第9話 夏祭りワーク


「なんで夏祭りまで仕事を」


「すまない。木戸先輩は約束もあっただろう......」


 一学期が終わり、夏休みとなった。

 夏休みが始まってから割とすぐに夏祭りがある。高校の夏休みと中学校の夏休みの始まりがずれているので、高校の夏休みが始まってから早くに夏祭りがあるのだ。


 俺たちの通う高校はこの中学と仲が良く、俺らの高校に通っている生徒ならだれでも中学の夏祭りに歓迎するというほどだ。

 このような信用があるのは、毎年生徒会がこの中学の手伝いをしたり、何かトラブルが合った時に積極的に手助けをしているかららしい。


「いいじゃないですか。莉子ちゃ......人助けができるんですし!!」


「霧島はいつもお気楽そうでいいな」


 夏祭りの手伝いと言っても、実際に屋台に出てものを売るとかではなく、屋台や花火会場の神輿の設置の手伝いだ。夏祭りが開催する前にその作業をした後、俺は雄二と合流する予定である。


「甘田、浴衣着てて作業しにくくないか?」


 確かに、霧島と甘田さんは浴衣を着ている。

 霧島はド正直に言うと体型がボッキュンなので、なかなかほうほうって感じ。甘田さんは小っちゃくて可愛らしく母性本能くすぐられる感じ。俺男だけど。


「大丈夫です剣音先輩。そんなに大きな作業は先生や地域の方々がやってくれるので」


「そうか」


 聖はそう甘田さんに言うと、花ヶ咲を連れて自分の担当の場所へ行ってしまった。

 

 聖は三年生の生徒会会計であり、高身長、高顔面偏差値、高運動神経という最強の男子生徒だ。有名大学からサッカーの推薦をもらっているらしく、噂ではめちゃくそ可愛くて胸がデカい(ここ重要)彼女がいるらしい。


「全く不愛想な先輩だこと、ね?莉子ちゃん?」


「......」


 甘田さんは無言で校庭の砂をじっくりと見つめながら、うつむいていた。

 俺は分からなかったが、そんなに気に障るようなことを聖は言ったのだろうか。


「ん?どうかした?」


「いや、大丈夫です霧島先輩。持ち場へ行きましょう」


「も~愛莉好先輩でいいですって~。あ!ちなみにアーちゃん先輩ワンダホーでもいいですよ!!」


 甘田さんの小さな腕をさわさわ変態のように触りながら霧島は持ち場に行った。

 確か自転車置き場を整理したりするらしい。実際に自転車を動かしたりするわけではなく、テープを張って場所を示すだけなので確かに簡単な仕事だ。


 俺の当番は屋台の店を組み立てたり、各店の準備をしたりすることだ。まぁやるとしても数店舗だが、地域の人からしたら結構助かるらしい。


「イケるっすか?」


「行けるけどその言い方やめて。興ふ......気を使うから」


「いやっす。」


 甘田さんたちとは逆に、浴衣を着ていない荒澤とやり取りをする。

 生徒会役員二人一組で作業をするのが、俺のペアは一年の荒澤満穂、外務だ。

 外務ってなにすんねんって思っていたが、どうやらこういう夏祭りとかの他校と関わる時、中心的に仕切ったりするらしい。


 そんなことは置いておいて、荒澤は表情の起伏がない。少ないとかじゃなくてないのだ。

 感情がないわけではなく、心の中ではうれしいとか緊張するとか腹がちぎれそうとか思っているらしい。


「じゃ、行くか」


「はい、イくっす。木戸先輩。」


 だからそう言うと意味が変わるんだって。


 学校の校庭の縁に沿うように屋台が設置され、ちょうど真ん中のあたりがすっぽり空いている状態だ。そこに神輿があって盆踊りのようなものが開催されたり、花火が上がったりする。


