第6話 家への訪問

「なんか最近俺の人生忙しいんだが」


「お悩み相談?それともただの厨二病?」


「黙れハゲ」


 今週は三者面談があるので、授業が午前中だけで終わる。俺は雄二と一緒に真昼の太陽がさんさんと照り付ける下校道を一緒に帰っていた。

 「誰がハゲだよ」と文句を言う外野は置いておいて、ちらほら親と一緒に歩く生徒とや、親と自転車を並走している生徒たちも見られる。


「今日転校生来たじゃん?」


「ああ、あの綾鷹とラブラブな?」


「知らない転校生ですね」


「ふふっ、わしには分かるのじゃよ少年」


 恋愛じじいが出現したことはいいとして、暖翔さんは学校をすごく楽しもうとしたあまり、授業中でもお構いなく話しかけて来る。

 例えば、「後ろに習字いっぱい並んでる!!綾鷹くんのどれですか?!」だったり、「チョークってああいったホルダーあるんですね?!」だったり、「シャーペンってどうやって芯入れるんですか?!」だったりと俺と他人のフリをすることを忘れて、めっちゃ積極的だった。


 先生も転校して初日の子にお叱りをするのは気が引けるらしく、注意せずに授業を続行していた。周りの男子生徒は暖翔さん意外と元気な子なんだ!!という興味と同時に、俺への恨みを募らせていた。


「どうせ、神沢さんと曲がり角でぶつかったりしたんだろ」


「そんなベタな」


 まぁ、義妹を迎えて学校で.....というのもベタな展開ではあるのかもしれない。


「じゃあやっぱり一目ぼれってやつなのかなぁ」


「縁起でもない事言うな」


「そうか?綾鷹成績いいし、運動も部活入ってない割にはいいし、顔も全然悪くないから俺と付き合わない?」


「厳粛にお断りさせて頂きます」


「ははっ、まぁ悲観的な性格さえ変わればモテると思うぞ~」


「余計なお世話だ」


 雄二は俺よりかは友達が多く、話す人も多い。授業中でも結構陽キャの方に加わって、陽キャもそれを迎えているように見える。

 ほんでもって、こいつは運動神経が化け物のサッカー部員で、でも勉強が全然できないという愛嬌がある。

 だから、一部の人からは普通にモテているし、雄二のことを好きな人がいるというのも聞いたことがある。


「そろそろお前の家だな。最近お前が休まないから泉菜ちゃんと話せないだぞ、もっと休め」


「ひどいこと言ってる自覚ある?」


「冗談だって、俺は綾鷹が来てくれてうれしいぞ」


 そんな恥ずかしいセリフをかっこつけることなく気軽に言うことができるのは、やはりこいつがモテる証拠なのだろう。


 泉菜は高校一年生だが、学校内で他の学年のフロアに行くことはほとんどないので、雄二は泉菜と話す機会は俺の家に来るときくらいである。

 俺も最近は体調が安定し、学校を休むことが少なくなったので、必然的に雄二と泉菜が話すことも少なくなるのだ。


 というか、なんで雄二はこんなに泉菜と話したいんだ?


「あ、兄者!!」


 家が間近になると、家を挟んで反対側から泉菜が走ってくる。


「え?お前、妹に兄者って呼ばせてんの?」


「いやいや、これはいろいろと訳があってだな」


「そうです!!兄者は泉菜が呼び始めたのですよ!!」


 泉菜が走ったからなのか少し息を荒くしながら答えるので、泉菜が持っているビニール袋を泉菜の手から俺の手へと移す。反対側から来たということはスーパーにでも行ったのだろう。


「なんか急に兄者呼びが可愛く聞こえてきた。俺もこれから綾鷹のこと兄者って呼んでいい?」


「なんでだよ」


「挨拶が遅れました!!お久しぶりです雄二さん!!兄者は私のものなので、呼んだらだめですよ!!」


「ああ、久しぶり泉菜ちゃん。それならしょうがない」


 泉菜のその言い方だとちょっと意味変わってしまうぞ。それに、そもそも俺は兄者と呼ぶのを承諾していないのだが......。


 二人とも変わらず仲良く話せていて安心する。

 この二人が、俺にとって気持ちを素直に打ち明けることのできる数少ない人なので仲良くしてくれるとすごくほんわかしてうれしい。


「兄者、久しぶりですし、雄二さんに上がってもらいませんか?」


「たしかに、いい......あ、雄二ちょっと待って」


「何も聞こえなかったことにしてお邪魔しま~す」


「どうぞどうぞ!!」


 俺の制止を聞こうとする様子なんて見せず、二人は家に入っていく。

 ちょっと待て、今俺の家に雄二を入れたら、まずいことにならないか?今はおそらく暖翔さんが家の中にいるわけで。



「......綾鷹の家庭って妹だけだよな?」


 玄関に入り、自分の靴を入れようと雄二が靴箱を開けると、俺たちの通っている高校指定の靴があることを指摘する。

 その通り、俺たちは昨日まで妹と俺一人の家族構成なのだ。昨日までは。


「はっ!兄者、暖翔さんのことばれちゃうじゃないですか......」


「今気づいたの?だからさっき止めようとしたんだけど」


 今になってやっと気づいたようで、泉菜は見るからにあわあわしながら、静かに俺に耳打ちをする。

 すると、二階の方から階段の降りる音が聞こえてくる。


「おかえりなさい、二人とも......え?」


「なるほど、もうお持ち帰りしたのか」


「何でそうなるんだよ」


 暖翔さんが俺たちの家にいることを確認した瞬間に、迷いや驚くことなくお持ち帰りの思考になる雄二に逆に関心する。

 暖翔さんは「あれ?ん?なんで?」とあたふたしながら俺と泉菜の、そして雄二の顔を交互に見ている。


 とりあえず雄二に弁明をするべく、家に上がってもらうことにした。


 ■ ■ ■


 話をするために和室へと案内し、俺たち四人分の座布団を用意する。雄二は「昔、来たことあるけど、やっぱ広いな」と呑気な事を言っている。

 俺が言うのも違う気がするが、あなたもうちょっと驚いてもいいんじゃない?


「すいません蘇我さん。今ちょうどお茶を沸かしていて出せなくて......」


「大丈夫ですよ神沢さん。こいつがお茶出さないのが悪いので」


 そう言って、雄二は俺の制服の襟をつかむので申し訳なさそうに会釈をしておく。

 暖翔さんは自分からキッチンに立ってお茶を沸かしたり、コーヒーを作ったりと、共働きの両親がいないときに家のことを積極的に手伝ってくれる。


 暖翔さんも座布団に座ってくれたので、俺は雄二に話し始める。


「えっと、まず俺は暖翔さんをお持ち帰りしていない」


「はいはい。もうすでに正式な関係になってるんだねわかります」


「わかってねぇよ」


 うんうん、と腕を組んで納得するように雄二が言うので、全力で否定しておく。

 確かに、他人の女性を家に住まわせるのは、普通、恋愛関係の人のみに許可することであるので、雄二がそう思うことにも無理はないのかもしれない。


「そうです!!兄者がお持ち帰りしたのは泉菜です!!」


「違うよ?」


「はぁ~。これだから鈍感は」


「これは鈍感なのか?」


 誰が鈍感だ。今、鈍感なのは関係ないだろ。

 ※鈍感なのは否定しないんだ。

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