状況:反撃

 俺はクレアとリリィと共に城壁にいた。

 駄犬の最後の一言によって俺のテンションは最悪だったが、まあその話はいったん忘れよう。

 男に触れるって考えただけで気色悪いしな。


「しかし本当に凄いな……」


 海斗の戦いぶりを見て、俺は思わずつぶやいた。

 巨大な火の玉が次々と飛び出し、雷鳴が轟く。その姿はまるで英雄か何かのようだ。まさに俺がやりたかった俺TUEEEEを完全にやってのけている。


 でもその功績も俺のものになるわけだ。

 フフフ、何しろあのバカを召喚したということになっているのは俺。つまり俺が支配者。

 クレアの素晴らしい機転により俺は影の覇者としての地位を確立したのだ。

 まあ不満な点を言うのであれば、もう少し影っぽさを出して表面上の無能感を演出したいところだったが、贅沢は言うまい。

 そうだな……せっかく世界の頂点に立った風になっているし、影の覇者ムーブでもぶちかましてみるか。


「海斗よ、素晴らしき働きをしているな。貴様はまさに、私の一部となりつつある」


 どうだ!?

 なんか覇者っぽくないか?


「ア、アリシア様!? 一部になるってどういう意味ですか!?」


 え、なんでリリィ慌ててるの?

 そりゃだって俺の下僕として、これから奴隷のごとき働きをしてもらうわけだからな。

 しかもその功績はすべて俺……まさに俺の一部といっても過言ではない。


「リリィよ、あわてるな。大したことではない私と奴は一つとなる……そういっているだけだ」

「アリシア様……!?」


 今度はクレアまで目を見開いて俺を見ている。

 なんでだ。


「そ、そのアリシア様、それってつまり海斗のことを」


 どうした、リリィ。なんか絶望の表情浮かべてない?

 海斗のことはちょうどいい戦闘奴隷だと思ってるよ。

 あ、そういう意味だと認めたということになるのかな。

 でも安心してほしい。リリィのヤンデレ枠はそのままとっておくから。


「そうだ。私が認めるべき者ということだ。もちろんリリィのことはとても頼りにしているが、それとは別の方向としてな」

「そんなっ……」


 なぜかリリィが足から崩れ落ちてる。

 フォローしただろ、リリィは頼りにしているって。おかしいな。

 そもそもリリィと海斗は軸が違うんだよ。海斗は奴隷枠だから。


「アリシア様……すでにそこまでの決意をされていたとは」


 アリシアまで何を言っているんだ。

 しかも決意ってなに?

 ぼろ雑巾になるまで海斗を使いつぶす決意はあるけど。


「『闇が私を呼んでいる』と、言い周囲をドン引きさせ、さらには『私は永遠に闇と共に生きるのだ』と、縁談を断り続けたアリシア様が……ついに……!」

「え? えーっと……?」


 故アリシアの厨二病セリフと縁談が何の関係があるんだ。

 というかアリシアお前、縁談断り続けてたのか。王女のくせに。

 あ、でも考えようによってはそのおかげで俺は追放系王女にならなくて済んだのかもしれない。

 ほら、アリシアって厨二病全開で人に合わせられなそうだしな。追放系の主人公オーラしか出てないだろ。


「アリシア様……私は認めませんよ!! 絶対に絶対に絶対に破談させます!」


 リリィはリリィでいつの間にか立ち直り俺に顔を近づけてめっちゃまくし立ててくるじゃん。

 あ、泥臭い戦場の香りの中に漂うリリィの女の子の香り……天国かな。

 そもそも破断ってなんか壊すつもりか。

 もしかしてストレスをためすぎて物に当たらないとやってれないとか。

 影の覇者そして王女としてリリィのストレス軽減を考えてやる必要がありそうだ。

 俺はそっとリリィの肩に手を添える。


「リリィ、当たるのはよくないよ? 辛いことがあったら聞くから」

「……海斗、許すまじ」


 え、怖い。

 海斗すごい恨まれてるな。あのウザい性格とイケメン風顔面偏差ならだれでもウザいよな。

 イケメンは男の敵だ。


「アリシア様、この防衛戦に勝てた暁には、海斗様と――」

「クレア、それは死亡フラグだからそれ以上は言うのをやめよう」


 ふぅ、危ない。

 クレアのフラグで国が亡ぶところだった。


「ふ、終わったぜ」


 フラグを回収する前に戦闘奴隷が帰ってきた。

 なんだよ、もっと擦り切れて帰って来いよ。ほら、平和な日本から転移したんだろ。魔物を倒して「う、俺は……」とかないの?

