第7話 そして、「少年」は名乗った


 「ふ、ふざけるなぁあああああああっ!」


 と、叫びをあげながら、1人の若い騎士(?)が、腰に挿した剣に手をかけながら、春風に向かって突撃してきた。


 それを見た水音は、


 (あ、危ない!)


 と驚いて、すぐに春風のもとへと駆け出そうとしたが、それより早く、


 「ごめん!」


 と、春風は純輝を爽子の方へと突き飛ばした。


 しかし、


 「うおおおおおおおっ!」


 それでも騎士は止まる事なく、剣を鞘から引き抜いて、春風に向かって振り下ろそうとしていた。


 それを見て、


 「春風!」


 と、水音が叫んだ次の瞬間、ごっと何やら鈍い音がしたので、水音を含めた周囲の人達が「何だろう?」と音の発生源を見ると、剣を握っている騎士の指に、春風が何かをあてているのが見えた。


 あまりの出来事に水音が「え?」と声をもらすと、


 「ぐっ!」


 と、若い騎士(?)は剣を落としてその場に膝をつき、


 「てりゃあっ!」


 と、春風はその若い騎士(?)の顔面に飛び蹴りをお見舞いした。


 「ぐあああああっ!」


 その後、飛び蹴りを受けて吹っ飛ばされた若い騎士(?)の周りに仲間が集まってきたので、水音はその隙に春風の手に持っているものを見て、


 「……あ、師匠に貰った『お守り』」


 と、小さな声でぼそりと呟いた。


 その瞬間、水音の脳裏に、とある「記憶」が浮かび上がった。


 それは、今から1年前、水音と春風が高校生になったばかりの事だった。


 「春風。水音。2人共、高校入学おめでとう」


 「「ありがとうございます、師匠」」


 「はい、これ。私からの入学祝いよ」


 と言われると、2人はそれぞれ「師匠」から木製の箱を受け取った。


 その中身を見て、


 「あの、師匠。これって一体……?」


 と、春風がそう尋ねると、


 「私が作った特製の『お守り』よ。もしもの時は、それがあなた達を守ってくれるわ」


 と、「師匠」はニコッと笑ってそう答えた。そして、1年後の今に至る。


 そう、春風の手に持っているのは、春風と水音が高校入学のお祝いに「師匠」呼ぶ女性が作った「お守り」だったのだ。


 それに気付いた水音は、思わず自身の制服の上着の内ポケットの中を見る。


 その中には、春風のものと同じ、「師匠」と呼ぶ女性に貰った「お守り」が入ってた。


 その後、


 「き、貴様ぁ!」


 「よくもエヴァンを!」


 「許さん!」


 と、仲間をやられて怒った他の騎士(?)達を、春風は1人、また1人と返り討ちにしていった。


 その戦いぶりを見て、


 (は、春風を、助けなきゃ!)


 と、水音は内ポケット中の「お守り」を握り締めたが、


 (な、何で、何で動けないんだよ!?)


 と、何故かその場から動く事が出来ずにいた。


 その後も水音は、春風のもとへと駆け出そうとしたが、やはりその場から1歩も動く事が出来ず、ただ春風の戦いぶりを黙って見続けていた。


 そして、


 「さぁ、騎士達よ、神官達よ! 五神教会教主、ジェフリー・クラークが命ずる! 今すぐその男(?)を殺せ! 殺すのだ! そこにいる勇者になれなかった不届なはみ出し者を抹殺するのだぁ!」


 と、ジェフリーと名乗った法衣(?)姿の男性が、怒鳴り散らすようにそう叫んだので、


 (な、そ、そんな、春風!)


 と、水音はショックを受けると、「お守り」を握り締める力を強めて、


 (う、動け! 動け動け動けぇ! 動けぇ! 動けぇえええええっ!)


 と、心の中でそう叫びながら、春風のもとへと駆け出そうとした、まさにその時、


 「こらぁあああああああっ!」


 (……え?)


 何処からか突然白いショートヘアの少女(?)が現れて、


 「突然ですが、私、レナと申します! 助太刀させてください!」


 と、目の前の騎士と神官達に剣を向けた。


 突然の事に、


 (……え? な、何々? 何なんだ一体!?)


 と、水音だけでなく爽子やクラスメイト達が困惑していると、


 「ありがとうございます! スッゲェ助かります! 後、俺、異世界人の春風と申します!」


 と、春風は「レナ」と名乗った少女に向かってお礼と自己紹介をした。


 その後、水音やウィルフレッドらに見守られる中、春風とレナは協力して残りの騎士と神官を倒していった。勿論、全員殺さずに、だ。


 そして、


 「なぁにしてんだテメェエエエエエッ!」


 「ぐげぇえええええええっ!」


 春風が最後の騎士を倒すと、


 「き、貴様らぁあああああっ! よくもよくもぉおおおおおっ!」


 と、ジェフリーが怒りに任せて喚き散らした。


 そんな様子のジェフリーを、


 (うわぁ、なんか色々と台無しな気がする)


 と、水音はドン引きしながら見ていた。


 それから更に、


 「こんな事をして、タダで済むと思っているのか!? こんな事をして、『神々』が黙っていないぞ!」


 と、喚くジェフリーに対して、


 「生憎だけど、俺が信じてる『神様』は、故郷である『地球』の神々だけだ!」


 と、春風はそう言い放った。


 その言葉を聞いて、


 (……あれ? 君って、そんなに神様信じてたっけ?)


 と、水音が疑問に思っている中、


 「すまない」


 「うぐぅ!」


 と、ジェフリーがウィルフレッドの一撃によって気絶させられた。


 それからすぐに、ウィルフレッドは春風に向かって尋ねる。


 「其方は一体何者だ? 本当に、『勇者』ではないのか?」


 その質問に対して、春風はチラッと水音達を見た後、ビシッとポーズをとり、


 「俺は春風。雪村春風。あ、『雪村』が苗字で、『春風』が名前です。でもって……」


 右手に持っている「お守り」で、自分の右肩をとんとんと叩きながら答える。


 「ちょっとユニークな、『一般人』です!」


 その名乗りを聞いて、


 (……な)


 水音は心の中で絶叫する。


 (何を言ってるんだ君はぁあああああああっ!?)

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