第24話 ソーセージの下なんじゃなくて
ドラムに軽いピアノが重なり、さらに、そこに、渋いのか明るいのか、なんか気もちのいい笛かラッパの音が重なる。
こういう音がするのって、たしかサックスって言ったかな?
向こうで、へれんもふいを突かれたみたいな顔で、空のまんなかへんを見ている。
さっき、大学生のお姉さんに声をかけられたときの、きょとんとした顔よりも、もっと、なんか、「わからない」という感じが顔に出た。そんな感じ。
あんまり美人っぽくない。
へれんのくせに。
そのサックスの吹く曲が流れていく。
「あっ」
詩織ちゃんの顔の肌はつやつやしていてきれい。
つづける。
「これ! これ」
「うん?」
たね
詩織ちゃんが言う。
「きいたこと、ある! うちで」
声はぼんやりしていたけど、言い切りかたに迷いはなかった。
「何がぁ?」
隣のたね子のほうが、ぼんやりした、緊張感のない声できく。
「だから、これ」
と言って、詩織ちゃんは、その、流れてくる音楽に鼻歌を合わせた。
「ふん、ふん、ふん、ふん、ふ、ふん、ふん、ふ、ふーん、ふふふふぅーぅん……」
「あっ!」
場違いな大声を立てたのはへれんだった。
「わかったっ!」
王妃様らしくもなく、大学生のお姉さんと余裕で話していた学者一家の中学三年生らしくもなく、叫ぶ。
「詩織ちゃん、行こ! っていうか、
それでその馬淵さんっていうヨーロッパっぽい制服の女の人にちょこんと頭を下げる。
へれんは馬淵さんの反応は見なかった。
わたしもだ。
へれんはさっさと私たちの横を通り過ぎた。横を通りながら詩織ちゃんの手をつかもうとする。でも、詩織ちゃんがすすっとへれんの横に追いついたので、手は握らなかった。
音楽は、さっきのサックスの音が休みになって、かわりに、ここまで伴奏をつけていたピアノが、上がったり下がったり、はね上がったりずんずんずんと低く響いたり、とても、華やかっていうのか、なんて言うのか、そういう音を出している。流れるようで、でもすごく変化していて、きらきらしていて、きれいだ。
「どういうこと?」
わたしが詩織ちゃんの反対側からへれんに近づいて、へれんにきく。
へれんは、おもしろそうに笑いかけ、そのまま、はっと息をのんでふんっと真顔に戻った。
それで、わたしの耳のところに口を近づける。
何だろう?
口の横に手を当てて、わたしだけに聞こえるようにして、早口で、小さい声で言った。
「ソーセージの下なんじゃなくて、ステージの下っ!」
おかしくてたまらない感じだ。
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