第27話 ごめんね
「よくわかったねー」
座ってすぐ、わたしがへれんに言った。
「ああ、ステージの下ってこと?」
ここでへれんが「何が?」とか言わなくてよかったと思った。どうしてそう思ったかはわからない。
「うん」
「やっぱりソーセージの下ってへんだったもん」
へれんは舞台のほうを見たまま説明する。
サックスの女の人はますます熱をこめて吹いていて、
「ソーセージの屋台に、だったら、せめてソーセージを売ってるところ、とか、ソーセージのところ、とかでしょ? 下、っていうのにはならないよ。だから、何か聞き間違えてるに違いないと思ってたんだ」
「うん」
それはわたしも思った。
いや、どうかな?
へんだとは思った。でも、聞き間違いだってこと、少しでも考えたっけ?
「それで、
「うーん」
わたしは、へれんの顔も咲織ちゃんのいるステージも見ないで、下のほうを向いて言う。
そのへれんの目はステージの明かりを反射して輝いてるかな?
わからない。
「へれんはさ」
短く言う。
へれんが身動きしたのはわかったけれど、わたしはへれんの顔を見上げなかった。
そのままつづける。
「あの、
「ああ」
へれんがためらった。
目を伏せているので、へれんのスカートのところが見える。
へれんは右と左の手でスカートのプリーツをつまむと、そこで指を
そうだ。
へれんは緊張したときにこんなことをする。小さいときからのくせだ。
ふっ、と、小さく息をついてから、へれんはぽつっと言った。
「ごめんね」
「何が?」
言って、わたしはさっと身を起こした。
わざとじゃなかった。気がついたときには、そうやって背を伸ばしてへれんを見ていた。
座ると、背の差があんまり気にならない。
「
「うん……」
どう言えばいいのだろう?
さっきまで、それがいちばん言いたかった。へれん、こんなところでそんな話をしてる時間はないんだよ、って。
いまはどうだろう?
それに、さっきだって、ほんとうにそう言いたかったのかな?
へれんの顔を見返すのには抵抗があった。
それでステージに目をやる。
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