第2話 義妹とは結婚できます

「私の身勝手でこちらへ上がってしまい申し訳ありません。私は神沢暖翔かみざわかのんと言います。今日からよろしくお願いします」


 スーツケースをかたわらに置き、目の前に座るのは明るめの茶髪に黄色い目をしたいかにも美少女という感じの子。どの方向から見てもお城に住んでいるお嬢様にしか見えない。


「そんなに身構えないで。これから家族になるんだし」


「ありがとうございます」


 母さんがそういうと、目の前の美少女は出されたお茶をお行儀がよさそうに飲む。


「兄者。可愛いですね?」


「だな。......父さんが違う人と見間違えてないか疑うレベルだ」


 父さんなら、間違えて日本生粋のお嬢様を家に連れてきて、後でどっかに追放されるくらいはありそうだ。

 冗談はこれくらいにして、にしても、高嶺の花だ。スタイルもいいのだが、やはり、その短くまとめられた茶髪の髪に透き通るような白い肌。また、この世の美しさを総べて見通すかのような金色の瞳、街で通りすぎると振り返るほど異次元の美貌の持ち主だ。


「母さん。神沢さんの部屋どうするんだ」


「う~ん、部屋はいっぱいあるんだけど、住めるような状態じゃないから、綾鷹の部屋に......」


「却下します」


「何で泉菜が断るんだよ」


 俺の家は一般的な家庭よりもかなり裕福だと自覚していて、俺や泉菜の部屋と同じ広さの部屋が七部屋ある。

 しかし、そのうち五部屋は荷物置き場となっており、昔の父さんの医学の本などがズラ~っと並んでいたりする。

 つまりは、掃除されてないので、神沢さんの部屋がない。


「じゃあ、泉菜にお願いしていい?」


「もちろんです!!泉菜の部屋に来てください!!」


「いいのですか?」


「はい!!語尾がかぶってるのが少し傷ですが」


「語尾?」


 ※こっちの話です


 まぁ、泉菜ならすぐに仲良くなりそうな気もする。

 一通り自己紹介が終わると、暖翔さんは母さんから近所とかスーパーとか学校とかの詳細を説明してもらってから泉菜の部屋に行くらしい。ということで、俺らは先に部屋に帰ることになった。



 もう少し家族ができることについて考えたかったが、来てしまったのであれば、家族として精一杯の歓迎をするほかない。


 でも、家族ができたからと言って、自分から何かすることはほとんどない。あるとしたら新しい家族とのぎこちなさと緊張に対する心配をするくらいだろう。


 俺はヨギボーというソファみたいなものに寝転びながら考える。

 何だか、部屋の外がガタゴトしてるな......



「綾鷹さんちょっといいですか?」


「あ、はい。どうぞ」


 俺の部屋の扉がコンコンとなるので、扉の前まで行ってから返事をして暖翔さんに入ってもらう。


 扉を開けると、先ほどまで止めていなかった茶髪の髪が高くポニーテールで結ばれている暖翔さんがいた。その姿が魅力的でこの子が本当に俺の妹になるのか、と逆に気後れしてしまう。


 そんなことを感じながら、視線を下に向けると、なぜか泉菜の部屋に持って行ったはずのスーツケースが暖翔さんの手に握られていた。


「どうかしました?」


「えっと、その......」


 俺はもしかして、と思い声をかけてみる。


「スーツケース運ぶの手伝いましょうか?」


「あ、は!はい!お願いします!!」


 ■ ■ ■


「確かにここの階段急ですもんね」


「いえいえ!!私の日々の運動不足の影響です......」


「そんなことないですよ」


 先ほど部屋の外からなっていたガタゴトとした音は暖翔さんがスーツケースを運ぶのに苦戦していた時の音なのだろう。

 俺の部屋は一階にあるが、泉菜の部屋は二階にあるので腕の細い暖翔さんが一人で運ぶのは厳しかったのかもしれない。


 スーツケースを踏ん張って持ち上げると、スーツケースの隅に「神沢暖翔」という字が見える。


「これでかのんって読むんですね」


「はい。読みにくいですよね」


「そうかもしれませんが、それよりもかっこいい字ですね。僕なんて親がお茶好きだから綾鷹ですよ?」


「ふふっ、愛されているのですね」


「そうなんですかね?」


 そんな話をしていると、もういつの間にか二階についていた。二階は柵がついていて一階を見ることができ、ダイニングテーブルやキッチンで料理をしている母さんがよく見えるようになっている。


「ありがとうございました。とても助かりました!!」


「いやいや、これから家族になるんですし、お互い様ですよ」


 暖翔さんはそう笑顔で言ってくれるので、少し照れつつも俺もできる限りの笑顔で返事を返しておく。

 からいつも親切にしてもらっているんだから俺からも暖翔さんに精一杯やってみようと思う。

 ※父上忘れてません?


「あ、あと一ついいですか?」


「な、なんでしょう?」


 そういうと、暖翔さんは俺の耳元に口を近づけてきて......


「一応、義妹とは結婚できますからね?」


「は、え......?」


 それだけ囁くと、暖翔さんは振り返って、「イズナの部屋!!」と書かれている看板を目指してスーツケースを押していった。


 そんな後ろ姿を見て一言。




 ......痴女だ。


 いや、何を思ってしまっているんだ。聞き間違えかもしれないだろう。「義妹とは決闘できますからね?」と言ったに違いない、なわけないだろ馬鹿か俺は。

 俺は頭に?を浮かべながら一階の部屋に戻るのであった。


 ※トイレから帰ってきた泉菜が、角から今の様子を見ているのを綾鷹は気づかなかったのであった。


「兄者......、嫉妬してしまいますよ」


 そう、呆れるように、吐き捨てるように言った。


 ■ ■ ■


 父さんが帰ってきた、と泉菜が俺の部屋まで伝えに来てくれ、テーブルへと向かう。すると、父さんが庭に立っており手招きをするので、玄関から回って庭へと出る。



「って、今日バーベキューなの?」


「あぁ、家族歓迎の記念にな。近所の人たち一軒一軒にBBQの煙が出るかもしれないと伝えて回ってたら遅くなってしまった」


「相変わらずすげぇ行動力だな」


 近所の人にバーベキューの煙の臭いが広がって、火事だと思ってしまうかもしれない。

 分かっていてもあまり行動できないようなことができる父さんはやっぱりすごいな。アイス食べるけど。


 奥では、もうすでに母さんが肉と野菜を焼いてくれているみたいだ。


「そんな、悪いですよ」


「何言ってんだ!!新たな家族のお迎えを記念してだ、早く食わないと綾鷹が全部食うぞ?」


「ふふっ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて、早く食べないとですね?」


 俺を人のこと考えずに食いまくる暴食家みたいに言うのはやめてほしいのだが。まぁ、暖翔さんもなんだか家族として迎えられて嬉しそうだからいいのかな?


 俺と一緒に庭に来た泉菜は、すでに焼き網の方で母さんの手伝いをしている。


「おう、どんどん食え!!これから家族が増えてくたびに焼肉するからな!!」


「「え?」」


 俺と向こうにいる泉菜まで疑問の声を上げる。

 これから、家族が増えてくたび?つまり、義妹は暖翔さんだけじゃないと......?


「......あれ?言ってなかったっけ?」


 はい。言ってないです。

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