第6話食事前のお祈りって、普通、もっと厳かだろ

 キョウダイたちが着席した食卓は、シックかつ重厚な木製ダイニングテーブルで、この落ち着いたコテージにぴったりだった。


 そしてそのテーブルの上には、所せましと料理が並べられている。……が、その料理に統一感はない。


 刺身、ビール、焼き鳥などの居酒屋メニューがあるかと思えば、その隣にはドリアにピザ、パスタといったイタリアンが並び、ケーキ、たこ焼き、あげくのはてにはチョコバナナや焼きもろこしといったお祭りメニューまで用意されている。当然のことながら全て3Dモデルで作成されたバーチャル料理である。


 この多国籍軍料理の中でひときわ存在感を放つのは、テーブルの中央にある山盛りの餃子であった。


 ナツキは、その餃子の山からひょこっと顔を出して、キョウダイたちを見渡した。


「じゃあ、今日もいつもみたいにお祈りするよ」


 ナツキが両手を合わせると、ジョウジ、アオイ、ツバサもそれにならった。


 刹那、静寂が場を支配するが、ナツキの凄まじい大声が轟くように響き渡り、その静けさは一瞬で打ち砕かれた。


「ひとつ! ウチらキョウダイは離れていても心はひとつ!」


「「「ひとつ! ウチらキョウダイは離れていても心はひとつ!」」」


 声デッカ(笑)とアオイがつぶやいたのも構わず、ナツキは大声量で二の句を継いだ。


「ひとつ! キョウダイで隠し事はマジありえない!」


「「「ひとつ! キョウダイで隠し事はマジありえない!」」」


 ツバサは、教室で教科書を朗読するように、一つ一つの単語をはっきりと区切って発音している。が、合間合間でクスクスと忍び笑いを漏らした。気合が入りすぎているナツキのことが面白くてしようがないようだ。


「ひとつ! 産んでくれたお母ちゃんに、今日も感謝!」


「「「ひとつ! 産んでくれたお母ちゃんに、今日も感謝!」」」


「いただきます!」


「「「いただきます!!」」」


 四人は、山盛りのバーチャル餃子を一斉につまんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る