第3話「ちいさな蕾」

エレナは老婆に導かれ、ドレス工房へと到着した。そこはまるで魔法のような場所で、美しいドレスがずらりと並んでいた。

エレナは驚きとともにその光景に目を奪われた。


「実はね、私がこのドレスを作っているのよ」

と老婆が言った。

エレナは驚いて老婆を見つめた。

その瞬間、


老婆は指をパチンと鳴らした。

すると、白髪の老婆は美しい黒髪とワンピース姿の女性へと変わった。その姿は、とても華やかで、美しかった。


「ここがあなたの新しい家よ。私はセレスティアよろしくお願いしますね」

と彼女は微笑み、エレナをドレス工房の地下へと案内した。地下には従業員たちの住処があり、エレナもそこに住むよう言われた。

彼女は新しい部屋に荷物を置き、ここでの新たな生活をスタートさせた。


さっそくエレナはモデルの訓練を始めることとなった。


広々としたスタジオには、モデルたちが訓練に励む姿があちこちにいる。


「今日はウォーキングの基本から始めましょう」と、訓練を担当する指導者が言った。彼女は背が高く、プロフェッショナルなオーラを放つ女性で、他のモデルたちからも一目置かれているようだ。


エレナは緊張しながらも、他のモデルたちと一緒に列に並んだ。

指導者の指示に従って、エレナは一歩一歩、慎重に歩き始める。しかし、思った以上に難しく、足が絡まりそうになったり、バランスを崩してしまう。


「姿勢を正して、視線はまっすぐ前に。リラックスして」と指導者がアドバイスした。エレナはその言葉に従い、背筋を伸ばし、視線を前に固定した。


次のステップはターンの練習だった。エレナはターンする際にふらつきそうになり、何度かバランスを崩してしまった。震えるエレナに指導者は近づいてきて、肩に手を置いた。


「大丈夫よ、エレナ。練習すれば必ず上手くなるわ。焦らず、自分のペースで進めていきましょう」


エレナはその言葉に励まされ、再びターンの練習を続けた。徐々にコツを掴み、少しずつではあるが、安定感が増していった。


次に行ったのはポージングの練習だった。指導者が様々なポーズを示し、それを真似する形でエレナは練習を進めた。最初はぎこちなかった動きも、繰り返し練習することで次第に自然になっていった。


エレナは何度も何度も練習を重ねた。


他のモデルたちからもアドバイスを受けることがあった。ある日、先輩モデルのミリアがエレナに声をかけた。


「エレナ、少し肩を落として、リラックスしてみて。緊張が表情にも出てしまうわ」


「でも、、、ミリアさん私みたいな出来損ないがドレスショーなんて、出来ないに決まってるんです。」


何度練習をしてもエレナには自信が持てなかった。どんなに練習しても自分には先輩のようにキラキラと輝くことができないでいた。


「エレナ...ついてきてちょうだい!」


ミリアは微笑んだ。



彼女はミリアに連れてこられて、緊張気味に鏡の前に座っていた。ミリアが用意したメイク道具がテーブルに整然と並べられている。


「さあ、メイクを始めましょう」と先輩が言った。


エレナは緊張しながら、鏡に映る自分の素顔を見つめた。ミリアは優しく微笑みながら、まずはエレナの顔に塗り始めた。滑らかな感触が肌に広がり、エレナは少しずつリラックスしていった。


キラキラとした粉が舞いエレナの肌が一層滑らかになっていく。エレナの顔がより美しく変わっていった。


「目を閉じて」

エレナの目元に色を加えていった。淡いピンクとゴールドが調和し、エレナの目元が輝きを帯びた。


「目を開けて」とミリアが言うと、エレナはゆっくりと目を開いた。

目を閉じて開ける度に美しくなっていく自分を見るのが楽しい!


自然とエレナは笑顔になっていた、


最後に、エレナの唇に色をのせた。

ピンク色のリップがエレナの顔に最後の仕上げを加え、全体のバランスが完璧になっていく。


エレナは鏡に映る自分の姿を見つめ、息を呑んだ。魔法をを施されたかのような彼女の顔は、今までとは全く違う、華やかで洗練された美しさを持っていた。


「なんて可愛らしいのー!」

とミリアが優しく言った。


エレナは自分の顔を何度も見つめた。今まで感じたことのない自信と喜びが心に広がっていった。


「ありがとうございます!!本当に私がこんなに変われるなんて」とエレナは感謝の気持ちを込めて言った。


「この魔法はね、貴方もできるのよ」

ミリアは微笑んだ。


エレナは驚き、また1つ学んでいった。


モデルの練習にメイクの練習、失敗ばかりだった事も少しずつ出来るようになっていった。


あれからメイク道具についても調べて色んな種類のお店を見て回った。

様々な色を合わせてどんな色が自分に似合うのかも知ることがエレナは楽しかった。


そしてある日、ドレスを着ることが許されたエレナは試着室へと連れて行かれた。


ドレスのお店の試着室は壁一面が鏡になっており、光が柔らかく差し込んでいた。

たくさんのドレスがかかりまるで宝石箱のよう。


セレスティアは優雅に一つのドレスを手に取った。それはエレナが見たこともないような美しいドレスで、淡いピンク色が彼女の髪とよく合っていた。


セレスティアがにっこり微笑みながら話しかけてくる。

「さあ、これを着てちょうだい」


お店の売り子さんがやって来てドレスを受け取った。

「きっと似合うわ。貴方のためのドレスなんて素敵ね!」


ドレスの柔らかな生地が肌に触れるたびに、エレナの心臓はドキドキと高鳴った。全てを身に付け終えた時、彼女は恐る恐る鏡の前に立った。


鏡に映った自分の姿を見た瞬間、エレナは息を呑んだ。今までの自分とは全く違う、華やかで美しい姿がそこにあった。ピンクのドレスはエレナの髪と調和し、彼女をまるで夢の中のプリンセスのようだ。


