第8話 そして、「少年」は去った
「ちょっとユニークな、『一般人』です!」
そう言った春風に対して、
(な、何を言ってるんだ君はぁあああああああっ!?)
と、水音は心の中でそうツッコミを入れたが、
「……そうか、『勇者』ではないんだな」
と、ウィルフレッドが納得したかのようにそう言ったので、
(あんたも納得すんなよぉおおおおおおおっ!)
と、水音は更に心の中で再びそうツッコミを入れた。
しかし、そんな水音を他所に、
「さて国王様、もう一度言いますが、俺はあなた方が求めている『勇者』ではありませんので、ここをでて行く許可をください」
と、春風がウィルフレッドに向かって丁寧な口調でそう頼み、
「其方は元の世界で、かなりの修羅場を潜ってきたようだな」
と、ウィルフレッドは真剣な表情でそう言った。
その言葉を聞いて、
(ええ、そうですよ! 春風は地球で
と、水音はその時の記憶を思い出しながら、心の中でヤケクソ気味にそう叫んだが、そんな水音を他所に、
「しかし、この国の外には、其方が想像も出来ないような『危険』が潜んでいる。そして私も説明したように、今、外には蘇った邪神が生み出した『眷属』もいる。幾ら其方が持っているその武器が強くても、生き残れる保証はないのだぞ? それでも、其方はここを出て行くというのか?」
と、ウィルフレッドが更に真剣な表情で春風にそう尋ねてきたので、
(そ、そうだよ! 幾ら春風でも……)
と、我に返った水音が、ちらりと心配そうに春風を見ると、
「ご心配には及びません!」
と、先程まで春風と一緒に騎士達をぶちのめしたレナ名乗った少女が、「はい!」と手を上げた。
その姿に水音だけでなく爽子やクラスメイト達までもが、「え?」となっている中、
「む、其方は?」
「はい! 改めて、私、『ハンター』をしております、レナ・ヒューズと申します! 突然で申し訳ありませんが、彼の身柄を私に預からせてください!」
と、ウィルフレッドに尋ねられたレナが、チラリと春風を見ながらそう答えたので、
(え、ええ! ちょ、何言ってんのそこの君ぃ!?)
と、水音は心の中でそう驚きの声をあげたが、そんな彼に構わず、
「……理由を聞いてもいいだろうか?」
と、ウィルフレッドがレナにそう尋ねて、
「はい! それは、私なら彼が『最も望んでいるもの』を用意出来るからです!」
と、レナはまたチラリと春風を見ながら、真剣な表情でそう答えた。
その答えを聞いて、
(いや、ホントに何を言ってるの!? ていうか、春風が望んでいるものって何!?)
と、水音がオロオロしていると、
「春風……でいいんだよね?」
と、レナが春風にそう尋ねて、
「はい、先程も言いましたが、雪村春風と申します」
と、春風はレナに向かって自己紹介した。
その後、レナは春風に向かって頭を下げて、
「ごめん、実はさっきまでの国王陛下の話から、あなたの質問や意志まで全部聞かせてもらいました。それ故に、あなたが何を望んでいるのか、私にはわかるの。今も言ったけど、私なら、あなたが望んでいるものを用意する事が出来るわ。だから……」
と言うと、レナはスッと右手を差し出して、
「私を信じて、一緒に来て!」
と言った。
「……は?」
これには流石に水音もポロっと口からそうこぼした。
(何だよ。何なんだよこれ!?)
当然である、いきなり現れて、
「あなたの欲しいものは私なら用意出来るから一緒に来て!」
なんて言う少女の言葉など、到底信じられるものではないと思っているからだ。
(さ、流石に春風も、こんなの信じたりしないよね?)
と、水音は「やれやれ」と思いながら春風を見た。そしてそれは、爽子やクラスメイト達も同様だった。
だが、
「俺をここから連れ出してください、今すぐ!」
と、春風はそう言ってレナの手をガシッと掴んだので、
(うおおおおおい! 何やってんの春風ぁあああああっ!?)
と、水音は心の中で絶叫した。
その後、観念したかのようにウィルフレッドが「わかった」と許可を出したので、
「それじゃ、行こっか……」
と、レナが春風の手を引こうとしたが、
「あ、ちょっと待ってください!」
と、春風がそう言うと、
「先生、みんな。みんなには本当に申し訳ないんだけど、俺はここを出てみんなとは別行動をとります。でも俺は、絶対に生きてみんなと元の世界に帰りますので……」
と、水音達を見回して、
「ちょっと、行ってきます!」
と言った。
その言葉を聞いて、
(い、いやだ、行かないでくれ……)
と、悲しくなった水音は、レナと共に行こうとしている春風に向かって、
「春風!」
と、叫んだ。
そして、それと同時に、
「春風君!」
「フーちゃん!」
と、2人の女子クラスメイト達も、春風向かってそう叫んだ。
しかし……。
「ごめん」
と、春風は小さくそう言うと、レナと共に背後の大きな扉を潜って、広い部屋から出ていった。
取り残された水音は、
(そ……そんな)
と、ショックで泣きそうな顔になり、その後すぐに下を向いて、
「……何が、『勇者』だよ」
と、グッと拳を握り締めながら、小さくそう呟いた。
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どうも、ハヤテです。
という訳で、以上で外伝第1章は終了し、次回からは外伝第2章になります。
お楽しみに。
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