第7話 (浴衣の色は)何色なんだ?
「義理の妹って、実際にいるものなんだな」
「まぁ俺の家庭は父さんがちょっと特殊だからな」
大体の事情を説明すると、雄二は納得というよりもお持ち帰りじゃなかった残念さを感じていそうだった。
義理の妹も今回の場合は父さんが意図的に迎え入れたものなので、このパターンは少ないと思うが、再婚するときに迎えるパターンは結構あるのでないだろうか。
「綾鷹の父さん、毎朝周りの家に挨拶して回るほど優しいって評判だもんな」
「そうだな。まぁ一周回って迷惑してそうだけど......」
父さんが暖翔さんを義妹として招待したのだって優しさからだし、結局父さんは優しさ故にいろんな人から好かれている人物なのだ。
「それを聞いたとしても、俺から綾鷹や神沢さんへの態度は何も変わらないから。あ、でもクラスの皆には言わない方がいいよな?」
「そうしてくれるとありがたい、暖翔さんはどこまで行っても美少女だからな」
我ながら、いい友達を持ったなぁと感心する。
横を見ると、美少女と言われたのがうれしかったのか少し顔を赤くして照れている。可愛い。
前を見てみると、にやにやしている雄二と嫉妬しているのかちょっぴり頬を膨らませている泉菜がこちらを見ていた。
美少女と俺が兄妹関係だということを学校で公にすれば、俺がイケメンだったらお似合いということになるが、俺は平凡なただの高校生なので、俺も暖翔さんも皆から変な距離を置かれるのはわかりきっているだろう。
「で、話は変わるんだが、神沢さん夏祭りに興味ない?」
「夏祭り......ですか?あの、かき氷とかの?」
「うん。神沢さんが良ければ一緒に行かない?」
「雄二、ナンパか?」
「ちげぇよ。綾鷹と泉菜ちゃんが良ければ四人で行かないかって話」
本当に急に話が変わったし、暖翔さん一人に向けたようなお誘いだったので、ナンパかと疑ってしまう。
俺は毎年夏祭りに行っているが、高校から雄二と仲良くなったので、高校に入るまでは泉菜と、高校に入ってからは雄二とよく行っている。
だから、二人とも行けるのはすごく楽しそうだし、暖翔さんも地域の雰囲気を感じてくれたらうれしい。
「泉菜も、暖翔ちゃんと一緒に行きたいです!!」
「神沢さんはどう?」
「私も行ってみたいです......。そ、その......私、浴衣に興味があって」
俺の家の廊下には両親の浴衣が美しく飾られており、暖翔さんは廊下を通るたびにそれを眺めてうっとりとしていた。
母さんの浴衣は、緑の葉に白色の花が黄色の生地に描かれており、黄色みの強い
茶髪の暖翔さんにはよく似合う思う。母さんなら暖翔さんに貸してくれるだろう。
「いいですね!!泉菜も浴衣着ます!!」
泉菜が目をキラキラさせながら手を挙げてそう宣言する。
夏祭りだったり、旅行だったりと、いつもと違う環境になるときに泉菜はすごくワクワクする子なのだ。おそらく今も、暖翔さんという美少女との夏祭りに心を躍らせているのだろう。
「じゃ、そういうことで。俺も特に用もないし、帰るとするわ。綾鷹、俺の家までついてきてくれる?」
■ ■ ■
雄二が俺の家に来たときはまだ真昼間だったのだが、もう夕方に差し掛かっている。
雄二を家まで送ったときに少し気になったので聞いてみたのだが、雄二が泉菜に会いたいのは、好きとかそういう理由ではないらしい。
『もっとなんというか......その......おっきいし重要な理由だから!!』
というのが雄二の意見だ。どういうことだよ。
「兄者!!ただいまです!!ボフゥ」
泉菜の声が玄関から聞こえると、そのまま玄関を走り、一直線に俺の部屋の中のベットにダイブする。
今日は母さんの仕事が早めに終わったので、暖翔さんと泉菜、母さんで買い物に行っていたのだ。
「泉菜、手洗いしてからにしなさい」
「は~い!」
「え?ベットに寝転んでいることは指摘しないの?」