「美しいわ、エレナ。」


エレナは頷きながら、鏡の中の自分に見入った。

「なんて綺麗なの」


「そうよ、あなたはそのままで十分美しいの。でも、このドレスがあなたの内なる美しさをさらに引き出してくれるのよ。ドレスにはそんな力がある」


エレナは感激の涙を浮かべながら、再び自分の姿を見つめた。


「さあ、これからが本番よ。あなたの新しい挑戦が始まるの」と彼女が言った。


でも...なんだろうどんなに着飾った姿であっても自分のドレスでは無いような気がする。

何か足りない、

どこから見ても美しいドレス、美しい外見、だが違和感を感じたのだった。


すると突然


「えっ、、、、?!?!?!」


見つめていた自分の姿が元の姿に戻っていた。


「どうしたのエレナ?」


瞬きした次の瞬間にはまた見慣れたピンク髪の姿になっていた。

「いえ、何でもありません」

誰も何事もなかったかのような空気にエレナは1人冷や汗をかいた。



後日、いつものようにモデルの練習が終わり、エレナはドレスの売り場にお手伝いで立っていた。


お店を整え、店内を見て回る。


チャリンチャリンチャリン


するとお客様がやって来た。


「い、いらっしゃいませ」


声をかけると同時に先輩の売り子であるマリアがお店の奥から現れた。マリアは優雅な動きでドレスを手に取り、お客さんに見せる仕草がとても自然だった。


「こちらのドレスは最新のデザインで、柔らかなシルク素材を使っています。特に、ウエストラインが綺麗に見えるように仕立てられています」とエレナが説明すると、お客さんは興味深そうにドレスを手に取った。


「本当に美しいドレスですね」


マリアはお客さんを試着室へ案内し、ドレスを試着するのを手伝った。お客さんがドレスを着ると、その美しさに目を見張った。


「素晴らしいです!このドレス、私にぴったりですわ」とお客さんが喜んで言った。


エレナも嬉しそうに微笑んだ。「お似合いです。とても綺麗です」


お客さんはそのドレスを購入し、エレナに感謝の言葉を述べて店を後にした。エレナは初めての売り子としての仕事に満足感を感じた。


「出来上がるのが楽しみだわ」


その後ものお客さんに対応し、それぞれに丁寧な接客を心掛けた。彼女の明るい性格と優れた接客態度は、次第にお客さんたちからも好評を得るようになった。


ある日、エレナは特に難しいお客さんに出会った。そのお客さんはどのドレスを見ても満足しなかった。


「何かドレスをお探しですか?」とエレナが尋ねると、お客さんはため息をついた。


「特別な日に着るドレスを探しているのですが、まだピンとくるものが見つからなくて…」


エレナは一緒に考えピッタリ似合うドレスを探した。

「こちらのドレスはいかがでしょうか?貴方の本当の美しさを引き出す魔法が込められております。特別な日にピッタリの特別なドレスですよ」


そのドレスは、一見すると上品なアイボリー色のシルクで仕立てられているように見えるが、光が当たるたびに幻想的な輝きを放つ。ドレス全体には無数のオパールが散りばめられており、これらの宝石が光を受けるたびに、虹のような美しい色合いが表れる。


オパールの石が施されたドレスは細かく精巧に作られ、ハート型のネックラインには、大小さまざまなオパールが贅沢に使われており、まるで無数の星が集まって輝く夜空のようだ。胸元からウエストにかけて着る者のシルエットを美しく強調している。


スカート部分は、軽やかなチュールとシルクの重ね合わせで構成されており、歩くたびに柔らかく波打つ。チュールの層には、オパールが散りばめられており、光が当たるたびに色とりどりの光を反射して、まるでオーロラが揺れているかのような美しい効果を生み出している。


背中部分には、シンプルなリボンが結ばれており、リボンの結び目が歩くたびに軽やかに揺れ、見る人を引きつけてやまない。


このドレスの特別な魔法の力は、宝石の持つ「希望と変化をもたらす」エネルギーに由来している。ドレスを纏った者は、自分の中に秘めた可能性と美しさを引き出され、その輝きを存分に発揮できるようになる。 


お客様はそのドレスを試着し、鏡の前で自分の姿を見つめた。

「なんて素敵なの本当に素晴らしいドレスだわ!!」


エレナは心から嬉しそうに微笑んだ。

「お気に召していただけて良かったです」


売り場での仕事を通じて、ますます自信をつけていった。彼女はお客さんの笑顔を見るたびに、自分の仕事に誇りを感じ、新たな目標に向かって進んでいくのだった。




ある日、エレナはモデルだけでなく、売り子としても店に立ちたいという思いが芽生えた。


「私、お店にも立ってみたいんです。お手伝いとしてでもいいから、もっと経験を積みたいんです。」


セレスティアはエレナの目をじっと見つめ、微笑んだ。「そうね、それもいい考えだわ。あなたならきっと素晴らしい売り子になれるでしょう。」


こうして、エレナはお手伝いではなく、ドレス工房の売り子としても店に立つことになった。新しい挑戦に胸を膨らませながら、彼女は自分の成長を感じ、さらなる夢を追いかける決意を持ったのだ。

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