 ……なさそうだな。


「アリシア、見てみな。俺の勝利だ」


 途中からリリィとクレアの反応に忙しくて全然見てなかったわ。

 でも確かになんか歓声あがってる。

 ふ、この歓声が全て俺を褒めたたえる歓声か。素晴らしい。


「どうだ? 好感度はあがったか?」


 ゲームのつもりかこいつ。

 俺の好感度はゼロからみじんも動かないけどな。むしろ嫌悪度が急上昇だ。


「あがるわけ……」

「上がっていますよ、ね? アリシア様?」


 え、クレア?

 クレアの好感度上がってるの!?

 ……まあそっか。そうだよな、国救っちゃってるんだからな。普通の女の子なら好感度が上がってもおかしくない状況だ。度し難いことに。

 クソ、海斗の野郎、この国でのチーレムは許さんぞ。

 クレアは魔の手に落ちたが、これ以上は俺が食い止める。

 なんならクレアの好感度も下げさせる。


「クレア、海斗は碌なやつじゃない。だから好意を持つのはやめた方がいい」

「ふふ、アリシア様、照れているんですか? 可愛いですね」


 俺が照れる要素あったか?

 クレアはいったい何を勘違いしているんだ。


「海斗様、少しこちらに」


 俺が混乱しているとクレアが海斗を連れ出し二人きりになろうとしている。

 おいまて、クレアが海斗の毒牙にかかってしまう。

 これは何としても防がねば。


「クレア! 待って! 二人でどこにいくんだ!?」

「アリシア様、心配しなくても大丈夫ですよ。少しお借りするだけですから」


 借りるって何を!?

 もはや心配しかないんだが。

 クソ、やはり俺が間に入るしかない。


「離れろ、海斗! 近づきすぎだ!」


 俺はクレアと海斗の間に割って入る。


「アリシア様、こんなに必死になって。本当に可愛いですね」


 そりゃ必死にもなるだろ、クレアが海斗に惚れてるなんて最悪だ。

 チーレムなんぞ俺以外には絶対に作らせんからな!!

 と、必死で俺がクレアと海斗を引きはがしたかと思うと今度は海斗が俺に手をまわしてきた。

 鳥肌が立つからやめろ。


「アリシア、心配しなくてもいい」


 いや、心配しかねーんだが!?

 俺は海斗の手を払いのけて、


「クレアに手を出したら許さんからな!!」

「ふ、わかってるさ。照れるなよ、アリシア」

「素直じゃないですね、アリシア様」


 わかってるさ、じゃねーよ!

 こいつ絶対チーレム作ろうとしてるだろ。いつか必ず闇討ちしてやる。


「さて、アリシア様のお話はここまでにして、勝利を宣言しなければ締まりませんね」


 まて、俺の話じゃないだろ。むしろクレアの話なんだが!?

 なんで俺の話になってる。

 しかし俺がツッコミを入れる前にクレアは宙に模様を描き、その模様に向かって声を発する。


「皆さん」


 クレアがそういうと、まるで城から声が出ているかのように声が拡散される。

 拡声する魔法か。というかクレアは本当に何でもできるんだな。

 そんなクレアを誑かすクソチート許すまじ。


「アリシア様が異界より召喚した勇者、カイトによって此度の戦争――そして今後の戦の転機を迎えるでしょう! ここからが反撃の時です!」


 すると城、街から体が震えるほどの歓声が広がる。

 クレアはそこで区切って拡声魔法の前から一歩離れて俺を拡声魔法の前に促す。


「アリシア様、勝利の宣言を」


 え、俺、影の覇者なんだけど。

 これじゃあ完全に超有能なチート(チートなし)な俺TUEEEE展開じゃん。

 ……ふ、悪くない。

 よーし、言ってやるぜ。


「みんな、私たちの勝利だ!!!」

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