第5話 「少年」からの質問


 「ちょっとよろしいでしょうか?」


 そう言った春風に、爽子やクラスメイトらは勿論、ウィルフレッドら王族達や、その他の周囲の人達も、皆、何も言えないでいた。


 何故なら、彼らは皆、春風のに見惚れていたからだ。


 着ているのは男子用の学生服(エルード勢は知らないが)なのだが、その顔立ちはまるで「少女」……いや、最早「美少女」と思わせるかのように美しく、その場にいる全ての女子・女性達だけでなく男子・男性達も、春風のあまりの美しい顔立ちに見惚れていたのだ。よく見ると、その中には頬を赤く染めている者までいた。


 そんな状況の中、水音はというと、


 (春風、どうして眼鏡を外してるんだ?)


 と、1人、疑問に思っていて、それからすぐに、とある「記憶」を思い出し始めた。


 それは、今から3年前、初めて春風に出会ってから暫く経ったある日の事だった。


 「ねぇ、雪村君……」


 「? 何、桜庭君」


 「どうして君は、いつもそんな眼鏡をかけてるの? せっかく凄く綺麗っていうか、可愛い(?)顔してるのに」


 と、水音が春風にそう尋ねると、


 「……それって、俺が『女顔』だって馬鹿にしてる?」


 と、ぎろりと睨まれてしまったので、


 「ああ、ご、ごめん! そんなつもりはないよ! いや、ホントに!」


 と、水音は土下座するかのような勢いでそう謝罪した。


 その後、春風は「はぁ」と溜め息を吐くと、自身の顔を指さして、

 

 「だからだよぉ。産んでくれた母さんに文句を言うわけじゃないんだけど、この顔の所為で色々としてきたからさ、もう本当に勘弁してほしいんだわ」


 と、本当に「勘弁してくれ」と言わんばかりの表情で、その理由を説明した。


 そして、その理由があったから、春風は普段学校に行ってる時や、水音と共に「師匠」から教えを受けている時は、いつも分厚い眼鏡をかけていて、滅多な事ではそれを外す事はなかったのだ。


 しかし今、春風はその分厚い眼鏡を外して、周囲の人達に自身の素顔を晒している。


 それが、水音は不思議に感じていて、


 (春風、一体どういうつもりなんだ?)


 と、そんな春風を見てタラリと汗を流していると、


 「あのぉ、国王様」


 「な、何だろうか?」


 「幾つか質問があるのですが、よろしいでしょうか?」


 「あ、ああ、構わない。なんなりと聞いてくれ」


 「ありがとうございます。では早速……」


 と、ウィルフレッドとそうやり取りした後、


 「1つ目はまず確認ですが……」 


 と、春風は質問を始めた。


 それは、自分達をこの世界に召喚した「理由」の確認から始まり、「召喚」を行なった人物や、「ステータス」に表記されている「職能」について。更には「召喚」を行なった人物ーークラリッサについてや、自分達を召喚した際、クラリッサは何を「対価」にしたのか。更には今回の「召喚」に関わった神々についてや、封印から目覚めた「邪神」の名前と、春風は本当に様々な事を質問し、それを聞いた水音は、


 (う、うーん。僕でも大分事情はわかってきたけど、春風は本当にどういうつもりなんだ?)


 と、更に疑問に思っていると、春風はの質問として、


 「もし、俺達がその邪神と眷属とやらを倒す事が出来た時、あなた方は俺達に何をしてくれるのですか?」


 と、ウィルフレッドに向かって真剣な表情でそう尋ねた。


 その質問にウィルフレッドは「え?」となったが、すぐに真面目な表情で、


 「勿論、見事邪神とその眷属を倒す事が出来たのならば、其方達をこの世界を救った『英雄』として讃え、それ相応の褒美と名誉を授ける事を約束しよう」


 と答えた。


 その答えを聞いて、1部のクラスメイト達が『オォッ!』とやる気に満ち溢れ出し、そんな彼らを爽子は「お、おい、みんな!」と必死になって落ち着かせようとした。


 そして、水音はというと、


 (『英雄』……『英雄』かぁ)


 と、クラスメイト達と同じくやる気に満ち溢れ出していた。


 ところが、


 (そ、そうだ! 春風はどう思って……)


 と、ちらりと春風を見ると、それはまるで「欲しかったものが手に入らなかった」と言わんばかりの、酷く冷め切った表情になっていたので、水音は思わず、


 「……え?」


 と、周囲に聞こえないくらいの小さな声を漏らした。


 (は、春風。どうして、そんな表情をしているんだ!?)


 と、水音が心の中で戸惑っていると、春風はスッと顔を下に向けた。


 そして、


 「これで、納得頂けただろうか?」


 と、ウィルフレッドがそう尋ねると、顔を上げた春風は穏やかな笑みを浮かべて、


 「ええ、よくわかりましたよ」


 と答えた。


 その瞬間、


 (は……春風、まさか!)


 と、何かに気付いた水音は、すぐに春風の傍に駆け寄ろうとしたが、それよりも早く、


 「すみません、やっぱ無理そうなので、ここを出て行く許可をください」


 と、左右の掌をパンッと合わせて「ごめん」の仕草をしながら、申し訳なさそうにそう言った。


 そして、4秒の沈黙後、


 『な、何ぃいいいいいいいっ!?』


 と、周囲の人達が驚愕の声をあげた。


 そしてそれと同時に、


 (お、遅かったぁあああああああっ!)


 と、水音は心の中で悲鳴をあげた。

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