不可抗力なストーカー
「ありがとうございました!」
「お大事にね」
退院するパティアが先生と挨拶を交わす。
「街を守ってくれてありがとう!」
「頑張ったな!」
パティアを労うのは、退院の話を聞きつけた街の人たち。
“旅のエルフ、街に潜む魔物を討伐!”
今一番ホットな話題の中心人物なんだから当然か。
『人気者だねえ』
「えへへ、なんだか照れちゃいます!」
まんざらでもないパティアの後ろを、私は憑いていく。憑いて行かざるを得ない。
しばらく前の、病室でのやり取りを思い出す。
「離れられない……んですか?」
パティアが怪訝な顔をするのも無理もない。起きた直後に謎の幽霊から不可抗力ストーカー宣言なんてされたら、ねえ?
『うん。たぶんこれも私の声が聞こえるのと同じ理由』
「魂がくっついちゃったから、ですね!なるほどです!」
適当に言ったのが、まさしくそのまま“くっついてる”とは思わなかったよ。
……ていうかノリ軽いな!
『い、イヤじゃないの?』
「うーん、私からは声しか聞こえませんし、あんまり付き纏われてるって感じはしないです。それに……」
『それに……?』
「ずっとお話できるって楽しくないですか?」
そんなわけ……あるよ……あなた以上に。
で、現在。
背後霊モードでパティアにくっついている私である。これ、意外と楽だ〜。
「でもやっぱりレイさんが自由に動けないのは可哀想です」
宿のベッドに腰掛けたパティアが申し訳無さそうな顔をした。
『それなんだけど、気になることがいくつかあるんだ』
「なんですか?」
『今の私は街を出られるのか問題』
私は地縛霊。この街に閉じ込められて二百年。
でも今は?
パティアに取り憑いた形になった今はどうなんだろう?
『それと、魔法の問題。もしかしたら、今のあなたなら魔法が使えるかもしれない』
「魔法……」
そう。
改めてパティアに聞いた所、やっぱり彼女は魔法の使えないエルフだった。
彼女曰く、魔法が得意な種族として知られるエルフの中にも、たまに産まれるらしい。
魔法の才能のまったく無いエルフが。
エルフの時間感覚での“たまに”だから、それこそ数百年、数千年に一度のレベルかもしれないけど。
憑依した時は私の意思で魔法が使えた。射程が目も当てられない短さだったけど、とにかく使えはした。そして、パティアの意識が戻ったあとにも。
『だから、魂が繋がってる今の状態なら私の魔力をパティアも行使できるかも、って思って』
「なるほど……」
おもむろに、パティアが右手を広げて上に向ける。次の瞬間、ボゥッ!と音を立てて手の平が燃え上がった。
「スゴい!できました!」
『いやまあ、できてはいるけど……』
火力が弱い。まさしく“弱火”と言っていい。これじゃ中華料理は作れなさそうだ。
『憑依してないからかな。私の魔力はもっとスゴいんだから。こうブワーッと……』
言いながら、そのイメージを浮かべた。
同時に、パティアの魔法が一気にその火力を増した!弱火が極強火になり、炎の輝きが部屋中を照らす!
これなら中華料理も……って違う!
『ウワーッ!ストップストップ!火事になっちゃう!』
「大丈夫です!これ燃えてるの手の平だけですよ!」
『そ、そっか、射程は……いやあんたはなんでそんな落ち着いてるの!?』
「あ、ほら消えてきますよ」
私が意識を向けるのをやめると炎はその勢いを弱め、消えた。
『これ、もしかして……』
その後何度か実験してみた所、パティアの魔法の出力は私の意志に連動していると分かった。
つまり、二人が同時に魔法を発動すればチート魔法が使える。
水道みたいなものだ。
私は元栓。パティアは蛇口。
その蛇口は普段ちょっとしか水が出ないけど、元栓を開けるとドバーッと出る。
ちなみに水魔法は宿を水浸しにしかねないので試してない。
『ま、射程が短いんじゃ結局普通の魔法としては使えないけどね』
「でも私、嬉しいです!急に魔法が使えるようになるなんて思ってもみませんでした!」
パティアが心底嬉しそうにニコニコと笑う。
ふむ。あまり水を差したくないけど、魔法の天才として言っておかねば。
『使えてないよ。ただ魔力を垂れ流してるだけ。精度もまだまだ。弱くてももっと洗練させなきゃ。練習あるのみ!』
「修行ですね!気と一緒ですね!」
『あ〜それ、“気”。気になってたんだ』
“気”だけにね。
『最初は眉唾かと思ってたけど、憑依した時になんかこう、身体が軽くなる感じがしたの。あれが“気”なの?』
「おお、レイさんも感じましたか。そうです!気はスゴいんですよ!身体が軽くなるし、打撃の威力も上がるんです」
『気ってなんなの?』
「よく分かりません!」
分からんのかい!
「オシショーさんに扱い方は教えてもらったんですけど、“気とは何か……それを理解するのもまた修行……”って言って教えてくれませんでした!」
気ってなんなんだ?
『それお師匠さんとやらも分かってないんじゃないの?』
「あっ!そうかもしれませんね!」
え、今気付いたの?
『あなた人を信用しすぎって言われない?よく一人旅できたね』
「よく言われます!でも、騙されても倒せば問題ないです!」
シュッシュッとシャドーボクシングするパティア。いや、問題なくはないでしょ。
『はぁ、まあいいや。それより、これからどうする?』
「とりあえず、街から出られるか試してみましょうよ」
『ああ、そうだった』
自分で最初に言ったのに忘れてた。
「出られずに、私と離れられるかもしれませんし。それを確かめてから考えませんか?」
『……そう、ね。……うん、そうしよう』
離れるかもしれない。
街か、パティアのどちらかと。
私が選べるわけじゃない。
でももし選べるとしても、私はどちらを選んでいいのか分からなかった。
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