「木戸先輩は誰かと約束してるんすか?」


「あぁ。妹と雄二とな」


「なるほど、あそこにいる方っすか。」


「え?」


 視線の先を見ると、ピンクのシュシュで髪を止め、淡い桃色の花が散らばる黒い浴衣を着た泉菜が、屋台のおじさんの手伝いをしていた。

 泉菜はこちらに気づいたようで、持っていたパイプ椅子をおろしてこちらへと走ってきた。

 下駄をはいており走りにくそうなのでそこで待っていろ、と手で合図をして泉菜の方へ向かう。


「なんで泉菜がここにいるんだ?」


「兄者がしっかり仕事できるか心配で......」


「お前は親か」


「というのは冗談で、兄者だけ働かせるのは嫌なので雄二さんと暖翔ちゃんと一緒に働きに来ました。向こうにいますよ!!」


 泉菜が指さす方を見ると、神輿のあたりで暖翔さんと雄二がなんかやってる。あいにく俺はあんまり目が良くないので何をしているかは見えないがしっかりと仕事をしてくれているっぽい。


「隣の方は?」


「あぁ、同じ生徒会の外務、荒澤満穂だ。まぁ紹介するほど仲良くもないんだがな」


「こんにちは、荒澤っす。妹さんっすか?かわいいっすね。浴衣の下って何か着ているんすか?」


 無表情のまま、泉菜と鼻が当たるんじゃないかと思うほど至近距離に近づき、泉菜の下着事情について聞いている。生徒会メンバーおかしい奴しかいないんか。


「え、えぇ!!えっと......は、履いてます......ょ」


「おい」


 これは、荒澤に対してそんなこと聞くなって叱ったわけであって、別に下着履いてることにがっかりして咄嗟に出たとかじゃ決してないからな。


「じゃあ、後で見せてもらっていいっすか。」


「だ、ダメですよ!!私の下着姿は兄者のもので......」


「それはそれでおかしいからな」


「違うっす。ウチはあなたの下着を見たいだけっす。でも、ウチはあなたの下着を見たいっす。」


「逆接って知ってる?」


「兄者ぁ。この方無表情で泉菜の下着のこと聞いてきます!!ちょっぴり怖いです!!」


「おじさん、なんか仕事ある?」


 顔を少し赤くしながら、荒澤に詰められている泉菜が少し面白かったのでそのままにして、おじさんに仕事をもらうことにした。

 

「若いもんはいいのぉ」


「そんなベタなことを......」


「一回言ってみたかったんじゃ」


 おじさんは店の傍らに置かれている大きめの段ボールを向かい側の店まで運んでほしいらしい。結構重労働だが、荒澤や泉菜に持たせるわけにもいかないので、自分で持っていくことにする。

 段ボールは二つあるので、往復する必要がありそうだ。


「よいしょっ......重!!」


「ウチも持つっす。」


 泉菜と話をつけ終わったのか俺が持ち上げた段ボールを一緒に持ってくれる。


「泉菜も持ちます!!」


「話はついたのか?」


「泉菜さんには後で個人的に下着を見せてもらうことにしたっす」


「されましたっす......」


 おい、兄を置いて個人的に下着鑑賞とはいい度胸じゃないか。なんかこの子とは気が合いそうだな。

 泉菜が諦めがついたように声をこぼすと、荒澤はぐっとガッツポーズを取った



「えへへ......兄者、両手に花ですね」


 少しダンボールを運ぶと、泉菜はすっかり機嫌が戻ったようで、そう言う。


 確かに、俺の左右に位置するように荒澤と泉菜が段ボールを持って運んでおり、はたから見たら両手に花という状況になるのだろう。


「あ、浴衣着てると前見にくくて運びにくいよな。場所変わるか?」


「そういう意味で言ってないです......」


「おう。分かってる」


「何なんですか......」


「いつからウチは木戸先輩の花になったんすか?」


 荒澤はそう俺たちを睨んでくる。


「ウチは雄二の花なんですけど......」


「「??」」


 何言ってんだこの子。ついに頭がおかしくなったのか?

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四人の義妹と一人の妹 ぺんぺでの花 @penpedenohana

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