陰謀:追跡

 暗い一室で俺はひとり、目をギラギラと光らせていた。

 まるで影の勇者——いや、ここまで行くと影の覇者って感じだな。うん、影の覇者、悪くない。まさにこれから俺が活躍する俺TUEEEEの名に相応しい。

 だが、夜の帝王ってのも捨てがたいか? いやいや、それじゃただの闇市の親玉だろ。


 おっと、話がそれてしまった。

 俺が言いたいのは今後の俺の活躍じゃなくて今の俺の活躍よ。

 ようは、やっと監視が外れたってことだ。


 アリシアは16歳の女。ちなみに中身は精神は30超えたおっさん。一人で眠れなーいなんてことはない。

 つまりどういうことかって?

 簡単よ、クレアもリリィもそのほかの侍女たちもみんな俺の部屋にはいない。

 ようやく監視の目が外れて『幻惑の瞳』を試せに行けるってわけだ。


「ま、それに満月の夜に秘密の作戦を決行するってのも気になるし……ん? 満月の夜に秘密の作戦に決行するって言ってたっけ? なんか違うような……まあいいか」


 しかしこうして一人で話すと考えもまとまるな。

 影の覇者たるもの、一人で考えをまとめ最適解を導き出すのは必須スキルだ。ふ、相変わらず自分の才能が恐ろしい。


「さて、まずはリカルドのヤツを探すか。ヤツを幻惑の瞳でこちら側に引き込み、芋ずる式に一網打尽、覇者誕生の瞬間だ」


 と、俺は意気込んで外に出てみたもののあいつどこにいるんだ?

 さすがに部屋の中でもなければ俺の位置を教えるかの如く大声出すわけにもいかない。

 大声出したらクレアがすっ飛んできそうだし。

 そもそも覇者ムーブ的には大声出すってダサいからなしだ。


 そんなことを考えながら影に紛れうろうろしていると、まるで示し合わせたかのように中庭をリカルドのヤツが抜けていくのが見えた。

 ご都合主義、ここに極まり。

 ついに俺も主人公ムーブができるようになったわけか。

 ふははは!

 俺の能力、それは影の覇者!

 これでチーレム作っていくぜ。心と体のバベルはチーレム作ればきっと大魔道がいるから大丈夫。

 俺のウィニングロード、見えたぜ……!


 俺はひっそりと影に潜み、影になりきってリカルドの後を追う。

 中庭を抜け地下へと続く道へ進んでいく。

 地下に進んでいくってあたりがもう怪しさしか感じないな。悪役といえば地下で秘密の会合……ふ、名推理が恐ろしい。天は俺にいくつもの才能をちりばめるのだ。

 それにしても、クレアは「リカルドとアズリューク家はあまり関連は薄い」って言ってたが、夜・地下・俺の尾行とくればどう見てもクロ・オブ・クロ。

 カーッ! 才能が恨めしい。



 そんなことを思いながらついていくが、前を行くリカルドは地下深くへと降りていく。

 にしても地下に向かっていくってのはわかるが、城内にこんなところあったんだな。暗くてよく見えないけど人食い植物とかいそうで嫌だな。

 俺は俺TUEEEEムーブだけはできない代わりに配下TUEEEEムーブだから今この配下なし状況でスライムが現れた! とかやられると困るんだよ。


 と、リカルドの足音が止まる。


「遅かったな、リカルド」

「……すまなかった」


 おっと、ついに本命が来たか。

 俺的主人公ムーブの中では確実に存在するご都合主義の塊、そうなぜか置いてあるほぼ新品の木箱の裏に隠れてこっそりと覗き見る。

 うーむ、リカルドの貴族界隈で揉まれた腐敗集が漂う背中は見えるが、奥のヤツは暗くて見えないな。


「首尾はどうだ?」

「抜かりなく」


 おーっと、ここで俺の聴きたい悪役セリフ第73番目のセリフが出たぞ!

 しかしこの声、昼間聞いた声に似ているような気がするな。

 この野太い牛っぽい感じ、最後に「も~」とか付けたらいい感じにミノタウロスっぽいキャラになれそうだな。


「そうか」


 聞けば聞くほど似ている気がする。

 間違いない、これは闇落ちしたダークサイドの住人だな。

 つまりアズリューク家の人間だ。


「ああ、次の満月の夜……」

「そこまで言う必要はない。どこにネズミがいるかわからんからな」


 ネズミ……!?

 まさか、俺のこと言ってんのか?

 いや、違うな。主人公ムーブしている俺は気づかれそうで気づかれない。

 つまりあのよくわかんない牛野郎の言っているのは部屋にネズミがいるってことだろ。はぁ俺、そういうの苦手なんだよな。


「まさか」

「用心に越したことはない」


 こいつらどれだけネズミにビビってんだよ。

 男だろ、しっかりしろよ。

 にしても、次の満月の夜……やっぱり企んでたか。

 そういう下らないたくらみはさっさとつぶさないとな。

 よーし、ちょっと目は見えないが『幻惑の瞳』! ご都合主義も相まって目を見なくても発動しろ……!


(さっさと切り上げて中途半端な計画となりとん挫しろ……!)


「確かにそれもそうか……今日は終わるとしよう」


 ふ、俺の『幻惑の瞳』冴えてるな。

 この中途半端な感じで密会を終えなければならない感じ、まさに破綻だ。

 ククク、お前たちはもう俺の掌の上だ。

 影の支配者としてお前たちを支配してやろう……気づかぬうちにな……ッ!

 そういうとリカルドは黒くてよく見えない男の首筋のところに顔を寄せた。

 え、もしかしてそういう関係なのか……? おいおいおいおい、待てよ。おっさん同士そういう関係だったの!?


「うむ」


 そういうとよく見えないヤツとリカルドはそれぞれ反対方向に歩いていく。恋人同士、別れを惜しむかのように……てやめろ!

 地下深くで妙なたくらみやってると思ったらそんな関係性までッ!

 クソ、俺は体は女になっても心は男……こういうシーンはダメなんだよな。はぁ、辛いもん見せられた。

 そういうのは隠れてやれよな。

 あ、隠れてはいたか。

 まあ……リカルドのヤツもいなくなったし俺もこっそり戻るとするか。


 俺はだれもいなくなった地下から一人、音もなく去るのだった。

 影の覇者として。

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