第8話

「うっわ、ひっどい顔」

久しぶりに光と会った。

「どうしたん?それ」

「……蹴られた」

光の顔には真っ白な湿布が貼られていた。若干腫れてるか。

「なぁ、輝斗?」

「どうした?…」

「……あの、…」

「……やっぱなんもないわ。」

「なんだよ、なにもないのかよ」

あぁ、会話が続かない。なんでこいつ今日こんなに暗いんだよ。


ドスッ


僕は後ろからリュックを叩いた。

「なぁ、元気出せよ!お前らしくないぞ!」

「あぁ、そうだな」

そう言って、ニコッと笑った。

「ところで、お前、なんであんな長い間休んでたんだ?」

「……えっと、それは……ほら!あれだよ、あれ!……えっと、体調不良だよ!」

昨日まで体調不良者だったとは思えないくらいの元気だな。

「本当に?」

「……うん」

だんだん自信無くしてってるじゃん。

「昨日は何時に寝た?」

光は少し考える素振りをしてから言った。


「……10時4分くらい……かな……」


流石に嘘にも程がある。昨日のメッセージ、返信返ってきた時間、4時だったからな。それに、そんな早く寝てるなら、なぜ今目の下に隈ができているのか。


なぜそんな嘘をつく必要がある?


「お前、なんか隠してるだろ」

「…⁈……え、あ、いや、なにも……」

そうやって目線を逸らす。

「ほーら、隠してる。別に、話せとは言わないけど、なんかあったら、えっと……その、なんか聞くからな」

珍しく、柄にもないことをした。

断じて、光のことが心配で言ったわけじゃない。断じて、だ。

「……どした?」

「へ?」

「……なんか、お前らしくないな」

「僕らしいってなんだよ!こっちは心配してやってんだ!素直に受け取れ!!」

僕はそう言い放った。あ、言っちゃった。少々、照れ臭いセリフだったかもな。


「ありがと」


あまりに素直すぎて、びっくりした。マジで言ってる?

「めずらしい、みたいな反応すんな!」

別にいいだろ。

「こう見えて、俺は今でも出会ったあの日に感謝してるんだぜ?」

「おっ、おう……」

「あの日、お前とあっていなきゃ、俺は今ここにはいないかもしれないわけだし?」

「どれだけ、もしもの話してるんだよ。それは流石にないだろ」

流石に、いないってことはないだろ。言い過ぎだ。

「……でも、それでも感謝してる」

「ありがと、輝斗」

なんだよそれ。らしくないな。しかも、ちょっと照れてるのが、いちばん光らしくない。

僕は、その、少々照れ臭くてそっぽをむいて笑った。

流石に見られるのは恥ずかしかったからな。



帰りの踏切に差し掛かった。

気まずい……

お互いがお互い照れ臭いセリフを放ったおかげで、過去1気まずい空気が流れてるよ……

そんな気まずい空気をかき消すように電車が通った。


「あっ、あぁ、そういえばさ、前言ってた話あるだろ?」

そんな空気に耐えられなかったのか、光が無理やり話題を変えた。

「なんの話だっけ」

「ほら、えっと、あれだよ。……どうして俺しかうんこが見えないかって話」

「ああ、そんな話あったね」

「うんこは僕に取り憑いてるらしくて、取り憑かれた人しか見えないんだってさ」

「じゃあ、僕が取り憑かれてたら、その、ウンコは見えたってこと?」

「うん……多分」

「どうやったら、その、えっと、ウンコはお前から離れるんだ」

何気ない質問だった。


「俺が死んだらだってさ!」


そう言って、笑った。

今までのような不自然な笑顔じゃない、今まででいちばん普通の笑顔。

無邪気な子供のような、純粋な笑顔。

「……そっか……」

なにを思ったのかわからないが、それを聞いて、僕は明るい気持ちにはならなかった。


「じゃあな!輝斗!学校誘ってくれてありがとな!」

「……あぁ、じゃあな」

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