第10話 確かめたい事


 翌日、朝食が終わると、水音ら勇者達の「訓練」が始まった。


 「訓練」といっても、水音達はこの「エルード」という世界の事をよく知らないので、午前は座学、午後は戦闘術の訓練という形で行うそうだ。


 そして訓練1日目の座学は、最初という事で、この「エルード」という世界の成り立ちについて学ぶ事になった。


 はじめはこの世界の文字が読めるか不安になっていた水音達だったが、称号「異世界人」の特性によって問題なく読む事が出来たので、水音達はホッと胸を撫で下ろした。


 そして、肝心の内容の方はというと、この世界の詳しい歴史から、現在この世界に存在する「国」の数とその特徴、次に現在の世界の常識、特に水音達だけでなくこの世界の人間達に宿っている「職能」について詳しく教わった。ただ、その最中に教官役の神官から聞かされた、


 「『職能』とは、我々人類が神々より授かった『祝福』なのです」


 という言葉が、


 (『祝福』……か)


 と、水音の心に深いを落としたのだが、幸い(?)な事に、誰一人そんな水音の様子に気付く事はなかった。


 その後、座学が終わって昼食を済ませると、午後からは戦闘術の訓練となった。といっても、最初はそれぞれの身体能力を測るだけで、本格的なものは明日から行うようだ。


 そして、午後の訓練が始まると、皆、基礎体力に始まって、腕力や脚力、果ては自分達の中にあるもう1つの力、「魔力」を測定していき、高ければ両手を上げて嬉しそうに喜ぶ者もいれば、低ければガクリと肩を落として落胆する者もいた。


 そして、水音はというと、故郷である「地球」で鍛えていただけあって体力、腕力、脚力は高い方だが、その反対に魔力は低い方だった。


 その結果に水音は、は「うーん、残念」と他の魔力が低い者と同じようにガクリと肩を落としたが、心の中では、


 (ま、良いか。でも、『』は、魔力とは違うのかなぁ?)


 と、それほど気にしてなかった。


 午後の訓練が終わって夕食を済ませると、皆、それぞれ仲間と談笑したり、部屋に戻って休んだりしながら、明日からの本格的な訓練に備えた。


 その夜、みんなが寝静まる中、水音は1人、自室のベッドの上で精神統一していた。


 (……)


 そして暫くすると、


 「……よし」


 と言って、ベッドから降りて部屋の中心(?)に立ち、ゆっくりと目を閉じて深呼吸すると、


 「目を覚ませ。目を覚ませ……」


 と、まるで何かの呪文を唱えるように小さく呟いた。


 そして、


 「僕の中の『』よ、僕の声が聞こえるか?」


 と、誰かに尋ねるかのようにそう言った次の瞬間、


 ーーグオォウ!


 というが聞こえたので、


 「よし、来い!」


 と、水音は小さく叫んだ。


 ところが……。


 ーーさせない。


 と、何処からかそんな声が聞こえて、それを聞いた水音が「え?」と首を傾げると……。


 ーーギュルギュル!


 「うぐぅっ!」


 突然、何かが巻きついてきたかのような感覚に陥り、水音は苦しそうに呻いた。


 「な、何だよ、これ? ?」


 よく見ると、それはの形をした白いエネルギーみたいなもので、それが水音の全身を締め上げるように巻きついていた。


 「は、離れろ、離れろよ、この!」


 水音はどうにかしてそのエネルギーみたいなものを引き剥がそうとしたが、引っ張れ引っ張る程締め上げる力が強くなっていき、それが更に水音を苦しめていた。


 「うぎっ! ぐ……あ……!」


 やがてその苦しみに耐えられなくなったのか、水音は部屋の中をあちこち動き回っては、何度も壁に激突した。


 「はぁ……はぁ……!」


 そしてそんな事をしていくうちに、水音は足を滑らせて倒れ込み、ゴンッと部屋に備わったクローゼットの角に頭をぶつけた。


 「あいたっ!」


 と、水音はそう悲鳴を上げると、そのままズルズルと床に倒れた。


 その時、


 「勇者殿、どうかなさいましたか!?」


 と、部屋の扉の向こうからドンドンと叩く音と共にそんな声が聞こえた気がしたが、気付いていないのか水音はそれに応える事が出来ず、代わりに頭の中に、


 「『職能』とは、我々人類が神々より授かった『祝福』なのです」


 と、午前の座学で神官が言った、あの言葉が浮かび上がった。


 その言葉を思い出して、


 「……何が、『祝福』だ」


 と、水音は小さく呟き、


 「こんなの……『呪い』じゃ……ないか」


 そのまま意識を失った。

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