「あんたからしたらご褒美でしょ?」
母さんが泉菜に注意すると、泉菜はすぐに洗面所に向かった。
泉菜が俺のベットで寝てくれると、俺が寝るたびにいい匂いがするので助かってはいるし、ご褒美だとも感じている。それは確かなのだが、母親がそれを認めてどうするんだ。
ピロンッ
俺のスマホからメールの音がする。どうせスマホゲームの通知だろうと思って無視していると、何回も連続して通知音が鳴る。
『お前何色の下着が好き?』
充電していたスマホを見てみると、雄二からのメールでこの文章が羅列されている。
こいつマジか、と思いながらも、久しぶりのメールに返信する。
『急にどうした』
『お前何色の下着が好き?』
『それしか言えないの?』
『お前何色の下着が好き?』
「兄者」
「うおぉっ!!」
お前何色の下着好きマンに気を取られていたせいか、泉菜の存在に気づけず、スマホをぶん投げてしまった。
泉菜は耳もとで俺に囁くと、俺のベットに座る。
「ど、どうしたんだ?」
「兄者、焦ってます?」
「焦ってません」
充電器が外れてしまったので、それを直しながら泉菜に応答する。というかなんで泉菜は耳もとで言ったんだ?え?メールの画面見られた?
「今日、みんなで浴衣買いに行ったんです!!」
「そうなのか。でも泉菜、浴衣持ってなかったか?」
「小っちゃくなってきましたし、暖翔ちゃんも新しいものを買いたかったそうなので、ちょうどよかったです!!」
浴衣なんて安いものでもないだろうに、母さんは太っ腹だな。
まぁ、浴衣なんて普段着るものでもないし、自分の娘にそういう時にこそ、おめかしして可愛くしたいんだろうな。
「ところで、泉菜は何色なんだ?」
「へぇ?......え、えっと......その、ちょっと恥ずかしいというか......」
「え?それって恥ずかしいことなのか?」
「......そ、そうだと思います......一般的に......」
なぜか、泉菜の顔が赤い。それに俺が何色か聞いた瞬間に、俺の目から視線をそらして話すようになった。
「そういうのは、本番のお楽しみに......」
「そ、そうか?まぁ、気になっただけだから大丈夫」
そういうと、のそのそと泉菜はベットから立ち上がり、部屋を出る。
そして、俺の部屋の扉に顔半分を隠して恥ずかしそうに、
「えっと、その......黒です......」
とつぶやき、俺の部屋から出て行った。
「......?」
浴衣の色ってそんなに恥ずかしいことなのか?確かに、自分のいつもと違う姿だし、他の人に教えるのは恥ずかしいのかもしれない。
まだ鳴りやまぬスマホの通知を確認すると、お前何色の下着好きマンが同じ質問を送りまくっていた。
お前何色の下着が好き......
あ。
「......すぅー......はぁー......。俺、やった?」
大きく深呼吸をし、今までの泉菜との会話を思い出す。
え?普通浴衣の話題なんだから、浴衣の色じゃない?泉菜から見たら俺って急に妹に下着の色聞き出す変態に見られたの?
というか、そういう意味で仮定すると......本番って......。
俺はお前何色の下着好きマンとのトーク画面を速攻閉じ、泉菜とのトーク画面を開く。
『ごめん。浴衣の色って意味だったんですけど......』
『浴衣の色も黒ですよ』
『大変申し訳ございませんでした🙇』
『いいです......気にしてないです』
この後、今日一日は泉菜とは口を聞いてもらえませんでした。
追記:ベットは泉菜のいい匂いがしました。
■ ■ ■
『お前何色の下着好き?』
『黒』
『おっ、気が合うじゃん。でも、やっぱりピンク色の下着着て、恥ずかしそうにしているのもとても趣があるのだよ』
『黙れハゲ』
『誰がハゲだよ』
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