞ! ああ、頭に包帯なんて巻いて! 他には!? 他に怪我をしてないか!?」


 と、ペタペタと水音の体を触りながら尋ねてきたので、


 「だ、大丈夫です先生! これは……そのぉ……そう、スキル! いやぁ、ちょっとスキルがあったから、どんなものなのかなって実験してみたら、上手くコントロールが出来なくて、それで、この状態なんですよねぇ」


 と、水音は「あはは」と笑いながら、小夜子だけじゃなく耕と近道ーー近道こんどうすすむ(以下、進)と神官、そして他のクラスメイト達にを言った。


 本当は別の「力」を試していたのだが、その「力」はだったのだ。


 その「嘘」を聞いて、耕や進らは「えぇ?」と首を傾げたが、爽子だけは、


 「本当……なんだな?」


 と、水音に真剣な眼差しを向けながらそう尋ねてきたので、水音は「すみません、嘘です」と言いそうになったが、


 「は、はい、本当です。心配かけて、ごめんなさい」


 と、水音は深々と頭を下げて謝罪しながらそう答えた。


 それを聞いて、


 「何だよ、ひと騒がせだなぁ」


 と、進は呆れ顔になり、それ見て「まぁまぁ……」と耕は弱々しい笑みを浮かべた。


 そして、それは他の人達も同様なのだが、


 「桜庭……」

 

 爽子だけは違った。


 彼女は両手で水音の手をぎゅっと握ると、


 「頼むから、心配させないでくれ。お前や、クラスのみんなにもしもの事があったら、私は……」


 と、声を震わせながら言った。


 いや、よく見ると声だけじゃなく体まで震わせていたので、それを見た瞬間、


 (あ、もしかして、春風の事を思い出してるのかな?)


 と、水音はそう感じたので、


 「……本当に、大丈夫ですから。ごめんなさい」


 と、水音は再び頭を下げて謝罪した。


 その後、「暫くは安静するように」と神官に言われたので、


 「じゃ、おやすみなぁ」


 「おやすみ、桜庭君」


 と、進や耕、爽子、神官、そしてクラスメイトらは治療室を出て自分達の部屋に帰り、


 「うん、おやすみ」


 と、水音はそう言って彼ら見送った。


 その後、水音は1人きりになると、天井を見上げて、


 「はぁ。本当に、参ったなぁ」


 と、溜め息を吐きながらそう呟いた。

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