第6話 「少年」は拒否する


 「すみません、やっぱ無理そうなので、ここを出て行く許可をください」


 『な、何ぃいいいいいいいっ!?』


 (お、遅かったぁあああああああっ!)


 春風のまさかの「拒否」に、その場にいる者達全員が驚愕した。ただし、水音だけは違う方向で。


 その「拒否」の言葉を聞いて、誰もが口をあんぐりとしていると、


 「……ちょ、ちょっと待ってくれ! 今のは一体どういう意味だ!?」


 と、ハッと我に返ったウィルフレッドが春風に向かってそう尋ねてきて、それからまた少しすると、


 「ま、待ってくれ雪村君!」


 「何、正中君?」


 「ど、どうしたんだ一体!? ここへきてどうして『無理』なんて言うんだ!? しかも『出て行く』なんて正気なのか!?」


 と、同じくハッと我に返った様子の純輝が、春風の両肩を掴んでユッサユッサと揺すりながら問い詰めてきた。


 そんな状況の中、水音は春風を見て、


 (春風、本当に一体どういうつもりなんだ!?)


 と、今にも泣きそうな表情でオロオロしていると、春風は申し訳なさそうな表情で、


 「正中君。いきなりこんな事を言って、本当に申し訳ないとは思ってるよ。だけど、俺はここにいるべきじゃないって事に気付いてしまったんだ。何故なら……」


 と言いながら、春風は水音を含む周囲の人達にも見えるように、


 「俺、『勇者』じゃないんだ」


 と、を見せた。


 そして、水音はを見た瞬間、


 「……え?」


 と、小さく声を漏らした。


 称号:「異世界人」「職能保持者」「巻き込まれた者」


 それは、春風自身の「称号」だった。


 その称号を見て、


 (な……何で? 何で、春風が?)


 と、水音がショックを受けていると、


 「ま、『巻き込まれた者』……だと? ど、どういう事だ!? 何故、そのような称号が!?」


 と、ウィルフレッドがショックで顔を真っ青にしていると、春風は「フ……」と小さく笑って、


 「いやぁ実はですね、先生やクラスのみんなが『勇者召喚』で出来た光に飲み込まれた時、俺教室のカーテンにしがみついて必死に抵抗してたんですよねぇ。俺が思うに、多分その時何か不具合みたいなのが起きてこの称号を手に入れたんだと思います」


 と、ふざけた感じで「アハハ」と笑いながら答えた。


 その後、春風は未だに顔を真っ青にしているクラリッサに向かって、


 「こうなってしまったのは俺に原因がある訳でして、あなたは何も悪くないんです、どうか気にしないでください」


 と言うと、最後に「すみません」と頭を下げて謝罪した。


 その後、「ふざけるなぁ!」と白と青の法衣(?)姿の男性がそう喚き、彼に続くように周囲の人達も「そうだそうだ!」「この無礼者が!」と春風に向かって怒鳴り散らして、それを見たウィルフレッドが「やめるんだ騎士達よ!」と慌てて止めに入るが、


 「申し訳ありませんが、幾ら怒鳴ろうと、俺は『勇者』じゃありませんので、『勇者』を求めているあなた方を助ける事は出来ませんし、例え『勇者』の称号を持っていたとしても、俺はここを出て行きますし、あなた方を助ける気はありません」


 と、春風は周囲を見回しながら、はっきりとそう言ったので、


 (何で……何でだよ春風ぁ!?)


 と、水音は春風を問い詰めようと近づこうとしたが、それよりも早く、


 「どうしてここまであの人達の『願い』を拒否するんだ!?」


 と、純輝が春風の肩を揺すりながらそう尋ねてきたので、水音は「うっ!」とその場に立ち止まった。


 その問いに対して、春風は真面目な表情で口を開く。


 「正中君、先生、みんな。勝手な事を言って本当にごめんなさい。だけど、俺はこの人達を信じる事が出来ません。さっきも言いましたけど、例え『勇者』の称号を持ってたとしても、この人達を救うなんて無理ですよ」


 「ど、どうしてだ? どうして!?」


 「俺さ、今日まで色んな人に……まぁ、数えるくらいしかいないけど、とにかく、色んな人達に言われてきた『言葉』があるんだ」


 「そ、その『言葉』って?」

 

 「『生きろ』『生きて幸せになってくれ』」


 (っ! そ、その言葉は……!)


 その瞬間、水音の脳裏に、とある『記憶』が浮かび上がった。


 それは、春風と「師匠」と行った、「とある異国の地」で遭遇した「とある『事件』」の記憶で、その事件の最中に、「とある人物」がに、春風に向かってそう言った言葉だった。


 水音はその時の事を思い出して、


 「……僕は」


 と、小さい声でそう呟くと、苦しそうに自身の胸を掴んだ。


 そんな水音を他所に、春風は更に話を続ける。


 「俺はこの言葉を送ってきた人達の事がとても大切で、俺はその人達に応えたいって思ってる。そして、この言葉のおかげで、俺、叶えたい『夢』が出来たんだ。でも、それは故郷である『地球』でないと叶える事が出来ないんだ。だから、その『夢』を奪ったこの人達を、俺は絶対に許せないんだ」


 と、そう言った春風に、水音は勿論、純輝や爽子、クラスメイト達、そしてウィルフレッドら王族達は何も言えないでいた。


 その後、春風は自身の肩から純輝の手を剥がすと、


 「そういう訳で申し訳ありませんが、俺はあなた方に力を貸す事は出来ませんので、ここを出て行く許可をください」


 と言って、ウィルフレッドに向かって深々と頭を下げた。


 それを見た水音は、


 「は、春風……」


 と、小さく呟きながら春風に近づこうすると、


 「ふ、ふざけるなぁあああああああっ!」


 と、1人の若い騎士(?)が、春風に向かって突撃してきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る